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母海 ちひろ

 翌日。

 私は一人でレベリング作業。今日も今日とてレベリング作業。レベル上げに勤しんでいると、とある男の二人が話しかけてきた。


「あの、玉藻イナリさんっすよね?」

「ん? そうだけど」

「マジでリアルで会うとかわいーじゃん!」


 なんか嫌な反応。

 いや、可愛いとか言われるのはいいんだけど、こういう輩って敬意を払うということを知らないんだよな。なんか見定めてる感じがするっていうの?

 私は逃げる準備だけはしておくことにした。


「彼氏とかいたりしますー?」

「いや……」

「そうなんだ! じゃあ俺らにもワンチャンあるってことっすよね?」

「そうはならんやろ」

「今度配信するとき俺らも出してくださいよ!」

「普通に嫌です」


 なんで見ず知らずのあんたを配信に出さなくちゃいけないんだ。

 スコティッシュさんに関してはあっちから事故的な感じで来たから配信で出したのに。それに、どう見たってお前らのアバターはリアルモジュールではないから、絶対中身キモいと思う。


「いいじゃないっすか! 俺ら盛り上げ得意なんで!」

「お願いしやすよ!」

「いやぁ、ろくすっぽ知らない男の人を出すのはちょっとね」

「今知り合ったじゃないっすか!」

「この程度で知り合ったっていうんなら全世界の人ととっくに知り合いだわ」


 いるんだよなぁこういうマナーをわきまえないやつ。

 私の配信を何度か見に来たことはあるんだろう。それで可愛くて付き合いたいと思ってしまう人もいるんだよな。

 そういうオタクっている。マジでいる。


「お願いしますよー!」

「嫌です」


 しつこく付きまとってくるオタクたち。

 こう、私が出したグッズに何万も出して買ってくれるオタクや、想像で付き合ってる分には構わないんだけど、こういう付きまとい方はダメ。

 私は仕方がないので全力で逃げることにした。


「ああいうのには本当に逃げなきゃな……。PKしてもいいけど、カルマ値とかあるからな……」


 それに、ファンを殺したとなると印象がね。

 改めて注意喚起しなくちゃな。配信内の概要欄に場所が分かっても凸はしないでって書いてあるんだけど。配信内じゃなかったらいいってわけじゃないぞ。


 ああいう粘着質なオタクは厄介なんだよな。すぐに推し変して、上手くいかなかったほうのアンチに成り下がるパターンもあるんだよな。

 見た目や言動で私が嫌いでアンチになるのはまだわかるんだけど、ああいう粘着しておいていい返事とかもらえなかったらアンチになるっていうのは人間性が終わってると思う。


「ここまでくりゃ大丈夫だろ」


 全力で逃げてきた先は街の中央部だった。


「あれ、イナリちゃん?」


 と、私の名前を呼ぶ声が聞こえる。

 顔を上げると、おっぱいがデカいことで有名なVTuberの母海ぼかい ちひろという大手事務所所属のVTuberがいた。

 この人とは結構仲良くしてもらってる。裏のほうで……。


「ママ……」

「どうしたんですかー?」

「いや、さっき粘着質のリスナーと出会って……。配信に出させてくれだなんていうから無理だって言っても聞いてくれなかったんで逃げてきました」

「あらあら……。悪い子もいるのねぇ。で、イナリちゃん。今配信中だけど出る?」

「出ます。いや、配信邪魔してすんません。コラボとか言ってないのに」

「オープンワールドのオンラインゲームなんだから出会うこともあるわよ。ふふ。改めて自己紹介をお願いできるかしら」

「うっす。個人勢VTuberの玉藻イナリです。なんか実写のほうが人気なんですが一応Vです。よろしくお願いしまーす!」


 私はカメラのほうにぺこりとお辞儀をした。


「たしかにリアルだと可愛いっていうか……もうアイドルの見た目よね」

「ママもリアルだとおっぱいでかくていつも揉みほぐしたく」

「こらー?」

「すんませんママ!」


 そういえば顔出ししてないんですよねママ。

 ママとはリアルで友人関係なんだよね。とはいっても、ママは年齢は25歳で私とは9歳位離れてるんだけど。ママは本当に優しくてママなんだよね。


「そうそう。この子本当に個人勢なの。結構チャンネル登録者も多いのよ?」

「ママには及ばないっすよ! さすがに事務所がバックにある分ママのほうがめちゃくちゃ多いっすよね!」

「それはそう。でも個人勢で100万人付近はすごいと思うわ」

「それは大方実写のせいですけどね? Vだってのに実写で上げた動画のほうが伸びいいんですもん。そんなに私のVの体ひどいっすかね? 全部自分でやっていいと思ったから出してるんすけど」

「……あれ依頼してないの?」

「そうっすけど? 絵もモデリングも何もかも私がやったんです。出来ひどいっすか?」

「アレを一人で……。あのクオリティの絵を描けるの!?」

「絵は得意っすよ? 自分で慰めるために小学生のころからおっぱいでかい女の子の絵ばっか書いてきましたし!」


 イラストは得意なほうだ。

 ただ、モデリングにちょっと不安があるんだよね。雑談配信とかではVの姿でやってるから時折心配になる。私はいいと思って出してるんだけど。


「すごいわ! あのクオリティの絵をあんな細かく動かせるなんて才能あるわ!」

「そうっすか?」

「私はてっきり年齢もあって依頼してるのかと……」

「ははは。依頼できるほど私のお小遣いはなかったんで!」

「……あ、この子、女子高生なのよ。リアルで」

「コメント来たんすか?」

「ええ。年齢いくつってきたから……。ばらしちゃダメだった?」

「もう実写バレしてるし何もかも特定されてるから年齢ぐらいじゃもう、ね……。あの、ママ。私にもコメント見れるようにしてくださいよ」

「そ、そうね! いまするわ。あと、フレンドも一緒に送っちゃうわね」

「了解っす!」


 私はコメント閲覧を了承し、フレンドも了承しておいた。

 さすがは大手というべきか、コメントの流れがめちゃくちゃ早い。ママ、登録者だけでも200万人いるからな……。


「じゃ、さっそくゲームやっていこー! イナリちゃん。まずは話題のボスに行くわよ!」

「今からっすか!? まだレベルそんなあがってないんですけど」

「そうなの? でも、レベル17じゃない。ボスよりめちゃくちゃ高いわよ?」

「いやあ、レベル下がる前と同じくらいまで上げたいんすよ」

「レベル下がる前……?」

「実は種族が変わったときレベル1に戻されたんですよね! 20くらいまで上げてたんすよ!? 一週間かけて!」

「よくそこまでやるわ……」


 なんで種族変わるだけでレベルが戻されるんすか。納得いかないっす。












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