夏 2-8
日差しが強くなってきた。
さっきまでは潮風が心地よかったが、じりじりと焼けつくような熱気が肌にまとわりつく。湿気を含んだ空気が、海の匂いと混ざってまとわりつくようだった。
オレは一度肩を回して、パーカーを脱ぐ。すると、下に着ていた黒いラッシュガードが露わになった。
「あなた、日焼けを気にするタイプなのぉ?」
クリスが隣でクスクスと笑いながら言う。ふざけたような調子だが、その視線はどこか鋭い。
「いや、そうじゃなくて……」
オレは少し言葉を選びながら、ゆっくりと続けた。
「昔ケガしたときの傷が酷くてな。アイツらが見たら気を悪くするかなと思って……」
自分で口にしてから、少し気恥ずかしくなった。別に隠すつもりはなかったが、妙に弱みを見せたような気がして落ち着かない。
クリスは「ふーん」と気のない返事をすると、手を動かし始めた。さらりと上着を脱ぎ、海風に身を晒す。
その瞬間、俺の目が無意識に止まった。
クリスの肌には、無数の傷跡が刻まれていた。しなやかな筋肉に沿って、古いものも新しいものも、無造作に散らばっている。その端正な顔立ちには似つかわしくない、鋭く刻まれた過去の痕跡。
オレが驚いているのに気づいたのか、クリスはくすっと笑った。
「ああ、これ?」
何でもないことのように、クリスは自分の腕を軽く撫でた。
「あっちで訓練やらなんやらで怪我した時のモノよ。もうどこで負った傷なのかわかんないくらい」
海風に髪をなびかせながら、軽く肩をすくめる。
「傷なんて勲章よ。だからアンタも気にしないでよ」
何気ない調子だったが、不思議とその言葉には重みがあった。
クリスも、明るく振る舞ってはいるが、色々あったんだろうな――そう思うと、ふと胸が締めつけられるような気がした。
「……ありがとう。」
ぽつりとこぼれた言葉に、クリスは少し目を見開いたが、すぐにふっと笑った。
「別にそんなんじゃないワヨ」
そう言って、波打ち際へと歩いていく後ろ姿を見ながら、俺は小さく息を吐いた。
──クリスとは、妙に気が合う。
最初はただの馴れ馴れしい奴だと思っていたが、こうして並んでいると、不思議と安心できる。
傷を持つ者同士、どこか似たものを感じているのかもしれないな、とオレは砂の中に埋まっていく手のひらを感じながら思っていた。




