春 1-4
5月。
太陽の日差しには、もう夏の気配が混じり始めていた。空は澄み渡り、風が校庭を吹き抜けるたびに、制服の裾が軽く揺れる。
まだ朝のひんやりとした空気が残る中、グラウンドには賑やかな声が響いていた。靴が砂を踏む音、どこかで笑い声が上がる。
オレは深呼吸し、手を叩いて声を張る。
「よーし! みんな集まってるな!」
「は、はーい!」
「……」
「はぁー…ダルぅ」
真面目に返事をするリサ、無言で頷くだけのコウリ、そしてあからさまにやる気のないミツキ。
三者三様の反応だったが、とりあえず全員揃っている。その後ろには、ミツキの警護兼お目付け役のクリスとトーマスが控えていた。
「なんで学校のメンツで旅行なんて行くワケ?」
「旅行じゃなくて、HR合宿だからな」
「でも軽井沢でしょ? どう考えても遊びじゃん!」
「うーん、それは……否定できない」
そんなやりとりをしつつ、一行はバスへと向かった。
校門のそばに停まっているのは、大型ではなく、ちょっと年季の入った中型の貸し切りバスだった。
「えー、結構ボロいな」
「こら、ボロでも借りるのに手間がかかったんだぞ。文句言うな」
オレの注意を受けて、ミツキが小さく舌を出す。
トーマスが運転席に乗り込み、念入りにミラーを調整するのを横目に、オレたちは次々とバスに乗り込んだ。
――その瞬間だった。
「……!」
「ちょっ、マウンテンのくせに早い!窓際ずるい!」
「あ、あの仲良くじゃんけんにしよ?じゃんけん!」
「………イヤ」
「初めて喋った!?」
魔法少女たちによる熾烈な席取り合戦が勃発。
オレが呆れていると、クリスはさっさと一番後ろの座席にどっかりと座った。
「軽井沢ねぇ。避暑地には最高だとは思うけど……まさか日本に来てバスの運転手を頼まれるとは思わなかったわ」
クリスが呆れたように呟く。
「す、すみません……」
車の免許を持っていないオレは申し訳なくて肩をすくめた。
「ま、いいわよ。運転するのはトーマスだし、あの子も喜んでるしね」
そう言って、クリスはちらりとミツキを見る。
「……別に、楽しみってわけじゃないし」
「ふぅん?」
ミツキがそっぽを向くのを見て、クリスは小さく笑う。
エンジンがかかる。バスがゆっくりと動き出し、校門を抜けて街の喧騒を離れていく。
「おー、出発ー!」
窓際のリサが、窓を少し開けて風を感じながら声を上げる。
「……もうすぐコンビニ通るよね? ちょっと寄れない?」
「乗って早々に寄り道の要求!? 早すぎるだろ!」
「えぇー、お菓子買い足したくない?」
「確かに」
「いや、納得するな!」
オレは頭を抱えながら、窓の外へ視線を向けた。
(……さて、どんな合宿になることやら)
バスは順調に進み、軽井沢への道を走り出した。