お祭り狐
ママは今日は素材集めとしてシラクス雪山に向かいたいらしい。シラクス雪山は王都から結構離れているが、王都で飛行船で行くと1時間程度で済むようだった。
私たちは今現在、飛行船に乗っていた。
「うわー、飛行船乗るとまじでファンタジーって感じしますよね!」
「そうねぇ。飛行船もファンタジーの定番だもの」
人間が空を飛ぶ。
一昔前じゃ考えられなかった。今の時代こそ、ヘリコプターや飛行機など手段はあるが、昔は人が飛ぶ手段なんて限られていた。
だからこそ人間は空にあこがれるのかもしれない。
私は飛行船を十分に堪能し、シラクス雪山に到着した。
この銀嶺のふもとも雪が積もっており、歩くと足跡が付く。雪が深々と降っており、少し幻想的な雰囲気を醸し出していた。
ママが狙う獲物はこの雪山のどこかにいるゴリンウータンという魔物の素材らしい。生息地がシラクス雪山だったからここに来たというわけだ。
私たちはとりあえず、雪山をまず登っていくことにした。
雪で覆われた大地を歩き続ける。吹雪ではないが、雪が結構深い。足が沈んでどうも歩きづらいな。
「ゴリンウータンってのどこにいるんすかね?」
「わからないわね……。図鑑にはシラクス雪山に生息するとしか書かれてなかったもの」
「結構あいまいだからわかりづらいっすよねぇ。洞窟内に生息してるパターンもありますし」
そっから先は自分で探せということなんだろうが。
私たちは歩いていると、なにやら泉にたどり着いたのだった。道中、魔物に出くわすことはあったが、この泉、なんか不思議な力を感じる。
この泉付近には魔物の姿が見えない。それに、積もってる雪の量が少なく、なにやら草が生えている。鑑定してみると雪草という雪の時にしか生えない草のようだった。
「なんか……すっげー泉にきたみたいっすねぇ」
「そうね。何なのかしら」
ママも不思議がって泉をのぞき込む。
すると、私は誰かに押されたかのように、思わず泉の中に落ちてしまった。ママも泉に落ちてしまい、私たちは泉の底に沈んでいく。
罠……? そういう罠だったのか? と思っていたが、不思議と息が辛くない。ダメージもない。
《進化条件を満たしています》
《特殊進化として祭り狐に進化しますか?》
進化……?
とりあえず意味が分からんが、進化するを選択してみた。すると、私の種族が変化したようで、九尾から祭り狐へと進化を遂げた。
《種族スキル:祭囃子 を取得しました》
特殊進化とか言っていたな……。どこらへんが特殊なんだろうか。私は泉から浮上し、陸へ上がる。ママも陸地へ何とか上がれたようだった。
「ねぇ! イナリちゃん、私進化……なにその隈取!?」
「おん?」
私は自分の姿を確認してみると。
目の下にはオレンジ色のアイラインが引かれていた。歌舞伎の隈取みたいな感じで。擦っても取れそうにない。進化した種族の特徴だろうか?
「私も進化したっぽいんすよね。祭り狐っていう」
「そうなのね……。私も愛の精霊っていうのに進化したわ」
「に、人間から精霊に?」
「特殊進化らしいわ……。条件を満たしたとかで……。なんなのかしらね」
「同じっす。こっちも特殊進化……」
『二人とも視聴者のこと忘れて会話してて草』
『いや、無理もねぇだろ』
『特殊進化してて草』
あ、配信中でしたね。
「新たなスキルを得ましたよそういえば。祭囃子っていうんですけど」
「どういう効果?」
「えっと……戦闘時に使用すると自分と仲間の攻撃力、魔法攻撃力が3倍になるっていう効果で……」
「……バフ効果として強すぎないかしら」
「っすね。消費MPは結構あるみたいっすけどそれでも強いっす。私が生きている限り発動し続けるみたいなんで」
「すごいわね。私のほうもすごいわよ」
「ママも?」
「ええ。母なる愛っていうスキルで味方の状態異常回復、そして体力の70%を回復させる効果ね」
「わぁ」
回復役として文句ない効果じゃないですか。




