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公爵家物語(オズボーン家)  作者: オサ
3年生
89/198

3年生 その87 発表祭の準備

87 発表祭の準備


 イシュア暦368年2月、王都の貴族達は3月末の発表祭の準備に精力を注いでいた。国王の帰還と共に始まった社交シーズンの中で、各貴族達は王都に集めた物資と人員をどのように活用するべきかを話題とした。3月に開催される各学校の発表祭及び豊作祈願祭で活用する事が、利益を最大化できると判断すると、貴族達は商人を巻き込んで動き出した。

「エリック様、お越しになっていただきありがとうございます。」

「仕事だから。」

 財務省に久しぶりに出勤した第2公子の仕事は、貴族達の決算書類を確認して、公爵印を押す事だった。財務官の精鋭たちに仕事を全て任せていても、財務卿としての仕事を公爵代理がしなければならなかった。

「財務省の仕事が楽になったおかげで、税金の納入も順調にできています。戦勝金もきちんと納入されていて、騎士団への支払いも全て終わっています。」

「クーガー卿、豊作祈願祭に関するお金の動きは分かりますか。」

「商業ギルドに報告の提出を求めれば毎月の情報が分かると思います。納税上、3月末に1年分をまとめて提出する事になっています。」

「提出してもらうと、ギルドの負担は大きくなる?」

「処理能力を超えることはありませんが、処理スケジュールに組み込んでから動くことになりますので、直近の1か月分の報告であれば、5日ほどの時間が必要です。」

「急がせる必要はないから、5日後に提出との指示を出してほしい。」

「分かりました。何か気になる事でもありますか。」

「第1初等学校をコンラッド殿下、第2をレイモンド殿下、第3をジェイク殿下が取り仕切って動くのだけど、第2は公爵家が、第3はケネット侯爵派が資金的にも後援するから規模が大きくなっても問題ないと思うけど。第1の方はどうなっているかと思って。」

「第1の方は、王宮から多額の支援金が出るとの事です。戦勝金で王宮の予算も潤っていますので、十分かと思います。どこからも特別支出の要請はありませんでした。」

 書類の数字を見ながら会話ができるのも、決算書類が良くまとめられているからだった。

「一応、支援可能の打診をしておいて。祭りで稼ぐことに制限がかからないようにしておきたい。」

「畏まりました。」

 今、貴族の中では反ケネット侯爵が盛り上がっていた。今までの宰相派も、中立派も、ケネット侯爵派閥に飲み込まれないために集まっていただけで、組織として活発に動くことはなかった。しかし、公爵家への敵意が明確になったため、宰相派も中立派も公爵家を守る意思を持って、対抗勢力として動き出した。

ただ、国内対立がイシュア国にとって、破滅への道につながる事を貴族たちは理解していたため、第1王子と第2王子の王位継承戦にのみ注力する事にした。

それは、国内発展につながる競争であり、イシュア国貴族たちの節度ある行為であったが、その競争がいつ武力闘争に変わるのかとエリックは危惧していた。派閥の長のコントロールから外れた貴族たちが、爆弾の導火線に火をつける可能性は小さくなかった。現に、エリックは暗殺犯に襲撃を受けていた。

一見安定している情勢も、騒乱を生み出す可能性を考慮すると、エリックは細かい所まで情報を得る必要があると考えていた。そして、国王陛下が1日も早く決断する事を公子は期待していた。不満が全くない状況を作ることは無理なのだから、不満を一度出し切って、その解消に全力を尽くす方が、国のためになる事は間違いなかった。


 財務卿の第2執務机と呼ばれている大テーブルの上にあった書類を全て処理したエリックは、財務官長クーガーから、ケネット侯爵派の貴族達の様子や動向を聞いていた。納税額が増えたから、今回の祭りの利益でそれを取り戻そうと、様々な事業に力を注いでいた。それは王都及び国内の活性化につながるから推進すれば良いとは思うが、利益の独占を狙うような動きになっているのは問題だと考えた。

「クーガー卿、騎士爵達に商業投資の機会はあるのだろうか。」

「今回の報奨金を使っての投資という事ですか。」

「うん。」

「投資に回せると言っても、金貨50枚から100枚程度では難しいかと。今は上級貴族が多額の支援をして大きな商店と組んでいます。小さい商店も、大きい商店の傘下に入る所ばかりで、小口の投資ができる所はほとんどありません。」

「始まったころだったら、小さい投資ができたけど。」

「このような大規模になるとは思っていませんでしたから。」

「そこで騎士爵達の投資先を考えているんだ。この提案書を見てもらいたい。」

「拝見します。」

 モーズリー高原で作る巨大牧場への投資に関する提案書だった。

公爵領に隣接する事になったモーズリー高原は、国の直轄領ではあるが、その開発と管理を含めて、公爵家が預かる事になっていた。ドミニオン国側の入り口に砦を築いたため、高原内は自由に開発できるようになった。手の付かなかった広大な高原には多くの馬が生息していて、それを騎馬として活用する方針がすでに決まっていた。

「この案は、公爵様自身がお考えになったのですか。」

「アラン兄さんからの書簡に入っていた提案書だ。」

「第1公子も、さすがと言うか。開発に必要な資金を多くの騎士爵の貴族から集める事で賄うのですね。今のタイミングであれば、30000枚は集められそうです。ああ、小口の資金を1つにまとめて投資をすれば、大きなことができます。後に出てきた利益を分配するようになれば、継続的に金貨を得る事ができます。小さな領地を皆で所有するようなものですね。」

