トウキョウ・オフ会 ①
5時そこらには東京につき、カプセルホテルを取り次の日を迎えた。
地下鉄に乗るが、満員電車でぎゅうぎゅう詰めになりながらも新宿駅で降車し、ハチ公前でスマホをいじって待っていると。
「本当に来ている……!」
「こ、こんにちはぁ……!」
ボブカットの茶髪の女性と、ポニーテールに髪をまとめ上げた女性が私に話しかけてきたのだった。私は名前を尋ねると、ポニーテールのほうがマルーン、ボブカットのほうがスコティッシュらしい。
二人は私が東京にいることに驚いていた。
「フットワーク軽すぎませんか?」
「でしょ? 初めて東京来たよ」
「は、初めてなのにそんなすぐ来ることを決断したんですかぁ……?」
「うん。人多いね。札幌も割と多いほうだったけど東京は次元がちげえや。大人になったら移住しようかな」
「やめておいたほうがいいです。北海道のほうが食事はうまい、地価が東京よりも安いと、そちらのほうが生活においては便利ですので」
「そう?」
やっぱ東京は違うなァ。
私たちが会話していると、駅のほうからなんだか明らかに電波系の女が歩いてきた。黒づくめの服。まるで喪服みたいな感じで黒い服しか着ていない二人組。
片方は黒の長髪でカチューシャを身に着け、片方は黒い眼帯をしている。
「おい、あれってフォーチュンたちじゃないよな? さすがにあれと知り合いとか思われたくないんだけど……」
「ボクも二人とは現実で出会ったこともないのでわかりませんが、あのいかにも怪しいやつは二人でしょう」
「黒づくめゆえにものすごく目立っておりますね!?」
「ま・た・せ・た・ワ」
「フハハハハ! 新宿に我、降臨したり!」
黒づくめの二人が話しかけてきた。
「こう、なんで黒づくめなの? 葬式でも行くの?」
「黒い服を着てる方は見かけますけどここまで黒づくめ……」
「もう少しファッションというのを考えたらどうだい君たち。そんな格好で失礼だろイナリさんに!」
「いいのヨ。キエエエエエエ!」
「これ以外の服はあいにく持ち合わせておらぬわ! フハハハハ!」
「誇れることか! ボクが見繕ってやるから今すぐ着替えろ!」
ということでまずは服屋に向かった。
服屋でマルーンが二人に合うコーディネートをして、それを購入。その買った服に着替えさせて、見事周囲に溶け込むようなナチュラルコーデとなっていた。
いろんなことできるなぁマルーン。
「ああ、そうだ。イナリさん。本日はボクのほうで店を予約しているんです。少し遠いですが美味しいお店なのでどうでしょうか」
「お、予約してくれたの? ありがとう!」
「いえ、当然のことをしたまでです。少し車で移動することになりますがいかがでしょう」
「美味しいところならいいよ! 車で!」
「了解です! では今呼びますね」
マルーンはどこかに電話をかけ始める。
スコティッシュも買ってもらえた服をキラキラした目で見ていた。
「スコティッシュ嬉しいの?」
「はいぃ。マルーンさんはファッションセンスとかよくて……。私の分は見繕ってもらえないと思っていたのでぇ……」
「マルーンって何でもできるのネ」
「本人の性格はあれだがな」
性格に関してはアンテも人とのことは言えないと思うけど。
「小さいころから厳しい教育を受けてますからね。マルーンさんは。でも、マルーンさんの家はものすごくイナリさんのことが好きなんですよ」
「……私を?」
「はいぃ。デビューした時に父娘ともども見つけてはまっちゃったみたいで。マルーンさんの家には作らせたイナリさんのグッズとかもろもろあるんですよ」
「……そういやデビューした一年前ぐらいにグッズ作りませんかと捨て垢みたいなやつからDMが来たな。ノリでOKしちゃってマジで出たのはビビったけどもしかしてその出資者って」
「多分マルーンさんの家ですねぇ。ものすごくドはまりしてるので、一回連れていかれるかもしれません」
「マジ?」
そんな金持ちの家に気に入られてんの? 割とデビューした時からものっそい下ネタぶっこんでたんですけどそんな奴のどこがいいんだ?
顔か? 確かに私は可愛いもんな。顔だけならまだわかるが。
「……なぁ、スコティッシュ。私のチャンネルってコメントはしないけどチャンネル登録だけしている海外の人多いんだよ。変なスパムかと思ったんだけどさ、マルーンの家って貿易業って聞くしもしかして」
「はいぃ……。マルーンさん曰く、父は自分以上にイナリさんの信者で海外の方と話をする際布教してるみたいなのです。海外の人もものすごい可愛い見た目でチャンネル登録してるみたいです」
「うっそだろ海外まで布教してんのマルーン家!?」
個人Vにしてはやけにチャンネル登録者が多いし、一時めちゃくちゃ登録されていた時期があった。50人だったのが一気に50万に増えたのは何事!?って思ったし、大半が英語とかフランス語とかそういう人だったから乗っ取られたかと思って親にも相談した。でも問題なかった。
マジで不思議だったんだけどマルーンの家のせいかよ。
「私英語できないから海外の人に配慮できないんですけど!」
「なのであちらが日本語覚えて視聴してるそうですぅ」
「なんで!?」
「私もその熱意を見てびっくりしましたぁ……。一度だけついて行ったことがあるんです、その時にマルーンさんのお父さんが布教して、相手が興味を持って……でも言葉がわからないと言って、父が日本語を教えるんです。イナリさんに興味を持った海外の人は必死で日本語覚えてるみたいでぇ……」
「うそだろ……」
「海外でも可愛い人は人気なんです。イナリさんには人を惹きこむ魔力みたいなのがあると言っておりましたぁ」
「…………」
えぇ……。
「もうそろそろ迎えが来ますよ。……と、どうかしたのですか?」
「マルーンの家怖いなって話を……」
「そ、そんなに怖いですか!?」
「うん」
海外まで布教して布教成功させてんの怖いんですけど。




