春 1-13
……こんな街中で暴れられたら、マズイよね。
怪獣の咆哮が響き渡る。悲鳴を上げながら、観光客たちが混乱しつつ逃げ惑っていた。
コウリはすっとポケットから小型のデバイスを取り出す。指先で淡々と操作を始めると、デバイスの画面が光った。
──ピピッ
瞬時に近くの電話線へとアクセスが始まる。
コウリの指が動くたび、周囲のスマホが一斉にバイブレーションを鳴らした。
《至急避難せよ。北側通りは封鎖。安全ルートを確保》
まるで緊急速報のように、避難指示の通知が次々と市民のスマホに届いていく。
混乱していた人々が、スマホの画面を確認しながら次々と北側通りを避けて移動し始める。
トーマスが息を切らしながらコウリを守るように前を走り、ちらりと振り返った。
コウリは何も答えず、ただ静かにデバイスを操作し続ける。
その時、すぐ近くで車が爆発した。爆風が周囲を巻き込み、吹き飛んだ破片が鋭い音を立てながら宙を舞う。
「っ……!」
トーマスはとっさにコウリの腕を引いた。熱風が背後をかすめ、アスファルトに破片が弾ける音が響く。
「走るぞ!」
短く言い放つと、トーマスはコウリの手を引いたままバスの方へと走った。二人は駆け込むようにしてステップを踏み、ギリギリで車内へと転がり込む。
窓の外では、巨大な影がゆっくりと姿を現していた。
コウリは無言でデバイスを閉じ、目を細めながらその影を見つめる。
「ギリギリだったな……」
トーマスが息を整えながら呟くが、コウリは何も言わず、ただ静かに窓の外を見つめ続けていた。
──ザーッ……ザー……
トーマスが運転席へ移動すると、無線機が雑音混じりの音を立てる。
「……クリスか」
『状況は?』
「こちらは問題ない。そちらは?」
『ちょっと“まずい”わね。……援護が必要よ』
「……了解」
短いやり取りの後、トーマスは無線を切ると、ハンドルをぐっと握りしめた。そして、迷うことなくバスの進行方向を市街地へと切り替える。
「えっ……!? ちょ、待って、どこ行く気!?」
コウリの非難を無視しながら、トーマスはハンドルを切る。エンジンが唸り、バスは速度を上げながら怪獣のいる方向へと進んでいく。
「ボク、非戦闘員なんですけどーっ!!?」
コウリの声がバスの車内に響き渡る。
トーマスはサングラスを指先で押し上げると微かに笑いながら、アクセルをさらに踏み込んだ。




