第5話 存在しないはずの記憶
第5話となります。
「…」
「え、えっと…」
「いってえ…」
ボコボコに殴られた顔を摩りながら、床に正座する俺。ティニアはそんな俺を立って見下ろしながら睨みつけて、ルナリアはキョロキョロと俺とティニアを交互に見ながら困惑している(一応二人とも服は着ている)。
何故こんな事になっているのか。
悲鳴が上がった時、俺は騎士団が襲ってきたと思っていたのだが実は全く違い、どうやら浴室に虫が入り込んできたらしいのだ。
ルナリアは虫が苦手で見るのも触るのも無理らしく、それで大きな悲鳴を上げてしまったとの事だった。
襲われていないのは安心したが…不可抗力とはいえ、結果として俺は二人の裸を見てしまったのだ。言い訳は…できないだろうな。
「あ、あのー…(チラッ)」
「…何?言い訳する気?」
「あ、いえ、ないです…」
釈明しようとしたが、ティニアの怒りの圧に押され何も言えなくなってしまう。
「て、ティニア?も、もう許してあげた方が…イオさんは私達を心配して駆けつけてくれたのであって、覗きをしようとしたわけじゃ…」
「何言ってるの!貴方は仮にも王女なのよ?どんな理由があったとしても、一般市民に簡単に裸を見せちゃダメでしょ!?」
「あ、あう…」
(は、裸…)
その時俺は、先程見た二人の裸を思い返していた。
ティニアは護衛を兼ねたメイドいう立場のせいか程よく鍛えており、それでいて女性特有のスレンダーな体型をしていた。胸も中々大きく、張りのある形だった。
対してルナリアは、ティニアと同じ18歳とは思えない程グラマラスな体型だった。艶のある肌色、メリハリのあるくびれ…そして何より、ティニアより遥かに大きい乳房…王女として、いや、女性として完璧な身体をしていたのだ。
「そ、それは私も悪いと思っているから…虫が苦手とはいえ、大きく悲鳴を上げてイオさんを勘違いさせたのは事実だから…」
「だからって…まあ、貴方がそういうなら…」
「…」
二人の話し合いを他所に、二人の裸を思い出している俺。その時、身体が急激に熱くなり、そして…
ぶしゅーーーーー!
「あ…」
「え…!?」
「ちょ!?」
…俺は、盛大に鼻血を漏らして倒れてしまった。二人が心配して俺の側に駆け寄る。
「い、イオさん!?大丈夫ですか!?」
「ルナリア!は、早く拭ける物!」
「は、はい!」
ティニアの指示で、ルナリアは素早く手拭きを持ってくる。
「あばば、ばば…」
俺は二人の慌てる姿を見ながら意識を手放した…
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ん…?」
「あ…良かった、目を覚まされたんですね…」
俺が気がついたのは夜中の12時半を過ぎた後だった。ティニアによると、気絶している間ルナリアがずっと膝枕で看病していたらしいのだ。それを聞いて、俺は恥ずかしい気持ちでいっぱいになり、はあ…と、ため息を漏らす。
(女性の裸見て、鼻血出してぶっ倒れるなんて…子供かよ、ったく…)
俺はただただ反省する。
「全く…心配かけるんじゃないわよ!」
「ご、ごめん…(´・ω・`)」
ティニアは腰に手を当てながらため息をつく。
「ま、その様子じゃ、まだ本調子じゃなさそうね。暖かい物もらってくるわ」
そう言ってティニアは部屋から出ていった。
「あいつ…さっきと態度が違う気が…」
「ふふ、倒られた時、ティニアも心配していたんですよ?」
「え?」
「顔に出ないだけで、ちゃんとイオさんのことを心配しているんですよ?ただ…もうちょっと優しくしてほしいとは思いますけどね、あはは…」
苦笑いしながらルナリアはそう言う。
(人は見かけによらない、って言うんかな…)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「イオさん、もう体を起こしても大丈夫なんです?」
「ああ、ありがとうルナ。心配かけちゃってごめんな?」
あれから体調が戻った俺は、ティニアが持ってきてくれた暖かい飲み物で一息ついていた。
なお、ティニアは「明日も早いしもう寝るわ」と言ってベッドで寝ていた(なお寝る間際、ルナリアを襲わないように俺に銃を向けて脅してきたが)
「いえ、体調が戻って良かったです」
「はは…それじゃ、元の部屋に戻るよ」
そう言って立ち上がった時、ぐらっと足元が揺らついてしまう。
「うっ…」
「あ…!」
スッ…
膝をつきそうになった時、咄嗟にルナリアが俺を支えてくれた。
「大丈夫ですか…?やっぱりまだ調子が…」
「いや大丈…(い!?)」
大丈夫と言おうとした俺だったが、左腕にルナリアの大きな胸が当たり、思わず顔が赤くなってしまう。
「っ…///」
「イオさん…?顔が赤いですよ?もしかしてまだ体調が悪いんじゃ…」
ルナリアは赤くなった俺の顔を見て、まだ体調が良くないと勘違いしたのか、心配して俺の頭に手を当て体温を測ろうとする。
「わっ、わっ!る、ルナ!だ、大丈夫だから!」
「え?で、でも顔が…」
「へ、部屋が暑いだけだから!と、とりあえず手をーーー」
必死に誤魔化そうとした俺だったが、その時不意に脳内に何かの記憶が流れ込んできたーーー
ふふ、恥ずかしいの?
はは、やっぱり俺の子供だな。ここまで似るなんてな。
それはそうよ、貴方の子供なんですもの。ふふふ…
(!?)
それはどこか懐かしく、そして…温もりを感じる記憶だった。
「イオさん…?大丈夫、ですか?」
急に固まった俺を見てルナリアは心配して声をかける。
「…え?あ、ああ。大、丈夫…」
突然流れてきた記憶に気を取られ、俺はうまく頷くことができなかった。
(今のは一体…?)
第5話 終了
読んでくださり、ありがとうございます。次も早めに投稿します。