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EP3-3:ラブテイカー

「…ただいまー」

「こんにちはー。お、お邪魔します……」

 翌日の部活を終えた昼下がり、司郎は爽風を伴って実家の玄関をくぐる。

 昨日の姉たちの話をしたところ、爽風は快く二人に是非挨拶したいと申し出てくれた。

 だが、やはり当の爽風もそれなりに緊張はしていた。


「まあまあ! いらっしゃい爽風ちゃん! いつも言ってるけどもっと楽にしてちょうだいね?」

 そう言って出迎えてくれたのは本日パートは休みの母親だった。

「あ、いえ、その……ありがとうございます」

 そんな玄関でのやり取りを奥の柱の影から覗く二つの顔があった。


「……あの子ね?」

「そうみたい……」

「確かに、可愛いわね…」

「うん…でも可愛いさなら季美だって負けてないよ?」

「あんたはあざとさが強いのよ」

「ヒドい〜。友加ちゃんより努力はしてるよ〜」

「ふん。まあ、今はチロの彼女以外はどうでもいいわ」

「……そうだね。そろそろ行こうよ」



 ――司郎は二人の姉に挟まれて茶の間に座っていた。その対面には爽風が一人で座っている。

 そして、友加里と季美が爽風を値踏みするように見詰めていた。


「あ、あの……初めまして。司郎君とお付き合いさせて頂いている岸爽風と言います。よろしくお願いします」

 爽風は正座したまま両手を畳に添え、頭を深々と下げる。その流れるような所作に司郎の姉二人が小さく感心の声を漏らした。

「あ、そ、そう…ご丁寧にどうも」

「友加ちゃん! 飲まれてる!」

 司郎は二人のそんな反応に思わず顔を引き攣らせるが、すぐに気を取り直して爽風に声を掛ける。

「まあ、気楽にな爽風。姉ちゃんたちも」

「う、うん」

 爽風は緊張の面持ちで司郎の言葉に頷く。そして、今度は友加里と季美が爽風に声を掛ける。


「爽風さん、だったわね? 私は長女の桃田友加里」

「次女の季美でーす」

 二人はそう言って爽風に軽く会釈する。

「はい! お噂は伺っています」

 そんな二人に爽風が満面の笑みで答えると、二人の姉は一瞬たじろぐ。

「……ッ、そ、そう」

「あ、爽風ちゃん? しろちゃんとは、()()()()?」

 季美が恐る恐る訊くと、爽風は屈託のない笑顔で答える。

「司郎君は、私が困っていた時、落ち込んでいた時、助けてくれたんです……いつも優しい笑顔を向けてくれるんです」

 爽風のその言葉に司郎は顔が熱くなるのを感じた。

「そ、そんな大袈裟なもんじゃねえって!」


 そんな二人の様子を見ていた友加里が眼鏡のブリッジを指で押さえながら口を開く。

「なるほど……つまりチロに助けられた爽風さんは()()()()でチロに()()()()()()()を抱いてしまったってわけね?」

「ッ! 友加ちゃん、さすがにそれは言い過ぎ――」

 季美が友加里の物言いにハッとして注意しようとするが、それを司郎は遮る。

「いや、俺が好きになって俺から告白した」

 司郎は真っ直ぐ爽風の目を見てそう言った。

「俺が、爽風を好きなんだ!」

「司郎くん……!」

 爽風はそんな司郎の言葉が嬉しくて、思わず涙ぐんだ。そして軽く涙を指で拭い、真剣な眼差しで二人の姉の顔を見据える。


「……これだけは言わせてください。私は、彼に告白される前から惹かれていました……あの日、告白されて、本当に嬉しかったんです……この気持ちに、嘘は、ありません……」

 爽風はそこまで言うと、再び畳に両手を添え深く頭を下げる。そして、そのままの姿勢で二人に言葉を掛けた。

「司郎君とは、まだ付き合い始めたばかりです……でも私は、彼と、私の気持ちを、信じます。どうか、司郎君との交際を認めてください……!」

 凛とした声だった。頬に一筋、涙で濡らした爽風の姿に友加里と季美は気不味そうに顔を見合わせる。

 それを見た司郎は爽風の隣まで行くと、自分も正座をし、両手をついて深々と頭を下げた。

「姉ちゃんたち、俺たちを心配して言ってくれてるんだろうけど、未熟なりに俺も本気だ。本気で爽風が好きなんだ。みんなにも認めてもらえるよう、これからも努力する! だから…爽風のこと、姉ちゃんたちも大切にしてあげて欲しい!」


