秋 3-11
クリスはテーブルに空の封筒とUSBを無造作に置いた。
クリスの体格では狭いパソコン付きの個室が、息苦しさを加速させるようだった。
本来ならば上に届けるべきモノだろう。
あの居住場所は政府も、しかも限られた人間にしか開示されていない。それがどういう意味なのかを、クリスは頭の中で考える。
早いうちにあのマンションからは離れた方が良いだろう。
テーブルの上に置かれたUSBを見つめる。家電量販店で売っていそうな、普通の記録媒体に思える。封筒はこれが入っている他は、文字の記入もその他の痕跡も見た限りではない。情報機関に回せばなにか分かるだろうか。いや、あの居住場所を見つけた相手が、そんなヘマをするとは思えなかった。
悪戯だろうか。
考えすぎなのではないだろうか。
落とし物を拾った人間がたまたまうちのポストに入れた、という可能性だって……そうであったら良いという思いと願いを交錯しながら、クリスはUSBをパソコンに繋いだ。
クリスは無意識に息を詰めた。指先でUSBを掴み、パソコンの端子に差し込む。
カチリ
小さな音とともに、画面の右下に「新しいデバイスが接続されました」との通知が出る。
その瞬間、背中を何かが駆け上がるような感覚があった。狭い個室の中にこもる湿った空気が、じわりと肌にまとわりつく。
「考えすぎよね……」
そう口の中で呟くものの、違和感は消えなかった。パソコンのエクスプローラーを開くと、USBの中にはただ一つのフォルダがあった。
「MOV_2203」無機質なファイル名。
何の情報もない。ただの動画ファイル。
クリスはマウスカーソルをゆっくりとファイルの上に移動させ、クリックした。
——再生開始。
画面が暗転し、次の瞬間、映し出されたのは見覚えのある場所だった。
空港の搭乗口。
人々が行き交い、アナウンスが低く響く。画面の中央、ぼんやりとしたカメラのピントの奥に、ある人物の姿が見える。
——センセ。
まぎれもなく、あの人だった。
クリスは無意識に手を握りしめる。
日付:202*年3月
その瞬間、記憶の底から冷たい波が押し寄せた。
あの日。東欧で戦争が始まった日。
あの日ならば覚えている。
当時、クリスはまだ軍に籍を置いていた。上層部が慌ただしく動き、国際情勢が一変する可能性を見据えて、情報が錯綜していた時期。
あの時、センセは何をしていた? なぜ、こんな場所に?
——いや、そもそもどうしてこれを自分が見せられている?
ぞくり、と背筋が凍る。USBを握る指先が汗ばみ、湿り気を帯びていく。
「……なんで……こんなモノ……」
呟く声が、個室の中に虚しく消えた。
そもそも漫画喫茶のPCにUSBって刺さるんか?




