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レヴェイユ  作者: ヤヤ
第二章 裏切りの少女
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四十六話 釣れた魚を解放し

「──リンちゃん隊長!!」


「んお?」


 くるりと振り返った、頭にバンダナを巻いたひとりの男。比較的背の高い彼は、その橙色の目をそっと見開くと、次いで駆けてくる小さな少女に向かいバッと大袈裟な程に両手を広げた。


「リレイヌちゃーん!!」


 弾むような声。と共に叩かれる頭。

 リンちゃん隊長ことリン・デルヘムは、叩かれた己の後頭部を抑えながら、ぐるりと勢いよく振り返った。


「ちょおっとリッちゃん! なぁにすんの!」


「誰がリッちゃんですか。ふざけないでください。あとリレイヌにちょっかい出そうとするな」


「ちょっかいってキミねぇ……俺はただ心身ともに疲れ果てているのでリレイヌちゃんに癒してもらおうとだな……」


「尚悪い」


 グルル、と唸る仮面男、リックに対し、リンはんべぇ、と舌を出した。そして、近づいてきたリレイヌを一瞥。へらりと蕩けたように笑ってみせる。


「やー、いつ見ても可愛いなぁ、リレイヌちゃんは! こう、心にくるものがあるよね!」


「……」


 ジロリと仮面の下でリンを睨むリック。しかしてそれをものともしない(というか気づいていない)リンは、駆けてきたリレイヌとハイタッチ。明るく「元気だったー?」「ご飯ちゃんと食べてるー?」などと問うていく。


「はい! リンちゃん隊長はお元気でしたか!」


「元気も元気! なんなら今リレイヌちゃんの姿見て元気さらに出ちゃったわ〜!」


 ヘラヘラと笑うリンに舌を打ち鳴らすリック。その不満気な様子に気づいたのだろう。「キミもいたのか」と口にしたリレイヌが、「不機嫌だな? 何かあった?」と疑問を零す。


「……別に」


 吐き捨てるリック。リンがそんなリックの肩に腕を回し、「チッチッチッ」と舌を鳴らす。


「ダメだぜ、リレイヌちゃん。わかってあげておくれよ。リッちゃんは愛しのリレイヌちゃんが構ってくれなくてそれはそれは悲しくて悲しくてだなぁ〜」


「黙りやがれってんですよ」


「もー、お口が悪いぞリッちゃん! お口チャック!」


「……」


 無言で剣を取り出すリックを、その傍らにいた黒髪の男が「リック落ち着け」と止めた。それに「貴様は黙ってろ」と吐き捨てたリックに、リンはやれやれと言いたげに肩をすくめる。


「そんなだとモテないぜ、リッちゃん」


「モテなくて結構。大体、好きでもない輩に言い寄られてなにが嬉しいというんですか」


「まー、リッちゃんはいつでもリレイヌちゃん一筋だからなぁ〜。そりゃあ他所様には見向きもしないよな〜。って言いつつ遊んでたの俺知ってるけど」


「なッ」とリックが一歩引いた。その場の視線がジッと向けられ、彼は慌てて言い訳を口にする。


「そ!! そんなことあるはずないだろう!! 俺は別に!! あそ、遊んでなど!!」


「えー? そうだっけー? じゃあ先週レヴェイユの怪物くんと一緒に風俗行ってたの一体どういう理由で──」


「リンちゃん隊長!!」


 焦って叫び、そこでハッとしてリレイヌを見るリック。振り返った彼の視線の先、リレイヌは腕を組んで無言を貫いている。特に表情にも変化のない彼女に、リックは言いようのない感覚に襲われた。


