夏 2-12
——その光景を、遠くから見つめる目があった。
高台に腰を下ろし、双眼鏡を覗く青年。潮風が彼の黒髪を乱すが、彼は気にも留めず、じっと海辺の光景を観察していた。
「……雪ィ? 見えてるか? ああ……あれだな。あっちの国から来てる奴らだ」
観光気分かよ。羨ましくなるねぇ、と愚痴をこぼす青年の片耳には、無線イヤフォンが付けられていた。
双眼鏡越しに映るのは、波間で戯れる少女たちと、砂浜に座る二人の男。青年は視線を細めながら、独り言のように続ける。
「オレには、いい歳した大人と女子高生が遊んでるようにしか見えねえけどな」
青年は静かに息を吐く。
「お前が直接見れたらいいんだけどな。あー……分かってる。お前は姿を見せちゃダメなんだろ?」
静寂。
無線の向こう側からの返答に、青年はわずかに唇を噛む。
「……ああ、なるほど。お前には、そう見えてるんだな」
しばし黙考するように、彼は双眼鏡を下ろした。目を細め、ゆっくりと浜辺の光景を見下ろす。
そこには、海に濡れた少女たちを甲斐甲斐しく世話する金髪の男と、もう一人の男がいた。
青年はひとつ、静かに息をつく。
「オイ……藤原雪、お前は……いったい何企んでんだ?まだ、オレにも言えねぇのかよ」
あーはいはい……分かったよ。切るぞと、青年は少しだけ笑うような声でそう言って、電話を切った。
潮の香りがする風が吹き抜け、青年の短い髪を揺らす。彼は再び視線を海へ戻した。
青すぎる空。
眩しすぎる陽射し。
きらめく波の向こうに広がるのはただの夏の風景、のはずだった。
青年は片手に持った黒い炭酸飲料を口に運ぶ。気の抜けた、それでも甘さだけが残った液体が喉を通り過ぎ、何も感じられないまま消えていく。
炭酸の泡も、冷たい刺激も、もうどこにもない。残るのはただ、甘ったるいだけの味。まるで、今この瞬間が終わることなく続いてしまうかのように。
青年は一息つき、空を見上げる。夏の陽射しが照りつけ、何もかもが眩しすぎて、視界がぼやけた。




