夏 2-20
夜の空気は湿っていて、外の温度がどこか重く感じる。
ワゴン車の中にこもった熱気が、窓から入るひんやりとした風と交じり合い、車内は妙に静かだ。
ゲームセンターの駐車場は暗く、疎らに灯る街灯が、白くぼやけた光を周囲に落としている。その光が無駄に広がり、無機質な駐車場に冷たい印象を与えていた。
車のエンジン音が消えた途端、外の静けさが一屠引き立ち、夜の静寂が車内に流れ込む。セミの声が遠くで聞こえ、街のざわめきとは対照的に、静けさが不安を呼び覚ますようだ。
「……ねぇ。ミツキちゃん、コウリちゃん。さっき、センセ変じゃなかった?」
リサの声が、車内の静寂を破るように響いた。その声に、ミツキはわずかに顔を向けるものの、すぐに視線をそらした。コウリは、相変わらず無言で窓の外を見つめ続けている。
「変って?」
ミツキが、リサの質問に軽く答えるが、その表情には少しの疑念が浮かぶ。
「なんか……ちょっと、怖いっていうか……」
リサが言うと、ミツキはにっこりと笑いながら返した。
「あはは。リサ、考え過ぎだよ!センセだよ?」
その言葉に、リサは少しだけ息を吐き、言葉をつまらせた。
「そうかな……そうだよね……」
リサの声は少し小さくなり、空気がひんやりと冷たく感じられる。
コウリはその間も、一切会話に入ることなく、じっと窓の外を見つめている。その視線は、ゲームセンターの暗い建物や、疎に灯った街灯の先に何かを探しているように見えた。
その静かな姿勢が、車内の空気を一層重く、静かなものにしていく。
その時、運転席から、トーマスの声が静かに響いた。
「……ミツキ」
その呼びかけに、ミツキが驚いて顔を上げる。
トーマスに名前を呼ばれたのも、呼びかけられたのも初めてのことだったので驚いて咄嗟には反応できなかった。
「気をつけろ。クリスの様子が……おかしい」
その言葉に、車内が一瞬で張り詰めた。リサの不安も、ミツキの心の中で膨らみ始める。トーマスは、後ろの様子に気づいていたのだろうか。
ミツキは、その意図を汲み取ることができずにただ困惑した顔を運転席へと向けた。バックミラーから寡黙な警護人の様子を伺うことはできなかった。
「……え、なにそれ?どういうことなの?」
トーマスは答えず、ただ真剣な表情で前方を見据えたまま黙っていた。その姿勢が、いっそうその不安を募らせる。その視線の先には、ゲームセンターから走ってくるセンセと、クリスがいた。