「り、リレイヌ、あ、あれは……」


「……まあリックの件は後でいいとして──リンちゃん隊長。改めておかえりなさい。長い間遠方までお疲れ様でした」


 ふわりと笑い、告げるリレイヌ。リンはそんな彼女ににこにこ笑うと、「ありがとねぇ、リレイヌちゃん」と小さな彼女の頭を撫でる。


「リレイヌちゃんはほんとに無理してなかった? どこぞのバカに虐められたりとかはなかった?」


「はい。ご心配痛み入ります。ですがこの通り、何ともないのでご安心ください」


「そっかそっか。なら安心だわ」


 言って膝を伸ばしたリンは、背負っていた銃器の先を徐にリレイヌの方へ。向けられたソレを、彼女はじっと見つめている。


「リンちゃん隊長、なにを──」


 リックが言いかけた、その時だ。

 破裂するような音をたて、銃の先から銃弾が飛んだ。ソレにハッとした時には、“リレイヌの後ろにいた”何者かが小さな悲鳴をあげて尻もちを着く。

 その際落っことしたのだろう。刃物がカランと床を転がり、何者かは慌ててソレを拾い上げて逃げ出そうとする。


「アルベルト」


 リックが、努めて冷静に影の中の子を呼んだ。それによりぶわりと床から噴き出した闇が、悲鳴をあげる何者かを包み、捕らえる。


「……ソレ、最近入ってきた奴? 見かけねえ顔だけども」


 リンが言えば、それに答えるようにリックの傍らにいた黒髪の男──通称お父上がこくりと頷いた。頷いて、そして、彼は言う。


「潜入班に所属しているヒスイという子ですね。アジェラの声に惑わされた哀れな者です。情報班からの情報によるとアジェラのスパイという可能性もあるのだとか……」


「アジェラのね。なるほど」


 納得したように告げたリン。

 そんな彼をよそ、そっとヒスイへと近づいたリレイヌは、ガタガタと青ざめ震える小さな少女を見て静かに目を細める。細めて、それからそっと口を開いた。


「……ひとまず、この子の処遇をどうするかだが──」


「ウチで預かるか? アジェラの犬だ。なにか情報を吐くかもしれない」


「いや……」


 否定的に首を振り、リレイヌは言う。


「家へ帰してやろう。どの道、この子に未来はない。ならば、せめて少しだけでも幸せな明日を見れるようにしてあげよう」


「いいのか?」


「ああ、構わないさ。──アルベルト」


「はい」と声がして、少女──ヒスイは解放される。突然のソレに驚き目を見開く彼女に、リレイヌは言った。「好きなところに行くといい」、と。

 ヒスイは狼狽えながらも、この場にいるのは得策でないと判断したのだろう。慌てたように立ち上がり、そのまま外へ向かいひた走る。


「……リック」


 そんな少女の背を見送りながら、リレイヌは静かに婚約者の名を口にした。


「直にアジェラとぶつかる。キミも出てもらうから用意は怠るな」


「だろうな」


「あと、風俗のコトは諸々終わったら問い詰めるからそのつもりで」


「……だろうな」


 若干遠い目になったリックをけらりと笑い、リンが「俺も手伝うよ〜」と片手を振った。それに「助かります」と答えたリレイヌは、全班に通達するべく連絡班へと急ぎ歩く。


「主様」


 と、移動途中、イーズが急ぐ彼女に駆け寄った。「どちらへ?」と訊ねられすぐに「連絡班だ」と答えれば、何かを察したのだろう。彼はこくりと頷いてから歩く彼女を追いかける。


「すまない。お邪魔するよ」


 連絡班へと踏み込めば、丁度食事時だったのだろう。ハンバーガーやらを片手に団欒していた者らが、勢いよく立ち上がり敬礼した。リレイヌはそんな彼ら、彼女らに用件を素早く伝える。


「急遽で悪いが動けるものをかき集めてくれ。直、アジェラとぶつかる。精鋭が必要だ」


「かしこまりました。上層部への連絡はいかが致しますか?」


「彼らの力も借りねばならんだろうから一応頼んだ」


「はっ!」


 ビシリと敬礼し直した面々が、我先にと通信機器に向かい走っていく。そんな者らを見つめ、リレイヌはそっと息を吐いた。


 アジェラとの戦い。

 この戦いで、失うものがなければいいなと、そう思う彼女は、どこまでも臆病だった……。

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