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レヴェイユ  作者: ヤヤ
第一章 人喰いの少年
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十九話 たどり着いた結論

 



 レヴェイユ研究班は調査をしていた。それは、メニーという一人の少年の検査結果を主に伝えた後の事だ。


「……あの、博士。一体何がどういうことなんでしょう」


 あの日、あの後。レヴェイユの研究室へと帰還したアイダは、何かを思考するウーリアに疑問を投げた。自分にはまだ分からない事柄をすでに理解しそれを証明しようとしている彼女に、真実を教えて欲しいと頼む。ウーリアはそれに、一度黙って言葉を返した。


「……アレは龍神だ」


「へ?」


 間の抜けた声が漏れる。ウーリアはそんなアイダを無視し、己の中で確信に変わりつつある真実を口にした。


「メニー……アレはただ龍神の血を持っている訳では無い。真の龍神。本物の神だ」


「え、いや、それはおかしいんじゃ……だって龍神の生き残りは主様だけですし……」


「よく考えろ、アイダ。コトザ様はなぜ龍神としてレヴェイユの象徴とされているか。あの方も厳密に言えば龍神ではない。だが間違いなく龍神だ」


 まるで謎掛けである。

 軽く悩んだ末に、「人工龍神?」と答えを出したアイダに、ウーリアは頷く。そして、採取済みのメニーの血液を保管庫から取り出すと、それを検査機の中へと放り込んだ。ガガガガガッ。機械が震える。


「人工的に龍神を作ることは禁止されている。それはなぜか?」


「禁忌、なので……」


「そう、禁忌だ。人が神を創るなど言語道断。ましてやそれを支配するなど狂っていると言っても過言ではない。だが、それとは別に禁忌とされた理由がある。それは、神の血と人の血が合わない。言ってしまえば創造に対する失敗が続くからだ」


 それは聞いたことがある。神の血は人間の血とは異なるエネルギーを含んでいる。それ故に、その血を一滴でも人が摂取すると忽ちに拒絶反応が起こるのだ。

 反応は凄まじく、人はすぐに絶命すると習った覚えがある。故に真の神になることは難しいのだと。


 けれど、けれどもだ。

 目の前の研究者は言った。あの子供が、本物の神だと。

 人が本物になるなど0.1パーセント、そのレベルの可能性しか有り得ない。その0.1パーセントに、彼は入り込んだというのか。そんなの、非現実にも程がある。


「いや、ちがう。その考えは間違いだ。よく考えろ、アイダ。頭を使え、アイダ」


 出した結論を否定されたアイダは戸惑った。そして言われた通りに思考を回す。

 回して、回して、回して、回して。

 そうして彼は辿り着くのだ。その答えに。


「……メニーさんは、人ではない?」


 零した答えに、そうだと、隊長は告げる。そして、検査結果を吐き出した機械を見つめ、腕を組んだ。



 ◇◇◇◇◇◇



「コトザ様と主様の体から産まれた個体。それが君ではないのでしょうか、メニーさん」


 開放された執務室。人口密度が多くなったそこで報告という名の調査結果を口にしたアイダに、メニーは鋭い眼差しを向けていた。いや、メニーだけではない。多くの視線がこの場で結論を口にした研究者に突き刺さっている。

 疑惑、好奇、納得。様々な感情を孕む視線たちを一身に受けたアイダは、笑顔でメニーから視線を逸らすとこの部屋の主に視線を向ける。主はその視線に答えるように、一度だけ、静かに頷いて見せた。


「動物の肉片から新たな個体を生み出すのは、現代科学においてそう難しいものではございません。無から有を生み出すより簡単です。主様とコトザ様の血肉を保管していたどこぞの誰かが、メニーという一つの神を生み出した。しかしそれは神気すら纏わない欠陥品。故に君は今ここで自由を得ている……というのが我々レヴェイユ研究班の辿り着いた答えですかね」


 ほう、と誰かが頷いた。けれどもメニーは動かない。ただ、忌々しげに、目の前の研究者を見つめている。


「そんなに怖い顔をしないでください。なにも取って食いや致しませんので」


 朗らかに微笑んだアイダは、「それで、どうします?」と室内にいる者を見回した。向けられた視線を自然と受け取った彼らは、横にいる者と視線を交わらせ、最終的に主君を見る。主君は疲れたようにため息を吐いた。


「どうするもなにも、今までとなんら対応は変わらんさ。とりあえず、そこまで結果が出たのなら後はメニーを創り出した輩を見つけて捕獲。丁重にもてなしてやろう」


「そのもてなしはこちらで行っても?」


「はなからそのつもりの癖して聞くな」


 吐き捨てたリレイヌに、その婚約者である男、リックは肩を竦めた。そして、イーズを見て「捕獲はお前たちがやるのか?」と問いかける。


「うるさい。話しかけるな」


 吐き捨てたイーズに、リックはやれやれと首を振った。


「相変わらず躾のなっていない犬だな。リレイヌ、そろそろ傍に置くペットは選べ。使えんヤツは捨てろ」


「イーズは有能だ。いろいろ言うな」


「客人に牙を剥くのは如何なものかな」


「それは君だけだろ」


 と、話が逸れたと、リレイヌはメニーを見る。どこか暗い表情の彼は、今、何を思っているのか……。


「……とにかく、メニーは変わらずウチで保護だ。その間に、レヴェイユはメニーと関わりのある者を調べあげ全員捕獲。徹底的に絞り上げろ」


「「御意」」


 アイダとリックが一礼。オルウェルが片手を上げ、「俺はどないしましょ?」と一言。


「君は調理に専念。今回は出なくていいよ」


「了解です」


 頷いたオルウェルを尻目、メニーは一人、部屋を出た。

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