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絵描きの海

掲載日:2023/01/16

私は、一人で、海辺に居る。



私の前には、キャンバスが()った。



私は、一心不乱に、絵を描き付けている。



何を描いていると思う?




()る日、私の元に、一人の大人が訪れた。



「やぁ」


「今日は」


「海を描いてるの?」


「はい。毎日、この場所で」


「真っ青だね」


「海ですから」


「何故、絵の中に、誰も人を描かないの?」


「海を描きたいので」


「そう」


「絵を見てくれて、有り難うございます。


 お礼に、貴方(あなた)を描きましょう」



私は、バッグからスケッチブックを取り出し、大人の姿を、さらさらと描き付けた。



「描けました」


「似てるね」


「気に入ったなら、差し上げます」


「有り難う」



私は、スケッチブックを一枚破り、大人に渡した。


大人は、礼を言って、帰って行った。




別の日。


私の元に、老人が訪れた。



「よう」


「今日は」


「海を描いておるのか?」


「はい。毎日、この場所で」


「真っ青じゃな」


「海ですから」


「何故、絵の中に、誰も人を描かんのじゃ?」


「海を描きたいので」


「そうか」


「絵を見てくれて、有り難うございます。


 お礼に、貴方を描きましょう」



私は、バッグからスケッチブックを取り出し、老人の姿を、さらさらと描き付けた。



「描けました」


「よう似ておるのう」


「気に入ったなら、差し上げます」


「有り難うよ」



私は、スケッチブックを一枚破り、老人に渡した。


老人は、礼を言って、帰って行った。




又、別の日。


私の元に、子供が訪れた。



「やぁ」


「今日は」


「海を描いてるの?」


「うん。毎日、この場所で」


「青いね」


「海だから」


「どうして、この絵の中には、誰も人が居ないの?」


「海を描きたいから」


「何だか、絵が、寂しそうだよ?」


「はは……代わりに、別の画用紙に、君を描いてあげる」



私は、バッグからスケッチブックを取り出し、子供の姿を、さらさらと描き付けた。



「描けた」


「似てるね」


「気に入ったなら、あげる」


「有り難う」



私は、スケッチブックを一枚破り、子供に渡した。


子供は、礼を言って、帰って行った。




又、別の日。


今日は、私を訪ねて来る者は、誰も居ない。


私は、一人、海を描き続けた。



ザザーン……



『絵が、寂しそう』



昨日の、子供の言葉が、思い出される。


それでも私は、只管(ひたすら)、青い色を塗り続けた。



ザザーン……



青い絵の具のチューブの、真ん中が(へこ)む。


他の色の絵の具は、一向に減る気配が無い。


私は、バッグから、新しい青い絵の具を取り出そうとした。




バッグの陰から、何か、白いものが飛び出した。


「?」


見ると、真っ白い小さな亀だった。


白い亀は、私の足元に()り寄ると、小さく鳴いた。


「キュウ」


白い亀は、キョトンとした顔で、私を見上げている。


「……ふ」


私は、少し戸惑ったが、()ぐに、ふっと微笑(ほほえ)んだ。


「キュウ」


白い亀は、椅子に座る私の膝の上に、()ず怖ずと()い上がった。


「ふふ」


私は、笑って、亀の甲羅(こうら)を、ふわりと撫でた。



「この私の、膝の上に乗るのか。


 お前は、何処(どこ)から来たんだい……?」



ザザーン……



私の問い掛けは、引いて行く波の音に、()き消された。



「……いいよ。ゆっくり、お休み」



甲羅を撫でられて、白い亀は、気持ち良さそうに、眠り出した。




私は、絵筆を止めて、ふと、今迄描いていた、青い海の、


遠い遠い、彼方を見()った。



「……私は、何が、描きたかった?」



私は、自分の膝の上で眠る、真っ白い小さな亀を、再び、見詰めた。



「君は、海の……」



私は、真っ青なキャンバスの上に、


初めて、ぽたん、と、白い絵の具を垂らした。




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