夏 2-7
車がさらに進んでいくと、次第に海の香りが濃くなり、潮風が車の窓からひんやりと流れ込んできた。眼前に広がるのは、青く透き通る海と、白い波が砂浜に打ち寄せる景色。
海は、朝の光を浴びて、どこまでも鮮やかで静かな美しさを湛えていた。
波音が心地よく響き、海岸線が遠くまで続いている。小さな漁船が静かに浮かび、風に揺れながら出航を待っているようだった。水平線の先には、少し薄い青空が広がり、雲が点々と浮かんでいる。
砂浜には早朝の散歩を楽しむ人々の姿もちらほらと見え、足元に広がる白い砂が太陽の光を反射して、まるで砂金のようにきらきらと輝いていた。波は穏やかで、泡を立てて優しく浜に寄せ、波の音はリズムよく繰り返しながら心地よい背景音となっている。
車を降りた一行は、潮の香りを胸いっぱいに吸い込んで、海を見つめながらそれぞれの思いを抱いていた。涼やかな風が髪を揺らし、波の音が静かに耳に届く中で、あたたかい日差しが海を照らし、すべてが穏やかな時間を感じさせた。
「すごい!海って、本当に……いいね。」とミツキが目を輝かせて言うと、リサも静かに微笑みながら頷いた。
その時、リサの目が海に向けられ、ふと息を呑んだ。
目の前に広がる海は、太陽の光を浴びてまばゆいほどに青く、波が穏やかに寄せては返し、海面がキラキラと輝いている。遠くの漁船がゆっくりと動いている姿も、何とも言えず美しく、心が震えるような景色だった。
「………わぁあ。」リサが小さくつぶやいた。
その声には、驚きと感動が込められていた。彼女の瞳は、広がる海の光景に引き込まれるように見つめられている。その顔には、普段の冷静さや控えめな一面が消え、純粋にその美しさに心を奪われた様子が浮かんでいた。
センセが少し驚いて振り返ると、リサはそのまま立ち尽くして、海の向こうに広がる青い空と、無限に続く海にただただ見入っている。
「リサ、そんなに感動してるのか?」
オレが声をかけると、リサは少しだけ顔を赤くして、恥ずかしそうに微笑んだ。
「うん……海を見るのは初めてで、ちょっと感動しちゃって。」
リサの声には、いつもの冷静な響きとは違う、穏やかな柔らかさがあった。
「皆さん、連れてきてくれて、その……ありがとうございます。」
「あはは。リサったら、まだ海にも入ってないのに!」
「そうよ。礼ならずっと運転していたトーマスに言いなさいよね」
その時、クリスも砂浜に足をつけると、軽く肩をすくめて言った。
「まぁ……ここの海も悪くないワネ。」
リサの反応を少しだけ気にかけている様子だった。
「地元にも海があったのか?」とセンセが尋ねると、クリスはしばらく黙って考えた後に、少し懐かしそうに答えた。
「海もあったけど……子供の時に一番近くに湖があったわ。妹とよく一緒に遊んだっけ。」
「えっ!?クリス、妹がいるのか?」とオレが驚くと、クリスはちょっと得意げに微笑んだ。
「なによ?いちゃ悪いわけ?妹がいるわ。私たち、歳は離れてるんだけど、目に入れても痛くないほどほんっとうに可愛いわ。」
その時、クリスの表情が少し柔らかくなり、遠くを見つめる視線が一瞬だけ優しさを帯びた。オレは見てはいけないものを見てしまったかのような気持ちになり、視線を海へと戻した。
クリスが小さな妹を可愛がる様子が、まるで目の前に浮かぶ幻のように感じられる。
その時、ふと周りの海水浴客たちがクリスに注目し、ざわざわとした声が聞こえてきた。
「すげぇ……あの人、顔良すぎじゃね?」「芸能人かな?」と、何人かの男女が話しているのが耳に入った。クリスはその声を一切気にすることなく、何事もなかったかのように砂浜に足を踏みしめて歩き続けた。
たしかにクリスの顔を引き継いだ妹なら、きっととびきり可愛いだろうと思わせるものがあった。
その間も、海は穏やかに広がり、何もかもがひとときの安らぎを与えてくれているようだった。




