春 1-15
鋼のような外殻を持つその巨大な異形は、一瞬、動きを止めた。
──バキッ……バキバキッ……!
静寂を破るように、怪獣の身体に無数の亀裂が走る。それはあまりにゆっくりで、まるで時間の流れが引き伸ばされたかのようだった。
崩れる。
崩れる。
崩れていく。
巨大な塊が四散し、街の瓦礫へと変わるその光景を、オレはただ呆然と見つめていた。
オレは、オレはなにを見せられているんだ?
怪獣の核が撃ち抜かれる瞬間。
あの巨体がバラバラと崩れ落ちていく瞬間。
すべてがスローモーションのように目の中に映る。
爆発の閃光、舞い散る破片、巻き上がる土煙――その間を駆ける小さな影。
ミツキとリサ。
細い手足で、幼い体で、あんなものと戦わなくてはならないのか。
誰が決めた?
どうして彼女たちが、こんな危険な戦いを強いられる?
戦いの余韻に満ちた空気。
硝煙と魔力の残り香が入り混じり、肌にざらついた感触を残す。
遠くで歓声が聞こえた気がする。
だが、オレの耳には何も届かない。
視界の端、ミツキとリサがこちらを振り向いた。
その顔が、オレの心を刺した。
ミツキは息を切らし、ぎゅっと拳を握りしめていた。
リサはぼんやりとオレを見つめ、唇をわずかに震わせている。
ふたりとも、無事だ。
傷ひとつない。
それは喜ぶべきことのはずなのに——。
「……センセ?」
リサのか細い声。
それは問いかけるような、不安げな響きを孕んでいた。
ミツキの表情が微かに曇る。
勝利の喜びを感じる暇もなく、こちらをじっと見つめてくる。
オレの心臓が、強く、強く、握りつぶされるように痛んだ。
——何をやらせているんだ。
この子たちは、何も考えずに笑っていればいい存在のはずだ。
大人たちはどうした。
なぜ子供にこんなことをさせている?
か弱い存在はーーー守られる”べき”存在なのだから。
その瞬間、気づけば身体が動いていた。
「センセ!!」
駆け寄る二人を、オレは思わず強く抱きしめた。
「ちょ、や、やめてよ!!」
「センセ……!」
ミツキは顔を赤くしながらも、オレを押しのけようとする力は弱い。
リサは驚いたように目を見開き、ぎゅっと制服の裾を握りしめていた。
自分でも声が震えているのが分かった。
「……良かった……怪我がなくて、本当に良かった……!」
全身の力が抜けていく。
戦いの終わった静寂の中で、オレの心だけがざわついていた。




