第7話 ヘストール隊・副隊長ミュレー
遅くなってすみません。なんと書けれました。
ポチャ…
「あ〜…久しぶりに入るな…」
2人と別れた後、俺は風呂に入って疲れを癒していた。
前の宿屋では騎士団のことを考え入っていなかったので、実に二日ぶりの風呂だ。
(とりあえず今日はここで過ごすとして、明日はーーー)
「ふぃー…いやー、ルナちゃんの回復魔法のおかげで、今日中に風呂に入れるなんてありがたいぜ♪」
思考中に耳に入ってくる若い男の声。
「はーーーーー…」
それを聞いた俺は長いため息をつく。
「おいおいイオ、そんな目で見るなよ♪そんなに俺って面倒くさーーー」
「ああ、面倒くさいな、すんごい」
「いやまだ何も言ってないだろおん!?」
男の名前はリグス、傷の手当ての一件で知り合った奴だ。
しれーっと一緒の部屋にいるこいつだが、実は回復魔法で治療してくれたルナリアに一目惚れし、彼女に振り向いて貰うために仲間にしろと言ってきたのだ。
ルナのことを考え断ろうとしたのだが、肝心のルナが「怪しい人ではないと思うので大丈夫だと思いますよ?」と言ってしまい、そのまま仲間になったのである。
…まあティニアはガミガミと文句をリグスに浴びせていたが。
「まあそれとして、ルナちゃんに感謝しないといけないなあ。一人旅はやっぱり寂しいからよー。これからはルナちゃんに温めてもらわないと…ぐへへ♪」
「いや下心丸出しじゃねえか」
そう突っ込むと、リグスはゲラゲラと笑いながら言い出した。
「下心って表現は良くないなあイオ君よ♪俺はいつだって紳士的に考えてるんだぜ?」
「いやさっきの言葉のどこに紳士的な内容があったんだよ!はあ…」
このまま長居するとこいつの言動に呆れる上、のぼせるだけなのでさっさと湯船から出ることにした。
「おいおい、まだ入ったばかりじゃないかよ〜もう少しゆっくり…」
ズキンっ!
「あたあ!?」
引き止めようとしたリグスだったが、その直後仰け反りながら肩を抑えた。どうやらいきなり動いた反動で痛みが走ったようだ。
(騒がしいやつだなー…)
ガチャっ
「あ、ちょっ!?置いてくなよー!おーいーーー」
そのまま俺は無視して、風呂から出ていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はあ…もう少し静かにできないのかしら、あの男は」
「ふふ、賑やかな人だね、リグスさんって」
「あれは賑やかじゃなくて、うるさいって言うのよ」
一方その頃、隣の部屋にいるルナリアとティニアも風呂で疲れを癒していた。
リグスの慌ただしい声のせいで、あまり寛げてはいないようではあるが。
「それにしても、本当大丈夫なの?」
「え、何が?」
「リグスって奴のこと!イオは大丈夫って言ってたけど、どこの誰かもわからない奴と一緒に行動するなんて…」
ティニアはリグスのことについてルナに反論する。
確かに、リグスという男がただの旅人という保証はない。旅人に偽造して、王女であるルナリアを狙っている犯罪者かもしれない。はたまた王国の騎士団に関係している人間ということも。
「確かに変な人だけど…私は悪そうな人には見えなかったよ?それに…」
「それに?何?」
ルナリアは微笑みながら話した。
「一緒に旅をする人が増えたら、賑やかになって楽しくなると思わない?」
「…」
ルナリアの凄まじい天然ぶりの発言に、ティニアは目を丸くしながら項垂れた。
「ほんっとう、貴方ってこういう時天然よね…」
「そ、そうかな?えへへ…」
「褒めてない!…まあ、なるようになるしかないっか…」
ため息を漏らしながら、顎の位置まで湯船に浸かるティニア。するとーーー
ぷるんっ
(む…)
ふとティニアの目に、ルナリアの胸が飛び込んでくる。ルナリアの胸は巨乳…というより爆乳に近い大きさであり、目線を下げると二つの大きい膨らみがティニアの目いっぱいに広がるのである。
「…」
じーっとルナリアの胸を凝視するティニア。
「え、ど、どうしーーー」
ポニョンッ
「ひ、ひゃっ!?」
次の瞬間、ティニアは素早くルナリアの背後に回り込み、後ろから両手で揉みしだいた。
「相変わらず大きいわよねえ…あんな大食いなのに、なんでここに栄養いってるのかしらっ?このこの!」
ポニョン、むにゅん!
