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記憶の花火

作者: 黒楓

今日はお休み明けの火曜! 火曜真っ黒シリーズです(^^;)




「何とも辛いお話ですね……」


 初老の男の話を聞いてカウンセラーはため息をついた。

 しかし初老の男は更に言葉を継ぐ。

「でも、こちらなら!! この恨みを晴らして下さると人伝に聞きました」


 カウンセラーは男の顔をじっと見据えて、それに答える。

「あなたのお話を承った後で申し上げるのは誠に恐縮ですが……それはお門違いです。私は公認心理師の国家資格を取得したカウンセラーであり、その様な絵空事とは無縁の者です」


「山本恭介さんからのご紹介なのですが……」


 その言葉に男は目を伏せ微かに頷いた。

「そうですか……今、この瞬間に……山本さんはすべてを手放されたのですね」


「それはどういう事ですか?!」


「あなたがお孫さんの死を悲しみ、公権が何の役にも立たなかった事を嘆き復讐を誓う(さま)を山本さんはご覧になられて、私を紹介なさったのでしょう。山本さんはご自身の“事情”と私の名前と連絡先だけをあなたにおっしゃったのでは無いですか?」


「その通りです。詳細はあなたから直接聞く様に言われました」


「失礼ですが、山本さんとは前々からの知己であられましたか?」


「いいえ!ネットを通じて知り合いました」


「何らかの金銭的なやり取りや便宜を山本さんから要求されましたか?」


「その様な事は一切ございませんでした」


「分かりました! では私も絵空事を申し上げましょう! 私には愛を憎悪に変換する力がございます。具体的に申し上げますと、愛する者の命を奪った()()へ……亡くなった者への愛の力でもって制裁を加える事ができます」


「殺す事もですか?」


「もちろん可能です。しかしその対価として……“依頼者”は愛する者の記憶や愛情を全て失ってしまいます。つまり復讐を遂げたとしてもあなたの手には何も残らない。

 例えば……愛する者の墓前に連れて行かれても何の感情も湧かない。ただその者との関係性を周りが教えてくれるでしょうから……あなたには新たな苦しみが生まれる事となります。だから……お止めになられた方が良いのです」


「でも、山本さんは復讐を遂げたと明確な認識があられました!」


「そう、“依頼者”から愛する者の全てが消え去るのは……“依頼者”が私の名前を他の誰かに伝え、私がそれを知り得た時……つまりそれが、私の名前をあなたへ教えた事による山本さんへの対価となる訳です」


「と言う事は、私があなたの名前を他の誰にも教えなければ……私は孫の事も忘れず、復讐を遂げた事も確認できるのですね?!」


「そう言う事になります」


 初老の男はカバンの中から預金通帳と印鑑を取り出し、カウンセラーの前に置いた。


「大した額ではございませんが……」


 カウンセラーは目の間の通帳を手に取る事も無く時計に目をやった。


「今、1時間17分が経過いたしました。誠に恐縮ですが、2時間分のカウンセリング料金として1万6千円申し受けます。」


「たったそれだけで良いのですか?」


「あなたのご意志の固さは十分に確認申し上げましたので……あなたを地獄へ導く事に報酬を申し受けるなど致しかねます。」


「復讐を遂げられるのであれば地獄なぞ恐るるに足りません!!」


 その言葉を聞いたカウンセラーが眼鏡のブリッジを左の親指で少しばかり持ち上げると、レンズが明りを映し、彼の目の表情を覆い隠した。


「記憶の業火は花火に例えられます。あなたは鬼畜どもをどの様に焼き殺したいですか? “スパーク花火”の様に激しくですか?それとも“線香花火”の様にじわりじわりとですか? いずれにしてもそれを行えば、あなたへもそれ相応の“痛み”が降りかかりますが……」


「殺しても飽き足らないヤツらです!! “線香花火”の様にじわじわと苦しみを与え、殺して下さい!!」


「その分、あなたも長く苦痛を味わう事になりますよ」


「構いません!!」


 その言葉にカウンセラーは薄っすらと笑いを浮かべた。


「山本さんも同じ様におっしゃいました。最も……今ではその記憶すら失われているのでしょうが……」




                           終わり




ジワリ痛怖いのを書いてみたかったのですが……




ご感想、レビュー、ブクマ、ご評価、いいね 切に切にお待ちしています!!



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― 新着の感想 ―
すごい文学作品を読んだ気がします。 少ない言葉で確実な描写され見えてくる光景。 二人のやりとりが目に浮かびます。 やはり楓様の小説を書く力はすごいのです…… 真っ黒、というよりもこれこそ本物の小説です…
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