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トウキョウ・オフ会 ②

「ゆっくりとお楽しみくださいませ」


 私はガチガチに緊張していた。

 っていうか……。


「マルーン、なんでこんな由緒正しそうな割烹料理店に……」

「ち、違うんです。ボクはカラオケとかにしようとしたのですが父が」

「父が?」

「イナリ様をお迎えしておいてカラオケとは何事だ、お得意先と連れて行く割烹料理店に案内しなさいと叱られまして」

「…………」


 そう言われると何も反論出来ない。

 スコティッシュ曰く、マルーンの父は私の熱狂的な信者らしい。

 うん……。だからと言ってここは流石に。ガチガチに緊張してる。


 すると、襖が開かれ女将が入ってくる。


「イナリ様。私はここの女将の井上と申します。本日は誠に来店ありがとうございます。板長を紹介したいのですがよろしいでしょうか」

「え、は、はい」

「板長の……尼崎です。本日はご来店ありがとうございます」

「は、はい」

「失礼ながら……私も女将も大のイナリ様ファンでございまして。失礼ではありますが、挨拶をと」

「…………」

「本日は、精一杯、イナリ様が満足いただける料理を提供させていただきます。是非、楽しんでいってくださいませ」

「わ、わかりましたぁ」

「失礼します。その、無礼を承知ではありますが、帰る際、わたくしの私物にサインをお願いしたいのです」

「……はい」


 女将たちは行ったのだった。


「なんでここの人までファンなの!? こんな年季の入ったいいお店の人が私みたいな小娘のファンって絶対おかしいって!? なに、社会現象!?」

「落ち着くのだイナリよ」

「凄いわネ。イナリのネームバリューはVIP並みヨ」

「だとしてもめちゃくちゃ緊張するわ! ただVやってるだけの女子高生にこんな礼儀正しくしなくてもいいのに! 今どういう状況!?」

「あのぉ、先ほどの板長さんがつぶやきをしてますぅ」

「えっ」


 スコティッシュは私にスマホの画面を見せて来る。

 "推しのイナリ様に料理振る舞えることになりました。推しに料理を振る舞うことが人生最大の目的でした。神様はいるのですね"と。


「そこまでのことかな!? そういう目的ならもっと大衆料理とかそういう店の方がいいと思うけどねぇ!?」

「板長さんも父に布教されてどハマりしたみたいです。昔はもっと堅気っていうか、ものすごく厳しく、自分にも部下にも厳しい人で」

「……一年でこんなオタク気質になるのすごくね?」

「父がこの店を勧めたのはこの店で働く人大体がイナリ様推しということで」

「……なに? 私新手の教祖様になった感じかおい」


 私を推してる人たちが集まってる店に案内されたってこと?

 なんで私ここまで推されてるの? そこまで面白いこととかなんもしてねえよ! ただ元気に楽しくゲームの配信、時折下ネタぶっ込んでるだけなんですけど。


「ここまで推されてると逆に怖えよ。血迷わず私とコラボしないあたりはいいんだけど……。こんな由緒正しき伝統みたいな店がVに侵食されたらそれこそもう惨めだよ……」

「一時期そういう話は出てたようですが、流石に首相も通うようなお店でそういうことはできないと言われたそうで」

「あったんかい! ってか首相ってあの?」

「はい」


 なんでそんな大層な高級店が私を推してくれるんですか。

 そこまで来るとビビりますけど。


「とりあえずご飯を食べましょう。もう来てしまったものは仕方がないので」

「うん……。美味し……」


 高級割烹料理というだけあり、とても美味しい。素材にこだわられ、調理にも手抜きがない。

 美味いんだけど私って割と貧乏舌だし、少し手抜きされても美味いとしかいわないよ。こんな私にこんな高級すぎる店は不釣り合いだよ。めちゃくちゃ普段着なのに今。


 まぁ、楽しむけどさ……。


「美味しいですねぇ。マルーンさんに何回か連れてこられましたがとても美味しいですぅ」

「…………」

「うむ、美味い!!」

「あれ、フォーチュンお刺身食べないの?」

「食べないワ。その……生のお魚がダメなの。好きなのヨ。でも食べると蕁麻疹が出るから無理なノ」

「アレルギー?」

「ソウ」

「ならもらうよ。お刺身美味しいし」

「あげるワ」

「アレルギーか……。すまないね。計算しておくべきだった。他にアレルギーはないかい? 板長に伝えてこよう」

「生の魚がダメなだけで焼いたりとか煮たりは大丈夫ヨ。基本的に私は生食でなければ大丈夫なノ」

「生卵もダメだフォーチュンは」


 生食がダメかー。日本人って割と生食することが多いからなぁ。生食がダメなのは珍しく感じる。


「だから寿司とかもダメなのよネ。野菜は生でもいけるのだけれド」

「わかった。伝えてこよう。イナリさんはアレルギーのほどは?」

「んー、ないかな?」

「わかりました」

「……我には聞かぬのか?」

「どうせないだろ」

「そうであるが形式的に聞くのも礼儀だろう!」

「はいはい」


 聞いて欲しかったんだ。

 私は料理を食べ進める。運ばれてきた料理を平らげ、腹が膨れてきて、やっと食事を終えた。

 女将さんがサービスのデザートを持ってきてくれた。イチゴのムースだった。ふわふわした食感がとても美味しい。


「さて、食べたことだし行くとしましょう。せっかく東京に来たんですし、時間が許す限りボクが東京を案内しましょう!」

「我もいいところを知っているのだ……」

「東京を満喫させてあ・げ・る」

「是非是非見て行ってくださぁい!」

「お、いいね。ま、まずここの金を払って……いくらするんだ。想像したくねぇ〜」

「ボクが払います」


 カードで決済して店を出た。

 金持ち気分味わえて良かったです。









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