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EP4-4:フンワリキッサ

「……」

(この子たち、可愛いな…)

 あかねと爽風の姿を見て鳩子は思った。

(二人ともタイプ違うけど、すごく美人で可愛い)

 と、心の中で呟く。

(そんな子たちと、カフェでお茶。緊張するけど、すごく、幸せかも…あ! 公私混同だけは、気を付けないと…!)

 などと考えていると鳩子の歩くペースは無意識に早くなっていた。


「先生歩くの早いー。歩幅の違いを考えてくださーい」

 あかねがそう声を掛け、爽風と楽しそうに笑いながら鳩子に追い付いて来た。

「あ! ご、ごめん」

「「ふ、ふふふっ!」」

 そして二人は顔を見合わせるとそのまままた笑い出した。

「? ふふっ」

 その笑顔を見て鳩子も思わず笑ってしまうのだった。

(あ。こうして誰かと笑ったの、久し振りかも……)




 そして三人は他愛もない話をしながら徒歩五分程でカフェへと着いた。

「先生、ここですね? 入り口からして雰囲気よさそう」

 あかねがそう言って指さした先には、『Caf'e(カフェ) Sylphide(シルフィード)』という看板があった。鳩子がその看板を見て

「あ、うん。そう」

 と、相変わらずの落ち着いたトーンで返す。


 入口は一段低くなっていて、木製の重い扉を引くとドアに備え付けられていたベルがカランと鳴った。

 店内は間接照明が多用されている為かほんのり薄暗く、木製のテーブルやカウンターが落ち着いた雰囲気を醸し出していた。

「わあ…いい雰囲気ですね?」

「本当に……」

 あかねと爽風が店内を見渡し感嘆の声を漏らした。

「そ、そう? よかった」

 それを受け鳩子がホッと胸を撫で下ろす。



「いらっしゃいませ。三名様ですね? テーブル席でよろしいですか?」

 と、物腰柔らかにやって来た店員に声を掛けられる。

「あ、はい」

 あかねがそう返すと、三人は四人がけのテーブル席へと案内された。

「メニューが決まりましたらお声掛けください」

 と、店員は軽く一礼して去って行った。


「さて……何にする?」

 鳩子が声を掛け、三人でメニューを見つめ合う。

 横目であかねが鳩子を覗き込み

「先生のお薦めとかあります?」

 と、尋ねる。すると爽風の目線も鳩子の方を向いた。

「お薦め……うーん、そうだね……」

 と、少し考え込んだ後、メニューから顔を上げ二人を交互に見て言う。

「……ここのパンケーキ、リコッタで、フワフワで美味しい」

「わぁー…確かに美味しそう!」

 あかねは目を輝かせてそのパンケーキの写真を見つめる。爽風も写真に写ったパンケーキを見て目を輝かせている。


「あ、でもね? ちょっと大きくて、私一人ではいつも全部食べられないんだ。二人は、甘い物は別腹の人?」

 と、鳩子はおっとりと二人に尋ねる。するとあかねは

「あー、いやぁ。そこまで量は食べないですね」

「私も、どちらかと言えば少食な方です」

 あかねと爽風がそう言うと、

「そう。二人とも細いものね」

 と、鳩子は返した。すると爽風が口を開いた。

「でも、折角だから三人でシェアしませんか?」

 あかねが続いて口を開く。

「あ! それいいわね! 先生いかがです?」

「え? あ、うん。いいよ」

 鳩子は二人の勢いに押されつつ頷いた。そしてそのままメニューを二人に渡した。


 二人は暫くの間ああでもないこうでもないとメニューを見ては悩んでいたが、やがて決まったようで顔を上げた。

「決まりました! パンケーキはこの、ピーチスペシャルで! 私はアイスコーヒー、岸さんがカフェラテ、先生が本日のブレンドですね!?」

「うん」

 あかねの言葉に鳩子がにこやかに応える。そしてあかねが店員を呼ぶ。

「あの! すみませーん」

「はい、ただいま」

 と、ウェイトレスが来る。あかねはメニューを指さしながら注文し、ウェイトレスは軽く一礼して去って行った。そして三人はそれぞれ笑顔を向け合う。



 鳩子は前髪の先に見えるテーブルの対面にいる二人を見つめながら、ゆっくりと口を開いた。

「二人は、お友達?」

 と、二人に向かって訊ねる。

 あかねは鳩子の言葉を聞き少しキョトンとして一瞬言葉に詰まったが、すぐに笑顔で応えた。

「実は、話すようになってまだ間もないんです…」

 あかねが少しバツが悪そうにそう答えると、爽風は続けて口を開いた。

「でも私、鬼頭さんとお友達になりたいなって思ってて……そんな時に、鬼頭さんが話し掛けてきてくれて…」

 あかねが爽風の言葉を聞いて少し目を丸くし、照れた様子で笑った。

「私も! 岸さんと友達になれたらって思ったんです。色々、迷惑も掛けちゃったし……」

