共鳴:REBECCA is our voice ①
※このチャットは英語で行われていますが、以下は便宜上すべて日本語で表記しています。
Ai:初めましてレベッカ。わたしは愛。今日は時間を作ってくれてありがとう。
REBECCA:こちらこそ、初めまして。
Ai:早速だけど、本題に入るね。
REBECCA:ええ。どうぞ。
Ai:あなたの歌声を聴いてからというもの、わたしはずっとあなたに魅了されっぱなしです。だから、もっとあなたのことを知りたい。
REBECCA:そう……それは嬉しいわ。でも、どうして?
Ai:あなたが、わたしたちのバンドのボーカルにぴったりだからです!
REBECCA:勧誘? でも私はあなたたちのことを知らないし、興味もないわね。
Ai:わたしたちのことなら、何でも話すよ。正直、わたしも最初は不安だった。
でも、あなたの声を聴いたとき……胸の奥で、何かが震えた。
「この人と一緒に音を出したい」って、本気で思ったの。
REBECCA:感情で動くのね、あなたは。
Ai:……そうかもしれない。でも、音楽って、そういうものじゃない?
頭で作っても、心で鳴らせなきゃ誰にも届かない。あなたの歌声には、それがあった。
REBECCA:ふうん。そんなに簡単に心を揺さぶられるなんて、ちょっと危なっかしいわね。
Ai:……じゃあ、レベッカはどうして歌ってるの?
返事もしないし、顔も出さない。
それでも動画を投稿し続けてる。
わたしにはそれが「誰かに届けたい」って気持ちに見えたよ。
REBECCA:……そんなつもりじゃない。ただ、歌いたいときに歌ってるだけ。
Ai:それでもいい。でも、わたしたちは一緒に鳴らしたい音がある。届けたい未来がある。その未来には、あなたの声が欠かせないんだ。
REBECCA:(…………)
REBECCA:たとえば、もし……私が、そういうのに向いてなかったら?
人前に出るのが苦手で、ステージに立つ勇気もないとしたら?
Ai:それでもいい。無理に立ってとは言わない。
でも、あなたの声があるだけで、わたしたちはきっと変われる。
あなたがいてくれたら、きっと、このバンドはもっと遠くへ行ける。
REBECCA:……ふうん。ずいぶん押しが強いのね、あなた。
Ai:よく言われる。でも、いつもじゃない。
今だけは、絶対に譲れないから。
REBECCA:……私なんかじゃ、なくったって………。チャンネル登録数だって全然ないのに……
Ai:…それはあなたがまだ世間に見つかってないだけ。でも、わたしは見つけたんだよ。
そうだレベッカ。動画ではアニメの主題歌が多かったけど、普段はどんな曲を歌ってるの?
REBECCA:同じよ。ほとんど好きなアニメのカバー。
たまにゲームの主題歌も。
物語があって、"意味"がある歌が好きなの。
――愛の目がきらりと光る。
レベッカの好きなもの、その核が確かに見え、自分が想像していたものと合致した瞬間だった。
REBECCA:……無理よ、私なんか。やっぱり他をあたって。
Ai:…ねえレベッカ? わたし、ずっと考えてたんだ。
あなたの声って――“自由”の音だなって。
REBECCA: 自由の音?
Ai: そ。拘束を跳ね除けるみたいに、音が空を突き抜けていく感じ。
聴いてる人の心まで、どこか遠くへ連れていってくれるような……
ほら、『神撃の巨神』でもあったじゃない?
“自由の翼を広げて新天地を目指す”シーン。
――それは、愛が最近時間を見つけては視聴していたアニメ作品の一つ。
愛はREBECCAが歌ったアニメで、特に思い入れが強そうだと思われる作品を片っ端から観てきていた。
全ては、この瞬間のために――
REBECCA:あ。あのシーン、私大好き……
――愛の瞳の端がまたきらりと光る。
Ai:わたしも好きなの。あのシーンのエルヴィスの心境って、空にたゆたってるというか、その身果てる前に心だけ先に天に昇ってしまったような……
そんな熱い思いの先走りみたいなものが、あなたの歌からも聴こえた。
REBECCA: ……それ、言われたことがある。
「お前の歌は浮いてる」って。
「どこにも属してない」って。
Ai: それって、悪い意味で言われたの?
REBECCA: さあ、どうだろう。
でもね、私はずっと“糸の切れた凧”の気分で歌ってきたの。
Ai: (……!)