「ひゃっ///て、ティニア!そ、そんな揉んじゃ…んああ///」
ルナリアの巨乳が、ティニアの掌の中で踊る。男がその光景を見たら、鼻血を出して卒倒してしまうだろう。
「おまけにこんな柔らかいなんて…!あーもうっ!同い年なのにムカツクわー!えいっ、えーい!」
「て、ティニアー!風呂場でそんな…ああん!」
抵抗虚しく、風呂場にはしばらくルナリアの悲鳴?が響き渡るのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌日、俺達は宿の食堂で朝飯を食べていた。無論、リグスも一緒である。
「へー、旅の依頼でね。で、今日はあの山に行くわけか」
「もぐもぐ…ああ、今日中に行ければいいけど」
一緒に旅をするという事で、リグスにも説明をしておいた。もちろん、ルナとティニアの素性は伏せてある。
「ん?旅してるんだったらのんびりいけばいいんじゃねえのか?」
「まあ、それはそうなんだが…」
リグスの言い分は尤もだ。だが、「今騎士団から逃げている最中なんだ」などというわけにもいかないので、誤魔化しながら話す必要がある。本当のことを言って、騎士団の前に引きづりだされたら元も子もない。
「ま、俺はどっちでもいいけどよ。ルナちゃんと一緒に旅できれば問題ねえし♪」
「またそういう…」
「あはは…あ、ところでリグスさん」
「ん?」
「リグスさんも旅をしていらっしゃるんですよね?何か目的とかって…」
「んあ、目的?もぐもぐ…いや、特にないぞ?」
「はあ?」
ルナリアの質問から帰ってきた意外な言葉に、ティニアは眉をひそめた。
「俺は気楽な旅人…自由気ままに世界を回って、色んな女性にお近づきになる!だから特に、目的とかってないぜ♪」
「いや目的あるじゃねえか」
「んお?なーにが?」
「女性にお近づきになるって奴だよ」
「はー…分かってないねえイオ君よ」
ため息をつきながら首を横に振るリグス。
「女性と仲良くなるのは男が生きる上で重要な行動!それは目的じゃねえ…そう、生きる糧なんだ!」
「…」
「…」
顔をキラキラさせながら得意げにそう話すリグスに、俺とティニアは開いた口が塞がらなかった。
「そ、それってやっぱり目的なんじゃ…」
「…本当こいつおかしいわ」
「同感…」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「…」
食事後、身支度を済ませるためにリグスは一度部屋に戻っていた。
だが、部屋に戻ってきたリグスの顔は先程イオ達と話していた時と違って、少し張り詰めた顔をしていた。
「やれやれ…演技って疲れるな、本当…」
ため息をつきながら、懐から金色のペンダントを取り出す。
カチッ
リグスがペンダントを開くと、そこには1人の女性が映った写真が入っていた。それをリグスはじっと見つめる。
(レナ…)
心の中でその女性の名前を言いながら、ぎゅっとペンダントを握りしめた。
「もう少しだ…もう少しだけ待ってくれ、レナ…必ず迎えに行くからな」
そう呟きながら、リグスはペンダントをしまい部屋から出る。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アスマルタ街道・グリフォリア山方面ーーー
「あいたたた…」
「さ、流石に無理ありますよ…大丈夫ですか?」
出発を始めてから数十分後、グリフォリア山方面の街道を進んでいた俺達だったが、その道中で自分達の数倍もある巨大な岩の塊で立ち往生することになってしまった。
試しに破壊できないか何度か拳を打ち込んでみたが…案の定ビクともせず、手を怪我するだけだった。
「あはは…はあ…」
「いやしょんぼりしすぎでしょ」
「流石にこれは引き返すしかないぜ。迂回路とかないだろうしな」
両手を首の後ろに回しながらリグスはそう提案する。
「どうしますか?イオさーーー」
ルナリアが俺に向かってどうするかを尋ねた、その時だったーーー
「ーーーそれには及びません、ここからは我々と来て頂きますから」
「!」
「あ…!」
「なんだ?」
物陰から次々と姿を現す兵士達。その中に黒色の軍服を見に纏った1人の女性の姿があった。