「ううん。鬼頭さんは何も…私に勇気が無かっただけだから……」


 何やら訳あり気な二人に、鳩子は「そう。良かった」

 と、あっけらかんとそう言って、二人を見つめたまま微笑んだ。そしてまた口を開く。

「二人は、友達になれそうなんだね」

 鳩子がそう言うとあかねは照れて少し俯きながら

「は、はい! 私文芸部なんですけど岸さんも読書が好きだったり、洋服の好みも似てたりで話も合うんです」

 と、嬉しそうに鳩子に伝えてきた。爽風も微笑みながら言葉を添える。

「うん、私も鬼頭さんとお話しするのすごく楽しいから……だから今日お出掛けに誘ってもらって嬉しかった」

 その言葉を聞き鳩子はまたニッコリと笑った。そして少し顔を傾けながら二人に言う。

「よかったね、二人とも。私、お邪魔じゃ、ない?」

「え!? い、いいえ! そんな! 声掛けたのあたしからですし」

 鳩子の意外な言葉にあかねは慌ててそう言った。爽風も笑顔で言葉を続ける。

「はい。先生ともお話しが出来て、嬉しいです」

 鳩子は安堵した様子で胸を撫で下ろすと、少し照れた顔で言葉を続けた。


「あ、あのね? 外では“先生”っていうの、やめて欲しい、かな?」

「あ! それもそうですね……じゃあ……花崎(はなさき)さん?」

 あかねがそう言うと鳩子が

「あ、いや。“花崎”って名字も、なんか私には可愛すぎちゃって……鳩子(はとこ)でいい、です……」

 鳩子ははにかみながら俯き、耳を赤くしてそう返す。

「じゃあ……鳩子さん…」

 あかねがポツリとそう言うと、鳩子はあかねを上目遣いでじっと見つめた。そして少し頬を赤らめながら柔らかく微笑み言う。

「は、はい……それで、いいです」


((可愛いッ!!!))


 その鳩子のはにかむ姿を見たあかねと爽風の思いがシンクロした瞬間だった。


 爽風はこんなにも可愛らしい仕草をとる女性を他に知らなかった。

 あかねは美人だがどちらかと言えばサバサバした性格と物言いで付き合いやすいのだが、普段のあかねからはこういった可愛らしい雰囲気を感じることは少なかった。

 他の友達にしても皆可愛らしいが、今目の前にしているこの可愛さにはどこか異質の可愛さがあった。


 鳩子は前髪が長く表情が読み取りづらいが、そのミステリアスさが却って彼女の可愛らしさを際立たせているように感じた。

 髪を掻き上げた時などに、その前髪の切れ間から覗く優しげな切れ長の瞳には思わず目を奪われてしまうような愛くるしさがあった。

 そしてそれらが合わさり生み出される笑顔にあかねも爽風も魅せられていた。淑女のような整った美貌に垣間見える少女のようなあどけない笑顔。そのギャップが二人の心を鷲摑みにし、鳩子から目を離せなくなっていたのだった。


「あ、あの? どうしたの、二人とも?」

 二人の熱視線に耐え切れず鳩子はそう声を掛けた。すると二人はハッとして慌てて口を開いた。

「あ! す、すみません! あ、あの……その……」

「あ、は、はい。えっと……」

 あかねと爽風は少し顔を赤らめながら言葉を探すようにしどろもどろにそう答えた。そしてあかねが意を決したように口を開いた。


「せんせ…は、鳩子さん、可愛いなって思って」

 その言葉に鳩子は一瞬キョトンとしたが、すぐに顔を真っ赤に染めた。

「え!? あ、や……そんな……私なんて全然可愛くない、よ」

と、慌てて返す。

「え、可愛いじゃないですか。その前髪で顔隠してても分かるくらい」

 あかねはそう返す。爽風もあかねの言葉に頷きながら口を開いた。

「うん。私もそう思う。鳩子さんすごく可愛い…」

 二人の言葉を聞き、鳩子は更に顔を真っ赤にした。そして俯きながらモゴモゴと呟くように返した。

「そ……そんなこと……ない、です……」

 その様子を見て二人は思わず顔を見合わせるが、すぐにまた鳩子に目線を戻す。


「あ、すみません。いきなり年上の方に“可愛い”なんて言って……」

 あかねが少し調子に乗りすぎたと言わんばかりに、軽く頭を下げた。

 鳩子は俯いたまま首を左右に振った。そして少し顔を上げて二人を見ると

「う、ううん。全然そんな……言われ慣れてないだけ…」

 そう言ってまた俯いてしまう。その様子を見て二人はまた顔を見合わせる。そして今度は爽風が口を開いた。

「え? 言われ慣れてないんですか? こんなに美人でスタイルいいのに?」

 爽風は鳩子の顔を見ながら少し驚きながらそう返した。その言葉に鳩子がまだ紅い顔を上げた。


「岸さんが言う、()()()()()()()って、身長が高いこと?」

「え?」

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