 大切な弟にまで頭を下げさせてしまい、姉二人の良心は流石に痛んだ。それに弟の口から直に聞かされた分、傷心の姉心にダイレクトにダメージが刻まれる。

「……ごめんなさい。刷り込みとか、偽りの恋愛感情ってのは、言い過ぎた。私の失言だったわ……」

「ごめんなさい、爽風ちゃん…しろちゃんも…」

 二人はそう言って爽風に頭を下げる。そして、顔を上げて爽風を見ると、二人して笑みを浮かべる。


「……ッ!」

 そんな姉二人の笑顔に司郎は驚き、思わず息を飲んだ。それは爽風も同じで目を丸くしている。

「でも、私たちもそう簡単には認めないから! チロの事に関しちゃあ年季が違うのよ!」

「そうそ〜う! だからこれから、よろしくね?」

 友加里と季美がそう言うと、爽風は二人の顔を見て笑顔で頷く。

「はい! よろしくお願いします!」

 そんな爽風の反応に友加里は満足そうな笑みを浮かべると、今度は司郎をジロリと睨む。


「チロ? あんたも、これから覚悟しなさいよ?」

「え!? な、何を……?」

 司郎が困惑していると、今度は季美が口を開く。

「そうそ〜。爽風ちゃん可愛いけど、季美も可愛いってこと、思い知らせてあげるー」

 そんな二人の様子を見ていた爽風が思わず吹き出す。

「ぷっ、うふふ! 皆さん仲いいんですね!」

 そんな爽風を見て友加里と季美は顔を見合わせると、ニヤリと含み笑いをしたのだった。



 それから四人は暫くの間談笑し合った。司郎の家族とも打ち解けた爽風は終始笑顔で楽しそうにしていた。

 そして、夕方になりそろそろお開きという時、友加里が唐突に口を開いた。

「と言うことで、だ。明日この四人で親睦を深める為に一泊二日で遊びに行こうと思う!」

「ええッ!?」

 司郎は思わず声を上げる。明日は爽風と家で宿題をする約束をしていたからだ。

 そんな司郎の反応を見て、友加里は勝ち誇ったような顔を彼に向ける。

「フッ! 残念だったわねチロ? 私たちは既に爽風さんと明日一緒に遊ぶ約束をしているの!」

「そうなんですか!?」

 当の本人が初めて聞かされる約束に戸惑う。

「うちの母さんを通して既に爽風さんの親御さんには了承を得てるわ! つまり、あんたは私達と一緒に旅行に行くしかないってこと! ハッハーッ!」

「く……嬉しい真似を……ッ!」


 そんな姉とのやり取りに爽風は困惑した表情を浮かべる。そんな爽風に司郎は思わず苦笑する。

「わるい、爽風。明日は姉ちゃんたちと遊んでやってくれるか?」

「……うん!」

 本当は二人で遊びたかったのだろう。しかし、友加里と季美も二人なりに自分と仲良くなろうとしてくれているのかも知れない。そう思うと無下に断ることは憚られた。

 それに、友加里と季美も自分の事を思ってこうしてくれているのかも知れない。

 爽風がそんなことを考えていると、突然友加里が声を上げる。


「ああッ!」

「な、なんだよ友加ねえッ!?」

「あんた今『二人で遊びたかった』って思ったでしょ!?」

「……ッ! お、思ってねえよ!」

「嘘ね! 顔が物語ってるわよ!」

「うぐッ! いや、そりゃ思うだろうよ!」

 そんなやり取りを見ていた季美は呆れ顔で口を開く。

「もう〜、二人ともはしゃぎ過ぎー。ね? 爽風ちゃん?」

「え、えっと……私は、楽しいですよ?」

 爽風はそう答えると少し引き攣った笑顔を浮かべた。

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