帝野家会社訪問
さて、と。
まだ私にはやることがある。今回のことで……一番被害を被ったのは私じゃなくてマルーンだろう。マルーン……。本名を帝野 妃女。
マルーンの父は私の熱狂的な視聴者だ。自分の娘のせいで炎上してしまったと知ったならば怒りはどこに向かうか。
その炎上にかかわった自分の娘だ。
私はママとともに東京に向かい、スコティッシュから聞いていたマルーンの父が経営する貿易会社の前に私は立っていた。
まじで一応奇麗な格好で来たんだけど通してもらえるかな。いきなりだからアポないし。うわー、思い立ったら行動するせいで常識が全くねぇー。
まぁ、仕方ない。ダメでもともとだ。
私は受付のほうに行き、社長に会えないか聞いてみる。
「あの、お名前は……」
「吉備津……じゃなくて、玉藻イナリって言ってもらえれば」
「玉藻様ですね。アポイントメントは」
「緊急でとっておりません……。申し訳ありません。お願いします」
「わかりました。一応社長に問い合わせてみますね」
そういって電話をかけてくれていた。
この対応は普通じゃない。優しいなぁ……。心にしみるぜ。受付の人が電話を切り、社長がお会いになられるそうですと告げられた。
入館証をもらい、あそこのエレベーターから一番上の階に向かってくださいと告げられる。私はエレベーターに乗り、社長室に向かうのだった。
緊張する。
隣にいるママもすっごい緊張していた。
「あの、イナリちゃん? こんなすごい人と知り合い、なの?」
「知り合いっていうか……。ほら、マルーンってうちの仲間にいるじゃないすか。あの時私のために動いてた子」
「うん」
「それの父親っす……」
「ええ!?」
「で、なんか私のリスナーみたいなんです」
「……すごいね」
自分でもそう思います。
そして、エレベーターは運命の最上階についた。最上階を進んでいくと社長室という札が見えると言っていた。
たしかに見えてきた。厳かな扉の先にマルーンの父親がいる。めちゃくちゃ金持ちで偉いマルーンの父親。
「やべ、もう手汗だくだくで止まらねえよ……」
「早く開けなさい……」
「うっす……」
私はコンコンとノックすると入ってくださいと丁寧な声が聞こえてきた。
私は恐る恐る扉を開くと、土下座姿の男の人がいた。
「ええええ!? 初手土下座っすか!?」
「うちの娘が非常に、非常に申し訳ない!! イナリ様を炎上させるなんて……! 非常に申し訳ないっ……!」
「い、いえ! 彼女は良かれと思ってやったことですから! から回ってしまっただけで……」
「ですが! 娘はしでかしたことには変わりないのです! 娘に代わりまして、この私が心よりお詫びを!」
「いやいやいやいや、私が悪いんですよ! いくらでも止まるタイミングはあったんです! それはダメって私が言えば済む話でしたから! チャンスはあったんです。結果的に私が悪いんですって! 頭を上げてください! 私のほうが謝りに来たんです!」
社長は顔を上げた。
うわぁ。めっちゃ美形。顔立ち超整ってるじゃん……。
「お会いできて光栄です、イナリ様」
「こ、こちらこそ……」
「この度は本当に……」
「いえ、こちらこそすいません。私の炎上に巻き込むような形で娘さんの評判を落としてしまい……」
「いえ、私たち共の評判が落ちることは気にしません。イナリ様は素晴らしいお方なのにッ! こんなわたくし共のせいで評判を落としてしまわれたことが何よりの反省点なのです!」
「普通逆ですよね? えっと、私そこまで偉くなったつもりないです……」
むしろ評判落として困るのはそっちだと思う。
ちょっとというか、私の視聴者もだいぶ狂ってるような気がしてならない。
「えっと、とりあえず私が来たのは謝りたいのと……。マルーン……妃女さんを許してあげてくださいってことで……」
「うちの娘を……?」
「悪いのは結果的には私ですし、彼女も良かれと思って行動してくれました。悪ノリみたいな形で乗っかってしまって、炎上しました。それは私の反省点です。妃女さんに落ち度はありません。最近、妃女さんがログインしてくれなくて悲しいんです。私としては、個人的な我儘にはなるのですが、妃女さんともっとゲームがしたいんです」
「い、イナリ様……!」
「私を好きでいてくれる気持ちは嬉しいですが、少しは娘さんの気持ちも考慮して罰を与えてあげてください。私は、帝野さんたちのように会社を経営してるわけでもないタダの配信が趣味の女子高生のような者ですから……」
「そ、そうですね。私としたことが……。一度娘とまた話し合います」
「お願いします」
私は深々と頭を下げる。
ママも一緒に下げてくれた。
「私が伝えたかったことはすべて伝えました。貴重なお時間を取らせてしまい、どうもすいません。対応していただき、ありがとうございます」
「いえっ! イナリ様のためならばいくらでも時間は取りましょう!」
「そういっていただけると嬉しいです。私としても、なにかお詫びをしたいなと思ったのですが……。何がいいでしょうか。御社の名誉挽回のためにやれるのならなんでもやりましょう」
「え、いいんですか……? と、とりあえずでは握手を……」
手を差し出してくる。
私は握手をした。
「ありがとうございますッ!!!」
勢いよく頭を下げる社長。
「それと、なのですが……。一つお願いがございまして」
「お願いですか?」
「もちろん、契約料はお支払いいたします。外国の方々からの依頼で、日本の観光ガイドを映像で送ってくれないかといわれておりまして、イナリ様のモデルをお借りして、アフレコしてほしいのです」
「……そんな重要みたいなことをするんすか!?」
「海外の取引先の方はみんなイナリ様が好きなのです。もともと、私たちの会社はイナリ様のおかげで急激に成長したようなものなのです」
「えっ」
「一年近く前になりますが……」




