料理人ヒバナ
海は青いぜ……。
波の洞穴近くにある町、海の町マリーン。私は桟橋から釣り糸を垂らしていた。
この世界の魚はたくさんいるらしい。溶岩に住む魚、空を泳ぐ魚などなど。ゲームであるために現実の常識は一切通用しない。
で、重要になってくるシステムもある。私のクランにもそういう役職の入れたいなぁとは思ってる。
防具や武器は基本的にスコティッシュに、農作業はアンテ、採掘、伐採はマルーン、戦闘が私とフォーチュン。
そこに加えるのは料理人。料理というのは結構重要。一時的なバフ効果があるのだ。
ただなぁ。私が勧誘してると言うか、私のクラン、常識人の方が少ないんだよなぁ。マルーンとスコティッシュぐらい。私を含め他三人はどこか変なんですよねぇ。
「料理人探すかぁ」
「うおおおおおお!!!」
と、釣りしていると思いっきり海に飛び込む少女。そして、潜り海面から出てくる。
「とったどーーーーーーー!!!!」
「…………」
「おおっとぉ、そこのお嬢さん……イナリ様だ!」
「また結構やかましそうなのが……」
「奇遇ですねぇ! 何してらっしゃるので?」
「釣り、ですね」
「ほほう! いいですよねぇ釣り。まぁ、私は原始人なので素潜りで獲る方が好きなのですが?」
「なんとなくわかる……」
めちゃくちゃせっかちそうな見た目してるもん。
「ところでイナリ様。ご相談が」
「……なに?」
「料理人を探してはいないでしょうか!」
「料理人?」
「はい! 料理はこのゲームにおいて重要なものだと思うんすよ! めちゃくちゃクオリティ高い料理はバフ効果もすごいのです! 美味しくて、体力回復もできて、バフもかけれてまぁ最強! 私、イナリ様のクランにどーーーしても入りたくて! 前作からずーーーっと料理人になってるんです!」
「…………」
「結構有名だったんすよ? 前作では料理屋ヒバナっていう……」
ヒバナ。聞いたことがある。
生産職で有名だったのがスコティッシュだ。スコティッシュはオドオドしながらも武器など作る腕前はすごい。レシピとかも大量に見つけて、アレンジも上手いと言われていた生産職のプレイヤー。
ヒバナはそのスコティッシュの料理人バージョンだ。
料理屋ヒバナを経営している女の子は私と同年代くらいと聞いたことがある。めちゃくちゃ若いという。
たしかに私と同年代だ。
「デビューした当初からおっかけてまして! ファンなんす!」
「ありがとう」
「ずっとずっと……愛すべきイナリ様に飯を食べさせたいと評判をあげまくりました。料理はもう最高ランクで全部作れてアレンジもできるくらいにはガチでやり込みました。でも……」
「…………」
「来てくれなかった! このゲームに移ったと聞いて私もすぐさま始めたんす! やっと……やっと会えたっす!!」
「なんつーか、ごめん……」
いや、行こうとは思ってたのよ。で、店の前に行くとめちゃくちゃ人多いし入る気失せたというか……。行列とか人混みは苦手な方なのよね……。
スコティッシュも同じ理由で店に行かなかった。
「私を料理人として雇ってください。クランに所属じゃなくていいんす。個人的にあなたに振る舞いたい……」
「いいけど……。どうせならクラン入りなよ」
「えっ……」
「さすがに仲間内でこういう無償でやるならいいけど、クランにも入ってない人に無償でやらせるのは流石にね……。それに、一人料理人をクランに入れようと思ってたところ」
「そ、そそ、そうなのですか!?」
「うん。ま、アンテもマルーンも紹介されて入ったクチだし、文句は言わないでしょ。イナリ神社にようこそ。名前は……」
「ヒバナです! よろしくおなしゃーーーーーす!!!」
ヒバナは海からざばぁと上がって頭を勢いよく下げてきた。
ヒバナ、か。料理の腕は本物だ。活発で、明るい少女。短い髪が似合ってるボーイッシュガール。
胸は控えめだ。
「嬉しいなぁ〜〜! あ〜〜! 嬉しくて今日は眠れなさそう……! 推しと同じクラン……! ラッキーにも程がある!!!」
「そこまで喜んでもらえて嬉しい限りだよ。ただうちのクランは割と癖あるやつばかりだから……。特に2名」
「過去の配信内容は全部見てるのでわかってまっす!」
「じゃ、拠点に案内するよ。行こうか」
「はい!!!」
元気がいい新人ですね。




