四十九話 戦闘態勢
「……オルウェルさんよぉ、良かったのか?」
長い通路を駆けるふたり。
踏み込んだアジェラの総本山で敵を蹴散らしながら進む彼らは、教祖の元へ急いでいた。多くの敵が現れようが、難なく斬り捨て、はたまた殴りつけて走り続ける両者。その間に沈黙が広がることにちょっと嫌気がさしたのだろう。トモが横から出てきた信者を蹴り飛ばしながら隣を走るオルウェルに問いかけた。
「ん? なんが?」
「いや、あの……あのチビ助のことだけどよ。ホントに良かったのかと思って……」
「良かったもなにも、選んだのはヒスイやで。後のことは主様たちが決めるやろうし、俺らは俺らの出来ることをやりましょう、ってな」
「そうは言ってもよぉ……」
一応スパイだったんだよな?、と悩むトモ。いくらシーという友人の頼みとは言え、レヴェイユを危険に晒すかもしれない者を保護しても良いのだろうかと彼は悩む。
そんなトモを横、目の前に現れた扉を蹴破ったオルウェルがふと足を止めた。それに倣うように停止したトモが、前方を見てぴゅうっと楽しげに口笛を吹く。
静止した二人が目を向けた先、つまり彼らの前方。まだ幼さの残る少年たち二人と一人の少女──それから、仮面のような顔をした狂人・マッドがいた。
彼・彼女らはオルウェルたちの登場に楽しげな空気を醸し出すと 、「いらっしゃ〜い」と嬉しそうに片手を振る。
「おーおー、なんだ? お出迎えか? こりゃあこりゃあ……愛されてんねぇ、俺ら」
「愛とはちぃとばかし違うかもしれへんけどなぁ」
言って手中で凶器を回すオルウェル。その隣、ゴキゴキと拳を鳴らすトモはニヤニヤと楽しげに笑っている。
完全に戦闘態勢バッチリな彼らを見て、前方に居る子供がひとり一歩前へと歩み出た。そして、恭しく一礼。顔を上げ、にんまりと笑う。
「はじめまして、レヴェイユの方々。僕はイラベル。アジェラの執行人で御座います」
「執行人?」
「はい。アジェラも、今はとても大きな組織で御座いますから、時に裏切り者・逃走者が出ることがあります。そんな輩共を捕え、炙り、教育する……それが僕の役目であり、執行人としての仕事で御座います」
「わざわざ説明ご苦労さん」
「いえいえ、なんのこれしき」
にこにこ笑う、イラベルという名の少年。彼は一礼して頭を上げると、次いで片手を横へ。己よりも少し後ろで待機している二人の少年少女を示し、口を開く。
「それから、こちらは双子の赤と青。反対に御座すはマッドさん、と申します。そちらの黒髪の方は、マッドさんにはお会いしたことがおありだと伺っておりますが……」
「まあ、一応?」
「そうですか! では説明の手間が省けるので助かります!」
にこにこと笑い、執行人・イラベルはパチンと指を鳴らした。それに応えるように前に出るマッドに、「俺がこっちやりましょか」とオルウェル。トモが「狂人だろ? いいのか?」と問うのにイエスを返し、オルウェルは武器である刃物を構えて見せた。イラベルがうっとりと笑い、赤と青、そう呼ばれた少年少女が「無謀だなぁ」とニヨニヨする。
「良いのですか? マッドさんはこれでもお強いお方。二人で協力して倒しに来た方が良いのでは?」
「そう言うっちゅーことはなんや作戦がありそうな感じやな。ま、乗ってはやらんけど」
「ふふ、残念です」
笑うイラベル。その狂気に満ちた瞳から目を逸らし、オルウェルはマッドを見た。マッドは警戒するようにオルウェルのことを見返している。
「そんな怖い顔せんでもええやん? 大丈夫やて。痛いのなんざ一瞬や。すぐ終わらせたるさかい、安心せえ」
「……ナメられたものですね」
「そりゃそうや。ナメとるもん」
ケラリとオルウェルが吐き捨てた瞬間、マッドが凄まじい速度で彼との距離を詰め攻撃に転じた。しかし、軽々と避けられたそれは、無意味に宙を切るだけとなる。
マッドは歯噛みし、次々に攻撃を仕掛けていく。だが、そのいずれも軽くいなされオルウェル本人に当たることはない。
「クッ!! 小賢しい!! レヴェイユの狂犬がッ!!」
「小賢しいことあらへんて。お前が弱いだけっちゅーの」
言って武器を振るうオルウェル。それにより片頬を傷つけられたマッドが怒りのままに片手を振るう。
ゴオッと、青い炎が出現した。それはオルウェルの体を取り巻くように彼の周囲に展開していくと、彼の身を焼こうと距離を詰め出す。
オルウェルはそれらを視界、片足を軸に回転。周りの炎を切り捨てると、すぐに顔を上げて向かい来るマッドの攻撃を受け止めた。
「っ、やはり一筋縄ではいきませんね……全く、レヴェイユの人間は本当に厄介だッ」
「ははっ、お褒めに預かりあんがとさん。それはそうと、頭上、注意やで」
「──は?」
マッドが疑問の声を発した直後、ドスッと音を立てその頭に宙より落下してきた刃物が突き刺さった。突然のことによろけるマッドを蹴り飛ばし、オルウェルは武器を腰元に仕舞う。
「おぉ、えげつな」
トモが笑い、アジェラの面々が静かに倒れたマッドを見つめる。
「あーあ、マッドさん殺られちゃった」
赤い少女がニコニコ言った。「大丈夫〜?」なんて片手を振る彼女に、「赤、言い方」と指摘するのは青い少年だ。彼は倒れたままのマッドを尻目、懐より取り出した試験管を数本手に取ると、それを構えながらトモを見る。
「おーおー、こっちもやろうってか?」
笑うトモ。その姿に無表情を返した少年が、「執行人」とイラベルを呼んだ。呼ばれたイラベルは「わかっておりますとも」と返事を返すと、徐に両の手を合わせてニコリと笑う。
「『死刑執行』」
ガチンッ、と音が鳴った。かと思えば、トモの頭上にギロチンが出現。それは驚いた顔をするトモを目掛けてまっすぐ落下すると、嫌な音を立てて赤を散らす。
「ふふ、まず一人目……」
「あーあ」とオルウェルがボヤいた。やってしまったなぁ、と顔に書いている彼は、自分は関わりたくないですよと言いたげに現場から目を逸らし視線をマッドへ。ギチギチと音を立てて奇妙に動くその体を見つめ、はぁ、と小さく息を吐く。
「厄介なのはそっちも同じやと思うんやけどなぁ」
まあしゃあないか、と武器を引き抜くオルウェル。それと同じくして起き上がったマッドが、頭に刺さった刃物を抜きながらキシキシと不気味に笑う。
「いただきました……いただきましたよぉ、狂犬」
告げるマッドの真横に現れる、青色の小さな炎。彼はそれを指先で摘むと、大きな口を開けてそれを口内へ。バクンと食べ、飲み込み、ケタケタ笑う。
「これでアナタの魂も、ワタシのモノだッ」
笑うマッド。勝ち誇ったようなそれに、オルウェルは無言で武器を握った。




