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EP4-5:モモ二チカウ

 鳩子の言葉に爽風は鳩子をもう一度見る。確かに鳩子は身長が高い。一五四センチの爽風より二〇センチ程高いように感じる。

「そうですね。身長があるとスラッと綺麗に見えます」

 と、鳩子に返した。鳩子は不思議そうに首を傾げる。その様子を見ていたあかねが口を開く。

「ちなみに鳩子さん、身長いくつですか? あたしは一六四です」

「一七四……」

「あ! 私一五四です! みんな一〇センチずつ違うんですね」

 爽風が感心したような声を上げた。あかねは更に鳩子に訊く。

「で、体重は?」

 あかねのグイグイ来る質問に鳩子は若干引きつつも、少しおどおどしながら口を開いた。

「ごじゅう……」

「ごじゅう?」

 鳩子の出掛けた言葉にあかねが更に追従する。

「…キロ」

「え!? 五〇キロッ!?」

 鳩子の答えにあかねが思わず声を上げる。爽風も鳩子をじっと見て口を開く。

「そんなに軽いんですか!? 確かに細いとは思いましたけど…」

 あかねと爽風の二人の言葉に鳩子は少し恥ずかしそうにしながら返す。

「う、うん。私、昔から痩せてて、体重変わらないまま背だけ伸びて…」

「へ、へぇ……」

 鳩子の言葉に二人は少し呆気にとられた様子で答える。


「いいスタイルって、やっぱりある程度お肉も付いてなきゃいけないと思う。二人も細いけど、まだ女性らしい細さで、可愛い」

 鳩子が柔らかな笑顔で二人にそう言った。

 あかねも爽風も鳩子の笑顔に思わず見とれてしまい、暫し黙ってしまった。


「私は背が高いだけで、ガリガリ…とてもじゃないけど、スタイルがいいなんて思えないの。ごめんね?」

 突然の鳩子の謝罪に、あかねと爽風は我に返る。

「え? あ! いえ! そんな!」

「あたしのほうこそ、無神経でした!」

 二人は慌てて鳩子の言葉に反論する。しかしそれでも鳩子は申し訳なさそうに続けた。


「背が高いってだけで寄ってくる人はいたよ。一緒に連れてると箔が付くって……でも、それって、気に入ってくれたのは、私の外見だけで……」

「え?」

 あかねが鳩子の言葉に驚いた。あかねのその反応に、爽風がすかさずフォローに入った。

「わ、私の最近読んだ本であったんですけど、そういうのってお人形を連れ歩いてるみたいな感覚なんですって! 誰でも綺麗な人を連れて歩いてると自分も特別になれたような気がするとかって…」

 爽風はいつもの落ち着いた口調とは違い、その言動には鳩子を傷付けまいと言う焦りが見られた。だがその言葉は上手くフォローしたとは言い難い、未熟なものだった。


「…うん。岸さんが言う通りだと思うよ」

 そう言って伏し目がちに頷く鳩子を見て、今度はあかねが慌てた様子で口を開く。

「あ、でも! 確かに背が高いと目立つし、スタイルが良かったらモデルさんみたいですよね!」

 しかしまたもフォローになっていない言葉を返してしまう。

 あかねは鳩子の様子を見て、自分の不用意な発言がどれだけ鳩子を傷付けてしまったかを悟り後悔した。

 そして爽風もあかねのその言動で事の重大さに気付き、更に焦り始めた。


 だがそんな二人とは対照的に鳩子は少し驚いたような表情を浮かべていた。それからまた柔和な笑顔を二人に向ける。

「大丈夫。外見のことを言われるのは、慣れてるから」

 鳩子はそう言うと、二人の頭を優しく撫でた。二人は鳩子の意外な行動にきょとんとしていたが、次第に笑顔を取り戻すと爽風はあかねの顔をチラッと見てクスッと笑い、それに釣られてあかねも少し微笑みながら鳩子を見た。そして今度は三人で顔を見合わせてクスと笑い合う。