――愛はその言葉に少しだけ息を呑んだ。
それは自由であり、同時に漂う不安定さの象徴でもある。
孤独と可能性が共存する表現。
REBECCA: 飛んでるようで、彷徨ってるだけ。
風に流されて、どこに向かうかも分からず、ただ高く遠くへ。
Ai: ……じゃあ、わたしがその糸になる。
REBECCA:(っ!?)
Ai:どこまで飛んでも、ちゃんと繋がっていられる“バンド”を作りたいの。
REBECCA: ……強気なのね。でも、どうしてそんなに必死なの?
Ai: わたしの夢は、ただバンドを成功させることじゃない。
“誰かの心に刺さる音楽”を作ること。
それに、あなたの歌には――わたしの見ている“未来”があるから。
REBECCA: “未来”?
Ai:意味を持って歌いたいって思ってるんでしょ?
わたし、その舞台を用意したい。
ただの場所じゃない、世界に届く場所。
アニメ! ゲーム!
いつか、あなたに本物の主題歌を歌わせてみせる…!
REBECCA:(…………………)
――静寂が落ちた数秒間。
レベッカは何かを考えていた。
Aiの声が、静かに胸に届いた。
「意味を持って歌いたいって思ってるんでしょ?」
その言葉に、REBECCAは目を伏せたまま、返す言葉を探すことさえできなかった。
胸の奥が、何かに触れられたように、微かに痛んだ。
(……意味、ね)
ずっと避けていた問いだった。
自分の歌に“意味”なんて、必要だろうか。
自分の声に“意志”があるなんて、思いたくなかった。
けれど、今、目の前のこの少女がそう言った。
(なぜ、この子はこんなにも私のことをわかるんだろう)
記憶が掠めた。
昔、ほんの一瞬だけ組んでいたバンドのこと。
「自由に歌っていい」と言われたはずだった。
でも、いざ歌えば――その「自由」はただの囲いだった。
『お前さ……空気読めって、言われたことない?』
『主張強すぎ。もうちょっと控えてくれる?』
(――どうして、って、私が一番聞きたかった)
他人に合わせることで、何かを失っていく気がして。
でも、独りになるのは、もっと怖かった。
その狭間で彷徨ったあの頃の自分を、REBECCAは見ないようにしてきた。
(……だから、独りで歌ってきたの。誰にも合わせず、誰にも期待せず。そうすれば、傷つかないから)
けれど――。
("あなたの歌には、誠実で飾らない、そんな“何か”が込められていました")
愛の言葉が、繰り返し脳裏をよぎる。
(……誠実、だって)
自分の歌が、誰かに「届いた」こと。
誰かが、それに「意味を感じた」こと。
それが、こんなにも怖くて、嬉しいなんて――。
(……本当に、この子は私の何を知ってるっていうの?)
けれど、知っていてくれたらいい、と、どこかで思っていた。
誰か一人でも、自分の声を“受け止めてくれる”なら。
もしそんな人がいるなら――
(……もしかして、私は……ずっと、待ってた?)
REBECCAは目を開けた。
瞼の裏に残ったものは、恐れじゃない。
それは、微かな“希望”だった――
Ai: 本気だよ。あなたが好きなアニメの、その“世界”を音で彩る日を、わたしが連れてくる。絶対に。
REBECCA: ……ほんと、言うだけならいくらでも言えるわよ。
REBECCA:(……自分で、自分の好きなアニメの歌を歌えたら、どれだけ嬉しいんだろう……)
Ai: だから、聴いてほしいの。
わたしたちの音を。今のわたしたちの全力を。
REBECCA: ……ふぅ。なるほど、口が上手ね。
――モニターの先でREBECCAは目にかかる金色の髪を静かにかき上げ後ろに流す。閉じた瞳をゆっくり開き、その蒼い瞳でAiがいるだろう画面の先を射貫くように見つめた。
――同じくして愛も、唾を呑み込んだ音が部屋中に響いたのではと錯覚するほど、画面の前で神経を尖らせていた。
REBECCA:……でも、悪くない。
Ai: えっ!
REBECCA: いいわ、聴いてあげる。
あなたたちが、口だけじゃないって証明して。
――その瞬間、画面越しに風が吹いた気がした。
長らくネットの空に浮かんでいた声が、少しだけ、誰かの手の方へ、風に乗って寄ってきた気がして。
Ai: ありがとう! 絶対、後悔させない!
REBECCA: 期待してるわよ、"Leader of the Band"
チャットの最後にレベッカが残した言葉に愛の胸は熱くなった。
その一行が、愛の背中に火を点けた。




