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レヴェイユ  作者: ヤヤ
第二章 裏切りの少女
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四十四話 緊急事態

「急いで急いで!」


 バタバタと忙しなく駆けるふたりの人物。

 赤い制服を身に纏うそのふたりは、子供のようだ。

 短く切られた橙色の髪をそのままに、左右で色の異なる赤と緑の瞳を持つその子らは、せっせと足を動かし走っている。


 その素早い走りっぷりは、まさに風のごとく。

 時に壁を、障害物を利用しパルクールの要領で駆ける彼らはなにやら慌てている様子である。


『ナナ! ハチ! そこを真っ直ぐ行った突き当たりを右に!』


 ふたりの耳元で声が聞こえた。

 若干焦ったような指示を出すそれに、ふたりは同時に「了解」を返す。


 見えた突き当たりを右に曲がり、ふたりはそのまま路地の方へ。キキーッ!、とブレーキをかける勢いで停止すると、目前で女の首をわし掴む狂人に目を向ける。


「オヤ?」


 笑う狂人が振り返る。

 ふたりの子供は共に構えをとって見せた。


「これはこれは……誰かと思えば七番と八番ではございませんか。我らアジェラの実験体が何故、ココに?」


「そんなの教えない! サイさんを離せ!」


「そーだそーだ! お前嫌い! サイさんを離せ!」


「ホホ、活きが良いですねェ」


 狂人が言ったと同時、どこからともなく現れた白髪の青年が、これまたどこで拾ったのかもわからぬ鉄パイプを振るい狂人に攻撃。しかし難なく掴まれたソレは勢いをつけてなぎ払われ、青年は音をたてて壁にぶち当たる。


「エスさん!!」


「ナナ!! 前!!」


 ハッと顔を上げた子供の前、狂人はゆらりと蠢いた。そうして長い指先でひたりと子供の額に触れたソレは、にんまりと口元に弧を描いて歪に笑う。


「さあ、イタダキマショウ」


 言って、ソレがそっと子供の額から指を離した──瞬間だ。

 どこからともなく飛んできた刃物が、狂人の頭スレスレを通過する。明らかに殺意の籠ったそれに慌てて振り返れば、そこにはひとりの男性。

 片手に買い物袋を持った、癖のある、前だけが長い黒髪と、その隙間からちらりと覗く青い瞳が美しい男性だった。ふたりの子供がほぼ同時に「オルウェルさん!」と明るい声を張上げる。


「よっす、おふたりさん。怪我はないか?」


「今のところは!」


「ありません!」


「はは、そら良かった」


 言って荷物を地面に置いた彼は、にこりと綺麗に笑うと、ここに来てはじめて狼狽えた様子を見せる狂人に向かいまっすぐ歩いていく。

 狂人は焦ったように両手を広げ、その手の中に火の玉を形成。それを男性に向け放つが、男性はソレを難なくかわして狂人の懐へ。片手を強く握り、その顔面に力任せに握った拳を打ちつける。


「ッが!!」


 何メートルか吹き飛んだ狂人が、そのまま突き当たりの壁に激突。音をたててぶち当たったソレは、よろけながらも血が出た口元を静かに拭う。


「ッ、死の番犬! 何故貴様がココにいる……!」


「何故って、そら買い出し中やったからやけど……まあそれはともかくとして、そう警戒せんといてくれんか? 俺は別にお前んこと取って食おうなんざ思っとらんし、ましてや殺そうなんて……そんな甘いこと考えとらんしさ」


 ニコッと笑んだ男性に、狂人は震え、怯む。そうしてこの場を見回したソレは、大きく舌を打ち鳴らすと音をたてて消失。その場から忽然と姿を消した。

 子供たちが「あ!」と声を上げ、「追わん方がいいで」と、彼らに男性が声をかける。


「え、でもオルウェルさん……」


「どの道、あれが狂人なんは事実。ふたりだけやったら手に負えんし、なにより狂人には関わらんのが一番。レヴェイユ入った時に習ったろ?」


「ぬぬぬ、でも……!」


 男性は不満そうなふたりに小さく笑みを零すと、その頭にそっと手を置いた。そして、言う。


「アドロイが心配すんで?」


「「はい!! 追いません!!」」


「お、えらーい」


 よしよしとふたりを撫でやり、男性は立ち上がった。そして、背後で撃沈するふたりの男女を振り返り沈黙。子供たちに「配送班呼んでくれへん?」と頼みを投げた。

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