慈悲深き天使
デスゲームが始まって12時間、つまり半分が経過した。
ポイントの集まり具合も上々。まだキルされていないし、ママにこのポイントを早いところ渡してしまおうかなとも考えたが、このゲーム、暗黙の了解として死ぬ前にポイント譲渡するのが当たり前になっている。
配信側にとってはあげたくない取りたい論争は不毛でしかないし、時間をかけるのは配信側としてもよろしくないからな……。
ママたちもこの暗黙の了解には気づいているはず。となると、ママがキルされたら私が手に入れた分も無駄になる可能性が高い。
ママも実力はあるが、飛びぬけて上手というわけじゃないしな。
「ポイント今渡すのは相当リスクあるな。渡すとしたら終わり際だな」
それまでたくさんのVでも戦っていようか。
私が歩いていると、天使の羽をもった女性とエンカウントした。
「……っ!」
私は戦闘態勢をとるが、相手はなかなか構えなかった。
こいつは堕落した天使系VTuberの天使 シロという奴だ。まじまんじ所属。割とプレイヤースキルがある人だった気がする。
離したこともないし関わったこともないし、あまり配信は見に行けてないからわかんないことだらけだけど。
私が構えているとアナウンスが鳴り響く。
《天使シロがポイントを譲渡するそうです。受け取りますか?》
「ん?」
「はわわ……。推しだぁ、推し……」
「ん?」
「わ、わわ、私のポイントを差し上げますっ! 推しには優勝してもらいたいですからねっ! 私が優勝して推しであるあなたとコラボしようと思いましたがっ! まさかここで会えるとは!」
「ん?」
「初めまして! まじまんじ所属の地上に堕ちた堕落系天使、天使シロです! 昨年、あなたの配信に出会ってとても好きになりました!」
「……ありがとう? 戦わないの?」
「推しと戦うなんて恐れ多いっ! いや、ほんと私は歩くポイント製造機だと思ってくれて構わないので……」
なにそのめんどくさそうな自覚……。ポイント製造機って人間である自覚を持てよ……。
「いいの?」
「構いませぬっ! ささ、お納めください」
「とかいって油断してるところを倒そうとか言う魂胆?」
「そんな……! 信じてもらえないのなら私はここで自害をして信じてもらうしかないのですかっ!? ならばそうします!」
そういってナイフを取り出したかと思ったらナイフを自分に突き付けていた。
「ちょちょちょ、待て待て待て! なにその過激思想!? 悪かったよ疑わないよだから自分の命を大切にしよ? ね?」
「イナリ様ぁ……!」
「ポイントはありがたくもらうけど、私どちらにせよとある人に譲渡する予定なんだけど……」
「いいですとも! ポイントはもうあなたのもの。私はあなたに捧げるためにたくさんのVTuberをなぎ倒しましたが、それはすべてあなたのもの。イナリ様がご自由にお使いくださいませ」
「あ、ありがとう」
天使シロさんに攻撃の意思は見えない。
私は攻撃態勢をとりあえずやめた。
「玉藻イナリ様! 不躾なお願いではありますが、私も一緒に行動させてほしいのです。推しとコラボすることは私の願いなんです! ポイントを差し上げたのですから、それぐらいはお願いさせていただいても……?」
「いいっすよ。イナリ様とかじゃなく、普通にイナリと呼んでいただいても……」
「なりませぬっ! 推しは崇拝されるもの! 敬意を込めなければだめなのです!」
なにそれ……。
とりあえず……。
「天使シロが仲間に加わった……ってことでいいのかな」
「はいっ! 大船に乗ったつもりでどんと戦闘やらなんやらは任せてください!」




