夏 2-18
トーマスの運転する車は、やがて高速道路の出口へと滑り込んだ。
車体が緩やかに減速し、街の灯りがフロントガラスに映り込み始める。
それまで流れるように過ぎ去っていた景色が、次第に現実の輪郭を取り戻していく。広い車線は狭まり、無機質なコンクリートの壁に挟まれていた視界が、一気に開ける。
眼下には交差点を行き交うヘッドライトの波。信号の赤と青が交互に街を染め、ネオンの明滅が建物の窓に反射する。
夜の空気はしっとりと湿り、遠くで聞こえるクラクションや雑踏のざわめきが、都会の生を感じさせる。
トーマスは無言のまま、適切な車線へと滑り込んでいく。その間も、車内の空気はまだ先ほどの話の余韻を引きずっていた。
そんな車内の異変に気づいたクリスが、助手席から後部座席に向かって振り返る。
「ちょっとちょっと〜!アンタ達、何騒いでんのよ?」
わざとらしいほど明るい声が車内に響く。しかし、後部座席に座るコウリとリサは沈黙したまま。
「……」
「……」
「え? なになに? どういう事になってンの?」
クリスの問いかけに、リサが戸惑いながら口を開いた。
「クリスさん。そ、それが……」
リサは、先ほどまでのやり取りを説明し始める。
コウリのしていたVRゲーム内に、入院中のはずの藤原雪が現れたこと。
センセは「そんなはずはない」と否定したこと。もし本当に雪がVR世界にいるのなら、なぜ学校に来ないのか——。
クリスは説明を聞き終えると、腕を組んで考え込むような素振りを見せた。
「ふぅん。というか、その雪ちゃん?の親からは何も話がないワケ?」
「藤原は……養護施設の、両親がいないんだ。」
その言葉に、クリスは「おや?」という顔をした。そして、ふと助手席の向こうに座るミツキへと視線を向ける。
「それなら、なおさらお役所が管理してるんじゃない? そもそも魔法少女だし」
「まぁ、そうなんだが……実は面会を申し出ても病院から断られていると言われた」
「そんなに重症なの?」
クリスの何気ない言葉に、リサの肩がピクリと震えた。彼女の手は、膝の上でぎゅっと握りしめられている。街の明かりが、リサの拳を淡く照らしていた。
クリスは、後部座席の二人を見比べながら、ふっと口角を上げた。
「そんなに気になるなら、その雪ちゃんが現れた場所に行ってみれば?」
「えっ?」
思いがけない提案に、リサが目を瞬かせる。
「コウリちゃん、どこのゲームセンターだったのか分かってるんデショ?」
「……バカにすんな。そんなの簡単だ」
コウリは僅かに鼻を鳴らしながら答えた。
「なら、このままみんなでそこに行ってみましょうよ」
クリスがあっさりと言うと、リサが慌てて身を乗り出す。
「クリスさん!よ、夜のゲームセンターは18歳未満は立ち入り禁止ですよ……!」
リサが心配そうに言うと、クリスは肩をすくめた。
「それなら、センセと私が見に行ってあげるわよ」
その言葉に、リサは押し黙った。
「……まぁ、ここでウダウダしてても仕方ないし、それでいいんじゃない?」
ミツキが欠伸をしながら、だるそうに言う。
「センセがその藤原って子に会えれば、それで解決でしょ。コウリも、それで気が晴れるんじゃない?」
車内の空気が、再び沈黙に包まれる。
外の街灯が、フロントガラスに流れていく。やがて、トーマスが無言のままウインカーを出し、目的地へ向かって車を走らせた。




