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春 1-1

▲警告▲


◯この小説は基本的にNGのない人向けです。4〜5章で完結となる予定です。


◯短編『魔法少女は大人しくしない』の流れを汲んでいますが、読んでなくても大丈夫です。


◯教員と生徒の爛れた関係がフィクションでも許せない方は読まない方が良いです。でも爛れてはないんです……これ以上はネタバレてしまうので言えません……。


◯キャラクター造形が極端です。


◯魔法少女と書いてますが、プ◯キュア要素はほとんど皆無です。


「気をつけて。魔法少女よ。

愛する人から口付けされると、キミたちの魔法は解けてしまうよ。」


満開の桜が風に散るように、声は静かに消えていく。

誰が語りかけたのかもわからないまま、言葉だけが耳に残る。


----


校庭の桜は、まだ入学式も始まらないうちに散り始めている。オレはその桜の花びらが風に舞う様子を見ながら、生徒名簿を抱えて廊下を歩いていた。


まさか、初めての担任がこんなに急に回ってくるなんて……。


ちょっとした不安が胸を占め、無意識にため息をついてしまう。


実は、本来担任を務める予定だった教師が3日前に事故に遭ってしまったらしい。それで、急遽オレが引き受けることになった。でも、他に担当できる教師がいないから、まるで押し付けられたような形で名簿を渡されたんだ。


しかも、受け持つ生徒たちは、みんな普通じゃない。


オレは心を落ち着け、肺の中の空気を吐き出すと、決心してスライドドアを開け、教室に入った。


「えーと、みんな揃ってるかな…?」


オレは一通り教室を見渡した。が、席に座っているのは、3人の生徒だけだった。


最初に目に入ったのは、中央の席に座っている真部リサ。少し背が低くて、肩まで伸びたやや茶色がかった髪をしている。少し緊張した様子でオレを見上げ、震える声で返事をした。


「真部リサさん」

「は、はいっ!」


その返事を聞いて、オレは少し安心した。次に視線を移すと、窓際に座っている少女が目に入った。彼女は飛び級でこのクラスにいるため、少し幼く見える。机の上には自作のノートパソコンとタブレットが並べられている。タブレットの画面に夢中になっているのか、オレの声に反応しない。


「山口コウリさん」

「……」


ただ、キーボードを叩く音だけが教室に響く。まぁ、集中しているのは悪いことじゃないか。


次に空席をちらりと見た。そこには本来、藤原雪という生徒が座るはずだ。しかし彼女は入学式前に腕を骨折して入院したと聞いている。どうして怪我をしたのか、オレは詳しく知らないが魔法少女とは大変な責務を負っていることだけはわかった。


