PKを狙え!
見事にキルされた。
私は再びログインし、スキルレベル上げに専念することにした。アレと出会うのはもはや事故みたいなものだしな。
死んだからといって、MPが全部回復するわけではなく、MPは時間経過で回復させるか、MP回復ポーションを使うこと、MPが回復する料理を食べる以外で回復手段はなく、私はヒバナにMP回復料理を作ってもらった。
「そういえばイナリ様。知ってるっすか?」
「知ってるって何を?」
「最近、王都でPKを楽しんでるプレイヤーが増えてるんすよ」
「PKか」
PK。プレイヤーキラーと呼ぶ。
魔物とは戦わず、人をキルする奴らのことだ。
「王都って初心者が多いじゃないっすか。うちの友達も初めて狙われて……トラウマになったみたいなんすよ」
「あー。まぁ、初心者でそんなPKに狙われたら……」
「だから気を付けてくださいって話っす。PKは結構実力あるプレイヤーらしいので。カルマ値も相当高いと思うので、そろそろ粛清NPCが動きそうなもんすけど」
ってことだった。
私は料理を食べて、王都にPKを見に行くことにした。だって興味あるし。
PKって何が楽しいのかはさっぱり理解できない。PKが好きっていうことは人を殺すのが好きっていう一種のサイコパスアピールみたいなもので痛々しいと思う。自分がもしPKしたとしても自慢はできないと思うけど。
まっとうな感性を持っているのなら、そういうことはなるべくやりたくないよねぇ。ゲームだからということでタガは外れてるんだろうけど……。
私は王都を適当に散策し、PKを探すことにした。
その時だった。背後に誰か人が立っている。
気配を感じた。私は振り返ると、ホッケーマスクを装備したプレイヤーが剣を持っている。ああ、こいつだ。
私は魔法を放った。
「あぶなっ!」
「あんたが噂のPKプレイヤーか……。あれか。ホラー映画にあこがれて自分が殺人鬼になりたい痛々しい奴なのね……」
「…………」
風貌はJソンだ。
13日の金曜日という昔の映画を見て憧れを抱いてしまった痛々しい子なのだろう。殺人鬼にあこがれるのは理解できんな……。
「死ね」
「ふふん。死ぬわけにはいかないんだな」
さっき死んだばかりだしね。
私は攻撃をかわし、火魔法をぶち込んだ。躱せない距離で撃ったから相手はもちろん被弾して吹き飛ぶ。たいした威力じゃないとたかをくくって受けたようだが、予想外の威力におかしいだろという声を聴いた。
「じゃ、トドメといこうか。天翔神通力」
私は全MPを消費した。
その3倍のダメージが、Jソンを襲う。およそ3万近くのダメージ。今の最高レベルのプレイヤーですら体力3万は越えていない。というか、5000すらも越えていない。
これを耐えろというのは厳しい話でもある。
案の定、Jソンは返り討ちに合うことは何も考えてなかったのか、ふざけんなと言い残しながら消えていった。
カルマ値が高いからデスペナルティも結構食らうだろうな。ひとまず安心安心。そう思っていると、奥のほうからスーツ姿の男性が歩いてきたのだった。
「これはこれは。どうもどうも」
「……だれ?」
「失礼。私は秘密粛清組織アクエリアに所属する粛清者、キールと申します」
「粛清者……」
こいつがカルマ値が高い奴を粛清するNPCだな。
プレイヤーではないことは確かだった。
「まずは、我々が追っていた粛清対象者の討伐、感謝いたしますよ」
「はぁ。あ、もしかして殺しちゃったから次の標的は私? 粛清される?」
「いえ。あなたはカルマ値がない……。無実ですね。粛清対象者ではありませんのでご安心を」
ならよかったぁ。
MPが今ないから戦うってなってもねぇ。
「で、そのキールさんが私に何の用で……?」
「お礼を申し上げに参ったのです。我々の代わりに粛清していただいたお礼をね。これ、お礼です」
と言って渡されたのはスキルの巻物だった。
虹色に光るスキルの書。これは紛れもなく激レアスキルのものだ。え、これもらえるの? あるという話は聞いてたけど手に入れ方がもしかしてこれ?
「これからも、そういう輩を見かけた場合、討伐していただいたら見かけた範囲でお礼をしにまいりますので」
「うっす」
なるほど。PKにはメリットはないが、PKを狙い撃ちにするというのはなかなかメリットがあるな。
PKにメリットを作るのではなく、PKを狙うほうにメリットをつけたとするならPKが減るだろうという考えからかな。




