六道 蜜露身投げ事件
ロロは自分のことを話し始めた。
自殺しようと思ったきっかけはたしかいじめではなかった。学校の環境、親の環境だった。
「私が通ってた中学校ってめちゃくちゃレベル高くてさ……。私、落ちこぼれだったんだ」
「そうそう。進学校みたいな感じ。あそこキツかった」
「勉強出来なきゃゴミって感じでクラスカーストもつけられてさ」
「ちな学年一位私」
『ナチュラルに自慢すんな』
私の通ってた中学校は本当に厳しかった。
めちゃくちゃ授業早口でめちゃくちゃ進むし、テストが難しすぎるしで先生ほとんど性格悪かったと思う。
周りはガリ勉ばっかだったしな。
「私いっつも最下位でさ……。親にいっつもテストの点数で叱られてた」
『いるよねそういういい点数取らないと怒る親』
「お母さんは周りの子は頭いいのになんでお前だけ……とか、お兄ちゃん、妹は頭いいのにとか、ボロクソ言われて……。周りについていけないことの焦燥感、親の失望、もう何もかも嫌になって……。身投げしようとしてたんだよ」
思い返すのは冬の日。
私が学校でトイレに行こうとしてた時だったな。
「私が屋上から飛び降りようとした時、イナリちゃんが来たんだ。イナリちゃんは私を見てすぐに飛んできて、飛び降りるなって言って私の手を掴んで引き上げたの」
「そう。ま、私が落ちたんだけど」
「そうだったね。イナリちゃん、見事に落下してた」
「あれでよく軽傷で済んだと思う。マジで。4階ぐらいの高さから落ちたからね」
お腹痛くてトイレに抜けた時だった。
屋上に続く階段の方から音がした。屋上は原則立ち入り禁止なので不思議だなと思いつつ見に行ったら身投げしようとしてたやつがいて。
引き上げたら私が落ちちゃって。
「なんであんな綺麗に着地できたの?」
「…………漏らしたから」
「えっ!?」
「あの時、超お腹痛くてトイレに行こうとした矢先でさ……。めちゃくちゃ力んじゃったから反動で……その、出ちゃって。力抜けてめちゃくちゃ綺麗な着地になったの……。駆けつけてきた先生からくっさ!って声が聞こえてきた時は死んだ方がマシだと思った……」
これはロロも知らない。
私の尊厳が……。復帰した日、女の友達からはうんこマンって呼ばれた。
男の子も可愛い見た目してうんこ漏らしたって噂してた。もうその時から吹っ切れて下ネタ好きになった気がする。
「そうだったんだ……」
「うんこ漏らして人を助けたヒーローってことであだ名がうんこマン、うんこヒーローでした」
『草』
『そんな暴露話聞きとうなかった……』
『人を助けたのにそんな仕打ち受けてるの申し訳ないけど笑っちゃう』
そう思うよね。人を助けたのにこんな仕打ちって。
「その時ね親からこっぴどく叱られたけど……。イナリちゃんのお父さんとお母さんがうちの親を叱ってくれたんだ」
「ああ、確かそういう話してたな」
「自殺したのは親にも原因があるとハッキリ言ってくれて……そこから比べられなくなった。きちんとごめんって言ってくれた」
『親も焦ってたんやろなぁ』
『このご時世にあなたにも責任があるときちんと言える先生って貴重だよ』
『きちんと向き合ってくれてそう』
うちの父さんはそういうのきちっとする人だから。
「最近向き合いすぎてるストレスか禿げてきてるけど」
『やめろ』
『wwwww』
『可哀想な話暴露すんな』
「生徒にハゲ大名って言われてんだと。父さん少し気に入ってたわ」
『なぜハゲ大名?』
「父さん社会科を教える先生でその時大名行列とか教えてたから」
子供のあだ名つけるセンスって凄いよね。
「で、私は自分の身の丈に合う方がいいよねってことで転校したの。イナリちゃんは私の恩人。まさかゲームで出会えるとは思わなかった」
「私も……。ってか女優になってるのも驚いたし」
「東京歩いてたらスカウトされて受けてみたんだ……。昔から演劇は好きだったから……」
なるほど。そういう経緯でねぇ。
ロロちゃんは相変わらず優しいようだ。今は幸せそうでイナリちゃん嬉しいよ。
「ねぇ、これからも一緒にゲームしようよ。イナリちゃん! 私、イナリちゃんとゲームしたい!」
「しようしよう! クランはいる?」
「入る!!!」
「よーし。みんなもいいよね?」
『文句なし』
『その話聞かされたらノーとは言えないじゃん』
『こんな下ネタ女にしては珍しくいい話だった』
『さっきの話の一番の被害者がイナリで草』
『女でうんこ漏らすって相当やばすぎる。男ですらちょっとやばいのに』
「そのうんこ事件があったから今の私がいるんだ……。あれで吹っ切れたから下ネタとかめちゃくちゃ好みになったの」
『すべての元凶で草』