「ミュレーさん…」
ルナリアに名前を言われた女性ーーーミュレーは左手を胸に当て、礼をしながら話した。
「ルナリア様、ご機嫌麗しゅうございます。今日もお美しい姿でーーー」
「今更丁寧に話す必要ないだろ。ルナを連れ戻しに来たんだろ?なら長々と話すなよ、めんどくせぇ」
「…」
俺に挨拶をぶった斬られた事に腹を立てたのか、ミュレーは無言で俺を睨みつけた。
「ルナちゃんを連れ戻す?どゆこと?」
「…どなたかは存じ上げませんが、貴方も我々の邪魔をするおつもりですか?」
ミュレーが睨みつけながら問うと、リグスは肩を竦めながら話した。
「邪魔ってなんだよ?俺はただ聞こうとしただけだぜ?」
「貴方には関係のない事です。部外者は下がりなさい。従わないのだったらーーー」
スッ…
「貴方も敵とみなし、排除させていただきます」
「はーん…?」
リグスに対して剣を向けるよう仕向けたミュレーを見て、リグスは何かを察したようだった。その証拠に、先程までの飄々とした表情が真面目へと一変している。
「ルナリア様、どうか我々と来ていただきたい。手荒な真似はしたくないのです」
ミュレーがルナリアにそう問いかける。
「…申し訳ありません。確かに身勝手な事だとは思っています。ですが…これは私が決めた事です。やめるつもりは…ありません!」
ルナリアはそう言いながら杖を構えた。
「ルナリア様…!」
兵士達が咄嗟にルナリアの名前を呼ぶ。その時、ミュレーが静止するよう手を上げた。
「致し方ありませんね。ですが、丁度いいでしょう」
「どういう事だ?」
言い含めたような発言に対して問いかけると、ミュレーは懐から紙を取り出した。
「ーーールナリア・ヴィル・ヴァールタリア。現時刻をもって、貴様を我が国に仇なす敵とみなす」
「なっ!?」
「えっ!?」
「…そういう事かよ」
ルナとティニアが驚きの声を上げる。ミュレーは紙をしまいながらルナに視線を向ける。
「ルナリア様と同じ名前を騙る犯罪者よ。その罪は、私の使い魔で精算してやろう…アズヴェル!」
グオオオオオオ!!
突如ミュレーの背後に、空から巨大な竜が降りてきて咆哮をあげた。
アズヴェルーーーミュレーが使役する巨大な魔物達の中の一匹で、全身が黒の鱗で覆われており非常に凶暴な性格をしたドラゴンの一種だ。
その凶暴さは時には使役者も殺してしまう程で、竜族の中では扱いがかなり難しいとされる代物だ。
「あ…ああ…」
ドサッ
ルナリアが膝を振るわせながら地面に座り込んでしまう。
「ルナリア!?」
「ルナちゃん!?大丈夫かよ!?」
「私が、犯罪者…そんな、なんで…お父、様…」
ルナリアは地面に膝をつきながら、両手で己を抱きしめ震えていた。
目の前の魔物に対する恐怖もあるが…一番は自分が犯罪者とされたことだろう。それは、父親であるアリアス王から見捨てられた事に等しく、ルナリアの心を痛めつけるには十分すぎる。
「…」
俺は心の中で頷くと、ティニアの肩に手を置いた。
「ティニア、ルナのそばにいてくれ」
「え…?」
「今のルナには誰か側にいた方がいい。頼む」
「で、でも貴方とリグスだけじゃーーー」
「ーーーティニア」
躊躇するティニアに対して、笑顔でリグスが話しかける。
「俺らに任せろって♪ーーールナちゃんの、側にいてあげな」
頷きながらそう語りかけるリグスに、ティニアはゆっくりと頷きながら下がってルナリアに付き添った。
「へえ、お前が付き添うって言い出すかと思ったんだけどな?」
「おいおい、俺を誰だと思ってるんだ?俺は女性に優しい男、そしてーーー」
シュッ
「ーーー女性を傷つける奴が、クソ嫌いな男でもあるんだよっ!!」
リグスはそう叫びながら、二つの短剣を取り出してアズヴェルに向ける。
「ーーーなら、こいつもミュレーも、ぶっ倒してやろうぜ!」
「おう!!」
「ふん…ならまずは、貴様らから殺してやる。ーーーやれ!アズヴェル!!」
グオオオオオオ!!
ミュレーの合図とともに、アズヴェルが俺達へ襲いかかる!
「…来る!」
「はっ!やってやるぜ!」
第7話 完
次はドラゴンとの戦いになります。…戦闘シーンうまく描けるかな…