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星の子たち1  作者: あじのこ
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秋 3-1

「魔法少女は、我らの希望になれるのかな?

ねえ、魔法少女よ。

キミはどっちになりたい?」


乾いた落ち葉が足元で砕ける音。

沈む夕日の色が、まるで血のように見えた。


◇◆◇◆


夏休みも終わりかけの頃、オレは藤原雪の入院しているはずの病院へと足を運んだ。


「藤原雪さんが入院しているはずですが……え?いない?」


オレがそう言った瞬間、受付の女性は一瞬、目を大きく開いた。それから手元の書類かなにかを確認すると、少しだけ間を置いてから答えた。


「藤原雪さんなら、もう退院されていますけど……。」


その言葉に、オレは動揺を隠せなかった。


……退院している?

一体どういうことだ?


目の前の受付の女性は、もはや不審そうな視線でこちらを見ている。オレが何か悪いことをしているわけでもないのに。


さらに、彼女は何事もなかったかのように、受話器を手に取って、電話をかけ始めた。その姿勢が、どこか無遠慮で、オレの中で不安が膨らんでいく。


オレは一礼して病院を去り、そのまま次の目的地へと足を運んだ。次は、書類に記載されていた養護施設。残暑が厳しく、汗を拭いながら郊外にあるその施設に向かう。


施設に着くと、にこやかな表情をした中年の女性が出迎えてくれた。オレはそのまま案内に従い、施設の中へと足を踏み入れた。


「雪ちゃんね、そう!とっても可愛くて良い子なの!」


その女性の言葉には、どこか過剰な愛情が込められていた。オレはつい「そうですね……」と返したが、実際にはまだ藤原雪には会ってないし、顔さえ知らなかった。


「会えばきっとあなたも好きになってしまうわ」


その言葉を耳にしたとき、オレは胸の中で何かがひっかかる感覚を覚えた。あの子には、そんな「人を魅了する才能」があるのかもしれない。


それにしても、どうして彼女はこんなにも他者に愛されているのだろう。

リサとコウリの顔が浮かぶ。


オレが黙っていると、女性は軽い笑顔を浮かべながら、さらなる言葉を続ける。


「……養子縁組、されている?」

「そうなの。あら、聞いていないの?おかしいわね……」


その言葉に、オレは反射的に学校に提出されている資料を取り出し、女性に渡す。女性は首をかしげながら受け取り、再度その書類を見つめる。しばらく沈黙が流れた後、女性は小さく息をついて言った。


「あら、本当にうちの住所が書かれているわね……どうしてこんなことになったのかしら……不思議ねぇ」


オレの心の中で、何かがさらに不安定になった。


9年も前に養子縁組されているのに、連絡先を間違えるか?そもそもそれに誰も気が付かないのか?あまりにもおかしすぎる。


「藤原さんのお家に電話してみますね」

「……あ。そう、ですね。私にも連絡先や住所と……それと、雪さんのお写真とか、ないでしょうか?」

「写真?どうかしら……あの子、すごく可愛いのに、写真を撮るのはとても嫌がったから……でも、探してみますね」


その一言が、なぜか頭の中で何度も反芻された。藤原雪は、どうしてそこまで写真を嫌がったのか。その時、オレはあのゲームセンターで破壊された監視カメラ記録のデバイスを思い出した。


女性は受話器を置き、少し困ったような表情でオレを見た。


「お手数だけど、あなたに来てほしいっておっしゃってるわ」


オレは無意識に身を乗り出した。


「藤原雪さんは、そこにいるんですね?」


オレの声は自然と強くなった。女性は少しだけ眉をひそめ、ためらうように視線を落とす。


「ええ……たぶん、そうでしょうけど」

「……たぶん?」


妙な言葉の濁し方だった。何かを隠しているのか、それとも単に確信がないだけなのか。女性の表情は読めなかった。


オレは彼女の手元を見やる。そこにはメモ帳の端に殴り書きされた住所と電話番号。


――都内の一等地。


田舎から出てきたオレでも、その場所がいわゆる「大層な家」が立ち並ぶエリアであることはわかった。藤原雪は、そんな名のある家に引き取られたのか……?


女性は何かを思い出したように「ああ、そう」と小さくつぶやくと、机の引き出しを開けた。


「これ、雪ちゃんの写真ね」


そう言って差し出されたのは、家庭用プリンターで印刷された古びた写真だった。紙は黄ばみ、インクは滲んでいて、どこか心もとない。集合写真らしいが、全体がぼやけていて細部はわからない。


「昔の写真で悪いんだけど……そう、この子よ」


指し示された隅に、藤原雪はいた。いや、示される前にオレは気がついたの。


肩までかかる黒髪。無機質なほどに整った顔立ち。日本人形のように静かに、カメラを見つめている。


――いや。


その視線は、写真の向こうのオレを、まっすぐに見ているように感じた。背筋に、うっすらと冷たいものが走る。


「……ありがとうございます」


オレはそう言って写真を返したが、視線を外すまでに少し時間がかかった。


写真の中の藤原雪は、まるでこの瞬間を知っていたかのように、オレを見つめていた。

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