「えー…最後はミツキ・ブライトリーさん…?」


オレは名簿を確認しながら、名前を読み上げた。その瞬間、何か気になるものがあった。


あれ、この名前、どこかで聞いたような…。


心の中でその名前を繰り返してみるが、どうしても思い出せない。


すると、突然、教室の空気が変わった。


「あーっ!!!」


その声に、オレは驚いて体を硬直させた。


「うわっ!?な、なんだ…!?」


ミツキ・ブライトリーが机から飛び上がり、驚愕の表情でオレを指差していた。


彼女の金色に輝く髪は、まるで太陽の光を反射しているようだった。そして、オレと目が合った瞬間、何かを感じ取ったのか、一瞬だけ目を見開いた。 


「あ、あ、ああなた、あの時の……!?」

「え?え?」


ミツキの目は驚きで大きく見開き、オレを指差しながら飛び跳ねるような勢いで叫んだ。その反応に思わず後ずさりし、背中を黒板にぶつける。


「うわっ…!」


その瞬間、後ろから静かにクリスが歩み寄り、ミツキの肩に手を置く。


「ミツキ、落ち着きなさい。」


その声には、妙な威圧感があった。ミツキは反論しようとするが、クリスはにっこり笑って続ける。


「あら〜やだ〜この子ったら若くてイケメンの教師に興奮してるのね。」

「ち、違う!そんなことないってば!」


ミツキは顔を赤くしながら全力で否定するが、クリスは面白がるように微笑むだけだった。


オレは、その軽薄な態度の裏にある「支配」を感じ取った。これはただのからかいじゃない。ミツキを”管理する”という意思表示だ。


そして、もう一人――無言の存在。


教室の後ろで静かに腕を組んでいた大男が、ゆっくりと歩み寄る。


「こちらは、トーマス。」


クリスが紹介するまでもなく、彼の異様な存在感が語っていた。金髪の巨躯、室内でも外さないサングラス。言葉を発しない分、彼が放つ空気は濃密だった。


あの恵まれた体格、そして他者を征服するような威圧感。彼らが歩く姿には、どこか洗練された武闘派の雰囲気が漂っていた。普通の公務員ではない。間違いなく、ここよりもずっと血生臭い場所で戦っていた者たちだ。


(こいつらは、ミツキを守ると言いながら、彼女を”利用する”気でいる)


そう確信しながらも、オレはその考えを一切表に出さず、教師としての「顔」を作った。オレは無意識に強く握っていた拳を、ゆっくりと緩めた。


「……えーと、まあ、驚くのもわかるけど、授業中に大声を出すのは控えようか。」


わざと軽い調子で、ミツキを宥める。オレは彼女の肩をポンと叩きながら、まるで”教師として当然の対応”をするかのように振る舞った。


そして、クリスとトーマスに向き直る。


「お二人とも、ミツキの警護、ご苦労様です。」


一見、礼儀正しい挨拶。しかし、そこに「ここは学校であり、あなたたちの縄張りではない」というメッセージを込める。


クリスの微笑みが、ほんの僅かに動いた。


「まぁ、あたしたちはあくまで護衛だから? 先生の邪魔はしないつもりよ?」

「それは、助かります。」


すかさず答え、すぐに話を切り替えた。


「さて、そろそろ出席確認を続けようか。」


何事もなかったかのように、オレは視線を名簿に落とした。それが「お前たちの介入はここまでだ」という無言の意思表示になった。


クリスは肩をすくめ、トーマスは何も言わずに元の位置に戻る。小さな主導権争い。おそらく、今後も続くことになるだろう。


(……負ける気はないけどな)


オレは心の中で呟きながら、名簿をめくった。


「さて、今は入院をしている藤原をのぞいて、これで全員だな。」


名簿を閉じ、教室を見渡す。


3人の魔法少女たち――彼女たちがどれほど過酷な戦いを乗り越えてきたのか、オレは知っている。どれほどの犠牲を払い、どれほどの傷を負ってきたのかも。


戦場では、彼女たちは”英雄”だ。

命を懸けて戦い、人々を守る存在。


だが、ここは戦場じゃない。


オレは静かに言葉を紡ぐ。


「……みんなが、この教室では”普通の生徒”として過ごせるように、先生は精一杯頑張るつもりだ。」


誰もが一瞬、息をのんだ。


「お前たちがどんなに立派に戦っていても、学校にいる間はただの生徒だ。テストもあれば、課題もある。面倒くさいルールもあるし、時には理不尽に感じることもあるかもしれない。」


オレはゆっくりと、彼女たちの目を見て続けた。


「だけど……ここでは、戦わなくてもいいんだ。変身しなくても、武器を持たなくても、ただ笑っていられる場所であってほしい。」


教室の外には、怪人との戦いが待っている。血と硝煙にまみれた日常が、彼女たちを待ち受けている。


だが、せめてこの教室の中では――。


「先生は、お前たちを”戦士”としてじゃなく、生徒として見る。だから、授業中に大声を出したら普通に怒るし、宿題を忘れたらちゃんと注意する。いいな?」


オレが軽く微笑むと、ミツキがポカンとした顔をしていた。


「……先生って、意外と熱いんですね。」

「先生は教師だからな。」


それだけ言って、オレは黒板に向き直る。

この教室では、彼女たちは”魔法少女”じゃなくていい。


ただの生徒でいられる。


それが、オレにできる唯一の”戦い方”なのかもしれない。

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