 あかねが意を決したように口を開く。

「あの! 鳩子さん!」

「うん?」

 鳩子が返事するのと同時にあかねはガバっと頭を下げた。

「ごめんなさい! あたし無神経でした!」

「私もごめんなさい。自分の言葉に、配慮が足りませんでした」

 あかねに続いて爽風もそう謝りながら頭を下げた。

 鳩子は少し驚きながらも申し訳なさそうに口を開いた。

「そんな……謝らないで? 二人は何も悪くない。謝る事はないよ?」

 その言葉に思わず顔を上げる二人。すると鳩子と目が合ったので二人はお互いに目線を逸らした。

 そして爽風が何か言おうとするが言葉が出て来ない。そのまま暫しの沈黙が続いたがそれを打ち破ったのは意外にもあかねだった。


「あの! 鳩子さん!」

「はい」

 あかねが少し上ずった声でそう呼びかけると、鳩子は笑顔で返事をした。

 あかねは意を決したように言葉を続ける。

「あたし、鳩子さんのこと可愛いって思ったのは本心です! だから、だから……ッ……外見のこと言われるの、慣れてるとか…思わないでください……」

「…うん」

 鳩子があかねの言葉に相槌を打ちながら、少し心配そうな表情を浮かべる。

 あかねはそんな鳩子の様子を見て更に言葉を紡ごうとする。

「それと……あの……」

 あかねが言葉に詰まる。爽風が心配そうに見つめる中、あかねは少し間を置いてから鳩子に真っ直ぐ向かって言葉を続けた。


「あたしたちと友達になって下さい!」


 あかねのその言葉に、鳩子は一瞬キョトンとした表情を浮かべた後すぐにニッコリと笑った。そしてゆっくりと頷く。

「ありがとう。優しいのね、鬼頭さんは」

「あ……そ、そんな……」

 あかねは少し恥ずかしそうにしながら頬を染め俯く。

 爽風はあかねが友達になって欲しいと言ってくれた事、鳩子も受け入れてくれた事に安堵した。

「二人とも、優しい、ね。今日は、嬉しい日……」

 優しく目を瞑り鳩子がそう言ったので二人は少し驚いた表情を浮かべたがすぐに頷き合った。



「お待たせしましたー」

 そしてお待ちかねの“桃のスペシャルパンケーキ”が飲み物と共に三人の前に運ばれて来た。「おお」と歓喜の声が上がる。それを鳩子が丁寧に三等分に切り分けた。

 手前のコーヒーカップを片手に持ち

「今日会えたことに感謝……そして、こちらを頂いて、一緒に肥えて綺麗になろう」

 そんな(おど)けた言葉を真面目な顔で言う鳩子に思わず二人は吹き出した。

「な、何それせんせー!」

「ぷふッ! イヤな“桃園(とうえん)の誓い”ですね!」

「あ。今は先生言うの禁止」

「は、鳩子さんっ! おかしー!」

「うふふふふっ」

「あははははっ」

 二人の笑い声に釣られて鳩子もクスクスと笑い出す。三人はひとしきり笑った後、三人でパンケーキを食べ始めた。

 それはそれは、とても甘い一時だった。




「すみません鳩子さん、ご馳走になっちゃって…」

 喫茶店を出ながらあかねが申し訳なさそうにそう言った。

「ううん、気にしないで。でも他の子には内緒、ね?」

 あかねにそう返す鳩子。

「…ご馳走様です鳩子さん。お薦めの美味しかったです!」

 爽風も鳩子にちょこと頭を下げながらそう言った。

「うん。こちらこそ、楽しかった。二人のお陰でいい気分転換、できたよ。ありがとう」

 鳩子はそう言いながら二人にまた柔和な笑顔を向ける。

 気付けば時刻は十七時を過ぎていた。鳩子は少し残念そうな顔をしながら

「じゃあ。そろそろ失礼するね? 二人も、気を付けて帰ってね」

 と言い二人に小さく手を振って帰路に着いた。



「さようならー」

 鳩子の背中にあかねが声を掛けると、鳩子は振り返って少し照れたような仕草で小さく手を振った。

 あかねと爽風は鳩子の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

「……鳩子先生、可愛かったな…」

 見えなくなった鳩子の後ろ姿を見つめながら、あかねが思わずそう呟く。

 爽風は笑顔で頷きながら返す。

「うん。優しくて、美人で……でも何より、性格が可愛らしくて…」

「あー分かる。本人は口下手って言ってたけど、先生のアレは相手のこと考え過ぎちゃって、言葉足らずになっちゃうみたいな、そんな感じだよね」

 あかねの言葉に爽風も頷く。

「うん……そんな先生だからかな? すっごくピュアな心で人と向き合ってる気がする……」

「そうね。見た感じは美人で格好いいけど、なんかこう……知れば知るほど“守ってあげたい”ってなるような可愛さがあるよね」

 あかねがそう言うと爽風はまた頷いた。

「うん。でも、自分のスタイルにコンプレックスがあるって、正直、驚いた……」

 爽風の言葉にあかねも頷く。

「うん。確かに自分も痩せてるけど……胸はもう少し欲しいと思うし…」

 あかねのその言葉に爽風がクスと笑う。

「あ! 今ちょっと笑ったでしょ!」

「ううん。そんなこと、ない」

 あかねが拗ねたような口調で言うと、爽風は笑顔で返した。それから神妙な顔になり続ける。


「結局みんな、自分に無い物ねだりなのかな……」

 爽風の言葉にあかねは急に沈んだような顔になった。だがすぐに明るい表情に戻り言葉を続ける。

「そうね……きっとみんな自分に自信が無いだけなんだと思う…」

 その言葉に爽風があかねの顔を横目でチラと見た。あかねは続ける。

「だって自分のいいところを見てくれる人が一人でもいたら、それで充分幸せな筈なのに……」

「……そうだね。私もそう思う」

 爽風は少し哀しげな表情でそう返した。

「先生にもそんな人が、いてくれるといいな…」

 爽風とあかねはなりたての友人のことを思い、オレンジ色の空にそう願った。

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