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公爵家物語(オズボーン家)  作者: オサ
3年生(2回目)
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3年生(2回目) その91 留学生

91 留学生


 半年ぶりの学園へ通う道を、公爵家の馬車が走っていた。灰色を基調とした制服、襟元と袖口のラインが青へと変わった姉妹の表情は対照的であった。笑顔しかない姉と緊張感で強張った妹、双方を姉と呼ぶ弟は婚約者に会えない時間が増えてしまった事を嘆いていた。

「レイティア姉様はいいですね。」

「ええ。ロイドと一緒の教室で勉強できるなんて、思ってもみなかったわ。」

「いや、学園に入学する時、1年遅らせると困らせたのを忘れていません。僕は。」

「そうだったかしら。ふふふ。」

 半年間休園した結果、後期の試験を受けなかった姉妹は、特別措置での進級及び卒業か、留年かの2択を提示された時、それぞれの理由で後者を選択した。姉は婚約者との学園生活を楽しむため、妹は中級クラスへの降格を避けるため、1学年下の学生達と共に学ぶ事に決めた。

「セーラ姉さんは、緊張のし過ぎではない?」

「フェレール国の王子様と王女様が来るのよ。しかも、通訳と言うか、指導役と言うか、お世話役と言うか。」

「うん、通訳で、指導役で、お世話役なんだろうね。」

 イシュア国第2王子が留学へ向かったフェレール国から、双子の第3王子と第1王女が留学に来る事になった。これまで戦争をした事が無い友好国として、相互に王族の留学生を送る事になった。親交を深める外交政策の一環であり、相互に人質を得ることで、お互いの王子の安全を保証する目的もあった。ただ、双方の国王だけは、王家が抱える問題を解決するために送り出した。

「どのような方々なのかしら。」

「フェレール国の王族ってこと以外は知らないけど、普通の王族なんじゃないかな。」

「普通って?」

「・・・特別に問題がある人物ではないという事。留学生とは言うものの、外交使節の役割もあるから、問題がある人物を送る事は無いだろうし。もし、問題があるようであれば、ロイド兄さんが知らせてくれるはずだよ。」

「確かに。でも、しっかりと対応しないと、両国の関係に影響が出るかもしれないと思うと。」

「セーラ姉さん、外交上の話は王宮の方で対応するだろうから、級友として仲良くすればいいだけだと思うよ。」

「仲良くって、公爵邸に招待した方がいいの?」

「うーん、すぐにではないけど、そういう機会も必要になるとは思う・・・。そんなに気を使い過ぎなくても大丈夫だよ。」

「そうよ。セーラ、任務という訳ではないのだから。時々、フェレール語で説明する程度の役割を担えばいいだけなのよ。」

「はい。お姉様。」

 学園生活の4年目をセーラは中等部3年生として過ごし始めた。


 セーラは教室に入った時、すでに席に着いていた1つ年下の同級生達に淑女の礼を見せた。友人と言える知り合いは皆無だったが、弟アランの同級生であり、社交界で顔を合わせた令息令嬢がほとんどで、予想以上に緊張はしなかった。むしろ、戦場で近衛騎士並みに活躍したセーラを迎い入れる3年生の方が緊張していた。

 公爵家が英雄の血筋である事はイシュア国の共通認識ではあるが、実際の英雄は暗闇の暴走で生き残った公爵と公爵夫人の2人であり、成年に達していない公子公女達は、英雄候補ではあるが、今までは英雄ではなかった。それが、今回の戦役で英雄そのものである事が証明された。英雄の一族ではなく、全員が英雄である一家という認識に変わっていた。庶子と侮蔑の対象でもあったセーラも英雄の仲間入りを果たしていた。

教室の扉が開くと、新担任の男性講師が入ってきた。

「今年からこのクラスの担任になったバース・ガターリッジだ。先任のセルバ講師は、3学年の主任として統括する立場になったが、引き続き、皆の指導にも尽力する。その点は安心するように。私が担任になった目的は、騎士層の実力アップを図るためだが、騎士以外の道を進む者は、それぞれの道に尽力してもらいたい。はっきり言うが、騎士に関する事以外は講師とは呼べない知識しか持っていない。質問は相応しい講師にするように。」

 事前に連絡はあったが、騎士の頂点である第1近衛師団団長が引退して、学園の一講師として目の前にいる事に学生達は驚いていた。

7年半後の暗闇の暴走に対応するために、国全体で若者を育てる動きがあり、多くの騎士達が学園に派遣される事はこれまでにもあった。だが、騎士団を束ねる総団長が職を辞して学園の講師になる事は初めてであった。

 年齢38歳のバースは、7年後には前線で戦う事ができないと判断して、後世のために生きることを決めていた。そして、公爵家に対する償いも兼ねていた。

「では、留学生の二人を紹介しよう。フェレール国第3王子、フェリクス・グレミヨン殿下、フェレール国第1王女、ビアンカ・グレミヨン殿下。」

 名前を呼ばれて、教壇の講師の隣に入ってきた2人は、イシュア国とは少し違った紳士淑女の礼を、バース講師に対してのみ実行した。人生の先人であり、師である人間に頭を下げる事は、王族であっても可能だったが、対等な立場である生徒に対して頭を下げる事はできなかった。ましてや他国の臣民に頭を下げる事はできなかった。それは2人の傲慢さを示す訳ではなく、王族が背負うものの大きさを示すものだった。

