第一回公式イベント ③
私は2000Pの大物の前に立っていた。
その大物はなんと銅像。運ぼうとしている奴はいるが、人の身長くらいある銅像は重いらしく、持って歩くのは困難みたいだ。
「なるほどね……。こりゃむずいわ」
持つだけで速度低下デバフがかかる。
それに、大きいから目立つ。そして、身を守る術が手を離すしかないという三重苦。
これ無理だろ。私は武器を構え、とりあえず持っていた人を倒し奪う。
「さて、運ぶか」
私は銅像を背負う。
これたしかに移動速度減少効果あるのわかるなぁ。アバターだから軽い重いの感覚はないがリアルだとクッソ重いからな。
これを運ぶくらいなら細かいのせっせせっせと運んだ方が遥かに楽だ。これはマジで効率クソ悪くて笑えてくる。私が効率厨だったら運んでねえからなこんなの!!!
「Oh……」
ずりずりと運んで見えてきたのは坂。
それも結構傾斜が強い。落としたらこの銅像は下まで転げ落ちるだろうし、かといってこれを上がるのはキツくない……?
この銅像、運ぶ難点は交換所に行くまでに坂を一つ越える必要があるっぽいなあ!?
『絶望で草』
『wwwww』
『人から奪って絶望すんなやwww』
『効率クッソ悪!!!』
コメント欄も笑いで溢れてる。
なんか知らないけど超人企画でもやるつもりか? 私はとりあえず全力で坂をダッシュした。
背後に人がいるな……。きっと狙ってる。けど、この坂を攻略させてから奪おうと考えてるのか奪おうとはしてこない。
いいだろう、返り討ちにしてやる!
私は全力で駆け上がった。
坂道は基本的に移動速度低下のバフがかかる。この銅像を持つことでもかかる。二重でかかってるから超遅い……。
が、お楽しみはこれからだ。背後から武器を構えた男たちが出てきた。
「それをよこせ」
「よこしやがれ!!」
「いやだよ!!! せっかくここまで運んできたんだ!」
私は銅像を蹴り飛ばす。
この先は坂道。銅像は急な斜面を転がっていく。ゴロゴロゴロゴロ……。
私は銅像に飛び乗り、足を動かして銅像と共に走っていく。
「えっほっえっほ!」
『シュール』
『wwwwww』
目の前に女の子のプレイヤーが宝を持って移動していた。あれは500Pのやつだな。
この勢いのままひったくっちまえ!
私は銅像を勢いよく転がしつつ、女の子のものを奪い取った。
「もらいっ!」
「あぁ!? って何事!?」
「すごいあの人……」
銅像の勢いは止まらない。
銅像つっても割と丸っこい形してるからな……。よく転がる形状してるし重さもあるから坂で加速してんだよな。疲れてきた。一体いつまでコサックダンスみたいな動きを続けりゃいいんでしょうか。
超高速コサックダンスを披露してるのなかなかに滑稽すきる。
「イナリ様前!!!」
「え?」
私は前を向くと目の前には大きな木があった。
最初に言っておこう。これの止め方を教えてください。こんな勢いで突っ込んだらダメージ不可避なんですけど!?
私は銅像ごと木々に突っ込んでいく。銅像は木によって急ブレーキし、私はそのまま投げ出されて木に頭を打った。
「ぐおお……。だ、ダメージが……」
やっと止まった。
私は銅像にかけより銅像を持ち上げる。
「なんでこんな体張ってんの……」
私は立ち上がると、一人の女の子が駆け寄ってくる。
「イナリ様大丈夫ですか!?」
「大丈夫大丈夫……。と、よく私がイナリ様だってわかったね。君は?」
「わ、私リスナーのロロです! イベントに参加したら推しと出会えて嬉しいですが……何なさってたので?」
「いや、これ運んでたの。坂道転がしたら止まれなくてねぇ。ロロちゃんね。どっかで見たことあるんだけど……」
「えっ……? あ、いや、気のせいでは……?」
『この子女子高生女優の六道 蜜露じゃない?』
コメント欄では六道という名前で溢れかえった。
私の記憶を呼び起こしてみる。六道……。
「ああ、中学校で自殺しかけてた!」
「その節はどうも……」
「で、いま活動休止してる女優の!!」
「はい……」
『え、知り合い?』
『自殺しかけてた?』
『どゆこと?』
「いやねぇ、中学校の途中まで私とロロちゃん同じとこだったんだよ。ロロちゃん、あれから大丈夫? 辛いこととかない?」
「……あの、イナリ様。今配信中で?」
「うん。……あ、自殺とか言わない方が良かった?」
「……はい」
Oh……。
コメント欄では自殺のことを聞きたい人がたくさんいた。そりゃそうだよな。
私はあまりテレビ見ない方だが、そんな私でも知ってるくらいには有名な女優になった。一昨年話題になったドラマの主役として抜擢、高い演技力でドラマにたくさん出て順風満帆な日々を送る女優さん。
あまり過去のこととかは話さないとかでSNSでも話題になってた。
「…‥ゴメ!」
「いいですよ。イナリ様なら許します。ふふ、イナリ様は昔から本当に親しみやすくて……。ふふふ、イナリ様。ここで会えたのも何かの縁ですし、フレンドになりませんか?」
「いいよ! ってか昔みたいに砕けた口調でいいよ!」
「そお? うん……。イナリちゃんがいいならそうしようかな! イナリちゃんも見ない間にこんな成長して……」
「アバターの姿だから……と、やべ、ここで立ち止まってたら追いつかれちまう! 積もる話はまた後にして逃げるよ!」
「え、誰かに追われてるの!?」
「この銅像を狙う奴にな! 全力で逃げる!」
「う、後ろ持つよ!」
「助かる!」
私はロロと一緒にポイント交換所に銅像を運んだのだった。




