夏 2-2
「そういえば、日本って水泳の授業ないんだね」
体育の授業のためにジャージに着替えながら、ミツキは何気なく言った。
「そうだね。今は小中学でもプールなくて水泳の授業とりやめてるところもあるから、高校だともっとないかも」
「ふーん。私、泳ぐの好きだからちょっと楽しみにしてたんだけどな」
「ミツキちゃん、泳ぐの好きなんだ!」
「うん。魔法少女になる前は、海に行ったりして……」
「海かぁ……!いいなぁ。わたし、海に行ったことないんだぁ」
「えっ!?リサ、海に行ったことないの!?」
日本は海に囲まれているのに、と言いながら、ミツキは驚きの声をあげた。
「うん……うち、両親が離婚してて、兄弟も多いし、お母さんも大変で。だから……海水浴とかしたことないんだぁ。海に行ってみたいって、なかなか言い出せなくて」
リサは少し視線を落として、無理に笑顔を作るが、どこか寂しそうに見えた。
「あ〜…そっか。なんか、ごめん」
ミツキはその表情に気づいて、すぐに少し後悔したように頭を下げた。
「ううん。でも、いつか行ってみたいんだ。海…」
リサの目が少し遠くを見つめているように感じられた。その目の奥に、リサが抱えている切なさや夢を垣間見たような気がして、ミツキの心もなんだか温かくなった。
「リサ……」
ミツキは一瞬言葉を詰まらせると、しっかりとリサを見つめた。
◇◆◇◆
「と、いうワケなの」
「……どういうワケなんだ」
すっかり学校の屋上で煙草を吸うのが日課になりつつあるオレと、その前で購買の焼きそばパンを食べながら話すミツキ。良くないなぁと思いつつも、生徒を追い払う手段が思いつかないまま、時間が経ってしまっていた。
もうどうしようもない、そんな言い訳じみた言葉を胸にオレは頭を掻いた。
「なんで、オレも海に行くメンバーにはいってんだよ。勝手に入れるな。勝手に。」
「ええ〜いいじゃん。人数多い方が楽しいし」
「楽しいって、お前…オレが行ったら本当に楽しいのかよ」
オレは煙草をふかしながら、少し小馬鹿にしたようにミツキを見たが、ミツキは全く気にした様子もなく、焼きそばパンを一口食べてから軽く肩をすくめた。
「だって、センセもいると、なんか安心するし」
「安心感って…お前、そんな理由で海に行きたいのか?」
ミツキがにっこりと笑って、臆することなく言い放つ。
「うん!だって、センセって、あたし達が困った時、ちゃんと助けてくれるじゃん」
ああ……やめてくれ。
そんなことを言われたら。
オレは煙草をふかしながら、少しだけ肩をすくめた。生徒にそんなことを言われると、どうにも気恥ずかしい。
「そんなこと言ってもな…オレが行ったところで、海で役に立つわけないだろ」
「うーん、でも、なんか……いないと寂しいし!」
ミツキは悪びれる様子もなく笑った。オレはもう少し考え込んでから、何気なく顔をしかめた。
「だからって、オレを勝手に誘うなよ。教師だぞ、オレは」
「ええ〜、だってセンセが断るわけないって分かってるし!」
オレは思わず目を見開いて、言い返しそうになるが、ミツキの無邪気な顔に、少しだけ口ごもった。
結局、毎度毎度こんな感じで生徒に引きずられるのは予想通りだった。
「まぁ…行ってやるよ」
「本当に!?やった!センセ、ありがとう!」
オレはため息をつきながら、煙草をもう一度ふかした。だが、どうしてもミツキの喜んでいる姿を見ると、少しだけ胸が軽くなる自分がいた。
「って、待てよ。オレは教師だぞ、ちゃんと生徒らしくしろよな」
「うん、分かってるよ!じゃあ、センセ、しっかり頼んだよ!」
「……本当に、分かってんのか……」




