イナリちゃんは僕にとっての救い
私は神倉の家に訪れた。
インターホンを鳴らし、私は中に入っていく。
「どちら様で……」
「神倉くんいらっしゃいますか?」
「うちの武玄は今誰とも会いたくないらしいので……」
「いや、会わせてください。私は何もしないです」
私が頭を下げると、神倉くんのお母さんは考え込んで呼んでくるとだけいって階段を上がっていったのだった。
私は少しだけ待っていると、階段から降りてくる音が二つになっていた。私は笑顔で、神倉くんによっと挨拶する。
「……君は」
「初めまして。私、吉備津 希恒ね。元気してる?」
「か、神倉 武玄……。その節はありがとう……」
「気にすんなよ」
「それよりなんで来たの……?」
「私が死ぬなって言っておいてそのままってのは流石に無責任だからねぇ。だから様子見もかねてやってきたっていうかなんていうか」
生きるのが辛かった相手に死ぬなといっておいて、無責任に枷を付けたようなものだからねえ。そういうのはあまり希恒ちゃん好きじゃねえのよ。
「武玄? この人とは仲がいいの?」
「仲がいいっていうか……。飛び降りそうになった時に助けてくれた人っていうか……」
「そうなのね!? ありがとう!」
と、武玄の母さんが私の手を握ってありがとうとだけお礼を言ってきた。
「あなたがいなかったらうちの武玄は死んでいたわ……。本当にありがとう……」
「いいんすよ! 人が目の前で死ぬのは流石に嫌なんで……。それより、武玄くんをいじめてた子たちは退学になりました。そのことも伝えたくて来たんです」
「退学に……」
先生の話曰く、そっちを退学させたら親から文句が来たらしい。
将来があるんだとか、たかがいじめごときで退学にさせるのはおかしいんじゃないかとか。先生たちは突っぱねていたそうだけど。
私と打ち合わせしてる時にもかかってきて、そん時は「人一人殺そうとしておいてなにが将来ですか?」と突っぱねていた。正直珍しい対応だよねぇ。
「ま、気持ちが落ち着いたら学校来なよ? 私は別クラスだけど、何かあったら話し相手に放ってあげられるからさ?」
「うん……」
「じゃ、これ先生から届けるように言われてたプリント」
私はプリントを手渡した。
「んじゃ、またね!」
私は手を挙げてバイバイと手を振ると、待って!といわれた。
「また、配信を楽しみにしてる……!」
「おや、私の視聴者さんかい? わかった。また飛び切りの配信をしてやるよん」
「待ってる……! ありがとう、本当にありがとう……!」
「うん」
「イナリちゃんは僕にとって救いで、ヒーローで……。身近に僕の救いの人がいるなんて知らなかった……! ありがとう……」
「救いになれてる?」
「僕は、イナリちゃんの配信に救われてた」
そうなの?
「でも、配信がめっきりなくなって……僕はいじめにつかれて、飛び降りようとした……。その時に助けてくれたのはイナリちゃんだった……。これからも僕の救いになってください」
そういって手を差し出してくる。
私は仕方ないと言ったように手を握り返してあげた。救いとなれてるのならまぁいいか。ちょっと重いような感じはするが……。
私は手を振り帰る。まぁ、これで私の役割は果たしたってことで。あとは文化祭を迎えるのみ、だね。
疲れたぁ。




