◇ 紫の扉
あたしは昔は不良だった。
学校なんてさぼって当たり前、喧嘩に明け暮れた毎日を送っていた。あたしを慕う後輩も現れて、あたしの天下だった。
が、同時にコンプレックスもあった。
あたしは喧嘩ばかりしていて、怪我がしょっちゅう。体が傷だらけになっていて、ナイフで切られた傷跡や、包丁で切り付けられた傷跡などが今でも残っている。そんな私は可愛いものが好きだった。
とあるVの人をみて、あたしもこんな可愛く配信してみたいと思ったのがきっかけ。ダメもとでアローライフに応募したらオーディション通過してしまい、所属することになったのだ。
「よっしゃ、どんな化け物でもかかってこい!」
あたしは先へと進んでいくと。
部屋が現れた。部屋の中は紫色に染まっており、真ん中には。
「わー、かわいい~」
猫ちゃんがいた。
猫ちゃんは顔をかき、腕をぺろぺろしている。可愛い。
「……ここにいるってことは絶対魔物だろ! 討伐しろー、あたし!」
あたしは自分のほほを叩く。
「ニャァ~」
「うぐっ……」
猫ちゃんが私の足元に近寄ってきてすりすりしてきた。
なんだこの可愛い子。なんだこの可愛さ。もしかしてアレか? 可愛すぎてここから出さねえって感じのもの? なんつー呪いだ。あたしはこの部屋に封印されろっていうことか?
周りには猫じゃらしや爪とぎ、トイレもある。
私が出ていこうとすると、猫は寂しそうに鳴いていた。
「ぐああっ! 強い! 強すぎるぜ!」
あたしの足をがしっとつかむ猫ちゃん。
動けん……。このあたしがホールドされて動けん……! どういうことなのだ。これはいったいどういうことだ。
あたしは気が付くと腰を下ろして猫をなでなでしていた。
「猫ちゃんって撫でたくなる魔力あるよなぁー! 吸っちゃったりしてーーーー!」
「ニャァン」
「あはっ、こいつ可愛いー! あたしの住んでるマンションがペット禁止じゃなきゃ猫飼うんだけどなぁー!」
あたしは猫を撫でていると視聴者から。
『犬とどっちが好きなんですか?』
という質問が来た。
「犬と猫? 優劣つけろってか。うーむ、犬はあんな従順に尻尾振ってくれるのがたまらなく愛おしいし、猫は天上天下唯我独尊って感じがたまらなく愛おしい。世界の中心がまるで自分化のように振る舞う猫のほうが好きだな」
あたしは猫を撫でながらそう呟いた。
「あたし、猫飼ったことねーんだ。こんなに好きなんだけどな」
『なんでですか?』
「あたしの姉が重度の猫アレルギーでよー……。飼いたくても飼えねえんだ。こればかりは仕方ねえ。だから一人暮らししたときに飼おうと思っていたんだけどよ……。よく見ないで物件を買っちまったからペット禁止のマンションなんだわ……。あたしの悪い癖……」
「ニャアン」
「おー、お前はそんなあたしを許してくれるのかー! よしよーし。優しいなぁお前!」
あたしは猫を撫でていると、そういえばと思い出した。
そういえばあたし、ハロウィンイベントで事務所所属のV数人とコンビを組んでポイントを集める大会の最中だったよな。
アローライフでこのゲームをやってる人全員、参加対象で、最下位には罰ゲーム。
……あたしら、集めてなくね?
「こりゃあたしら罰ゲームかなぁ……。どんなのなんだろうな」
「ニャアン」
「こうしちゃいられねぇ! 早く先へ進まねえと! じゃあな、猫ちゃん!」
「ニャァン……」
「さ、寂しそうに鳴くなよ……。後ろ髪を引かれちまうだろうが……」
あたしは先へと続いているであろう扉を開けて、後悔の念を置いていくように全力で奪取することにした。
猫ちゃん……。