「フェレール国第3王子、フェリクス・グレミヨン。王家の人間として、皆に頭を下げる事はできないが。呼ぶ時の敬称は不要だ。」

 流暢なイシュア語に感嘆の溜息を数名が零したが、第3王子に対してはそれだけだった。緑目と銀髪は国王譲りの色ではあったが、フェレール国の王族が特定の色彩を持つ訳ではないため、その事に興味を向ける者はいなかった。それだけでなく、中肉中背の体格、それなりに整った顔立ちを持ったフェレール国の第3王子は、平凡な15歳の男子にしか見えなかった。

 第2王子ジェイク、第3王子レイモンドのように美形ではなかったし、第1王子コンラッドのように勇壮な体格と顔立ちを持っている訳ではなかった。イシュア国の3人の王子がそれぞれに特別な美しさや凛々しさを持っていて、それらと比べる事が無かったら、留学生の王子もそれなりに評価を受けていたかもしれなかった。だが、他の学生と同じ灰色の制服を纏っている事も加わり、外見上特別な何かを持っているようには見えなかった。

 そして、もう1人の留学生の方が圧倒的に注目を浴びていた。並んで立っているから、片方だけを視界に入れる事はできなかったが、明らかに視線を集めていたのは、双子の姉の方だった。

「フェレール国第1王女、ビアンカ・グレミヨンです。皆様と同窓になれる事、嬉しく思います。私にも敬称は不要ですから、ビアンカとお呼びください。」

 フェレール国グレミヨン王家には、3人の王妃がそれぞれ王子を出産していて、第3王子と同時に第1王女を出産していた。その唯一の王女は、母と同じサファイヤブルーの瞳と父と同じ銀髪を持った可愛らしい姫だった。

15歳ではあるが、10歳前後に見える童顔の可愛らしい姫に、セーラは魅了されていた。イシュア国には王女がいないため、レイティアとセーラの公女達がお姫様ポジションに座っているため、比較対象となった。つり目気味で真剣な表情を見せると凛々しいと評価されるセーラの美しさと可愛さの割合で9対1であるとすると、バランスを取った上で全てに完璧であるレイティアは5対5で、ビアンカは0対10で完全に可愛らしさのみの姫だった。

同じ灰色の制服姿であるのに、白いフワフワのドレスを纏ったお姫様がそこにいるかのように錯覚できる程に、第1王女の可愛らしさは圧倒的だった。

「席は、一番後ろのセーラの両隣になる。彼女はフェレール語を使いこなす事ができる。授業中に分かりづらい言葉があったら、聞くように。」

「はい。」

「分かりました。」

 右隣の廊下側に着席したフェリクスが睨みつけるように一言挨拶をしたが、セーラには睨みつけられた認識は全く無かった。戦場で明らかな殺意を向けられた経験から、学生が向けてくるような敵意に似た何かを、明確な敵意として認識する事ができなくなっていた。ただ、表情から何か緊張しているのかもしれないとだけ感じていた。

「よろしくお願いします。休憩時間に構内の案内も可能ですから。」

「感謝する。」

「あ、はい。」

「セーラ公女、これからよろしくお願いします。弟は少し緊張していますから、気に障るような態度を取るかもしれませんが、大目に見てやってくださいませ。」

 左隣の席に座る前に話しかけて来た姫君を間近で見たセーラは、しばらく何もかもを止めていた。街の食堂で幼いころから働いていたセーラも、例に漏れずに自分が姫様だったらと妄想する事は何度かあった。その都度、大好きな母の顔を見つめながら、自分は姫様には相応しくないと思っていた。セーラの思い描くお姫様は、可愛らしい存在であって、母のように美しくも強さを感じさせる女性ではなかった。

「・・・セーラ嬢、どうかなさいましたか?」

「・・・。」

「セーラ嬢。」

「え、あ、私の事は、セーラとだけお呼びください。」

「分かりました。それで、どうかなさいましたか?」

「その、余りにも、可愛らしくて、見惚れてしまいました。」

 正直に自分の気持ちを伝えた所で、セーラは顔を赤くした。初対面の同級生、しかも隣国の王女に伝える言葉ではなかった。会話の流れの中で、そういう言葉は必要にはなるが、その前に自己紹介や学園案内の予定確認など、お世話係としてすべきことが多々ある事を思い出した。

「お褒めの言葉、ありがとうございます。」

「その。あの。今日の授業後のご予定はお決まりでしょうか?」

「本日は、ブレッド国王陛下に御挨拶に伺う事になっております。学園案内の方は、明日の昼食後にお願いできますか?」

「はい。」

「昼食もご一緒してもらえると嬉しいのですが。」

「はい。」

 セーラがビアンカの第一印象を可愛らしいお姫様としたのと同じように、ビアンカがセーラに向けた第一印象も可愛らしいお姫様だった。

 姫のいないイシュア国において、未婚の女性筆頭の第2公女セーラは、国の姫と言って良く、尊大に振舞ったり、我儘な行動をしても許される立場だった。しかし、セーラは、初めて見る隣国の姫様に対して緊張しながらも、できるだけ丁寧に対応しようと懸命に気を配っていた。

 それは、媚を売るためではなく、ただ単に個人の資質として備わっている優しさの発露であり、貴族社会の駆け引きの中で生きてきた姫にとっては、可愛らしく見えた。それは、貴族間の駆け引きから言えば、侮りつつも利用できる類のものではあったが、ビアンカには心地よいものであった。



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