 王都の騎士団は、ほとんどが領地持ちではなく、月々の給金を受け取っている国家公務員のような立場だった。騎士爵を有する貴族ではあるが、子孫に残す領地はなく、一代限りでその地位を手放す者も少なくなった。その場合、後継者が騎士としての武勇を持っていない事が多く、単に貴族の地位を失うだけでなく、生活の術を失う場合も少なくなかった。

「やはり、すごいよね。この案。」

 子供と言える年齢ながら、公爵代理として何の瑕疵もなく仕事をしてきたエリックを大人として見てきたが、兄の話をする時の表情は子供のそれであった。

「はい。ですが、よろしいのですか。」

「ん、何が?」

「本来であれば、公爵家が全て出資すれば、利益は全て公爵家のものになるのではありませんか?」

「良いと思うよ。公爵家にだけお金が集まっても国は豊かにならないから。最初から騎士爵の皆にお金が回る方がいいに決まっている。財務省の方で、騎士爵の皆にこの提案を伝えて、出資を募るという業務をしてもらえるだろうか?」

「もちろんです。」

 トントン。

「入って。事務作業中。」

「入ります。」

 副財務官長のジムが書類を手にして入ってきた。通常業務のはずだが、その表情が硬すぎる事にエリックもクーガーも警戒した。

「ジム、何かあったのか。」

「ああ、エリック様、こちらをご覧ください。宰相府から予算を組むようにとの要請がありました。」

 要請の内容を見た瞬間、エリックの表情もジムと同じように硬直した。そして、正面に座っていたクーガーにその書類を手渡した。

「フェレール国に・・・。友好を深める外交使節を送るための予算ですか。」

予算を組む事には何の問題もなく、すでに納税した分で当面の支出には足りていた。贈り物は特産品とも言える魔石を用意すれば良いので、財務省が困るような事も、国庫が枯渇する危惧も存在していなかった。

「誰が使者になると思う?」

 ドミニオン国と協定を結んだとは言え、戦争の結果としての協定であって、両国に友好関係がある訳ではなかった。だから、もう1つの隣国であるフェレール国との友好を確認するための外交は当然の策だった。その事には異論も意見もなかったが、誰がフェレール国に派遣されるのかが問題だった。

「帰還されていれば、公爵様が使者となるのが自然でしょうが・・・。宰相であろうか。」

クーガーの言葉通り、理想の使者は戦場の英雄であるギルバード公爵だった。最上位貴族として相手国に対する礼にも適っていた。そして、戦争にならないようにするための威嚇行為にもなった。

「いや、宰相の様子からでは、宰相でもないようだった。」

 行政上の国王代理である宰相が使者でないとすると、次は筆頭侯爵であるケネットの名前が上がってきた。王子が成人年齢に達していれば、国王代理の肩書で使者になり得るが、それが望めない以上、できるだけ高位で実力のある貴族を使者にするしかないのだから、謹慎中の侯爵だけが有力候補だった。

「ケネット侯爵が使者になるのだろう。」

「エリック様・・・。」

 外交の使者を果たした功績で、侯爵の復権をと国王が考えている事は分かったが、公爵家を蔑ろにしている事に怒りを感じている人々を、陛下がどう思っているのかが疑問だった。1年3か月間部下として働いていた財務官僚の2人でさえ、その表情から憤っているのがはっきりと分かった。今回の戦いで、公爵家直属の騎士団だけでなく、近衛騎士団の中でも公爵の実力を目の当たりにして、敬慕を向ける騎士達は増えていた。そういった人達が、公爵代理暗殺事件の実行犯を出したケネット侯爵家に対する一方的な厚遇を納得できるはずがなかった。

「僭越ではありますが、エリック様が公爵代理として、外交使者になるということはできないのでしょうか?」

「ジム、気持ちは分かるが、エリック様に無理を言うな。」

「分かっているのだが。」

 第2公子は公爵代理ではあるが、あくまでも昨年10月の公爵が持っていた権限を代行できるだけであって、全ての分野で公爵の代わりができる訳ではなかった。国王が公爵代理として意見を言うようにと言う新たな指示があれば、進言する事はできるが、エリックには財務関連以外での進言を出す権利はなかった。

「公爵家の事を考えてくれるのは嬉しいが。何も言わない方がいい。」

 エリックは誰にも言えない事を考えて後悔していた。やると決めたのなら徹底するべきだった。ケネット侯爵に止めを刺しておけばと、妄想を広げようとした時、急に冷静さを取り戻した。

 激情のまま行動して良かった事は何1つ無かった事を思い出した。今回も冷静に見えるように振る舞ってはいたが、冷静ではなかった。警告というのであれば、あそこで刺す必要はなかった。エリックが体罰を与えた事によって、ケネット侯爵が罪の一部を償ったという構造が作られてしまった。

 姉セーラが暗殺事件に巻き込まれた時もそうだった。姉には自分に代わって怒ってくれたことを褒められたが、あの行動によって使者との交渉が打ち切られた。そして、勅命をそのまま受け入れるという選択だけにしたのは、エリックの暴走が原因だった。

「外交の予算を組もう。それと、モーズリー高原の投資の件は、騎士爵に加えて、男爵位を持っていて、発表祭で利益を得られない者に全て声をかけて欲しい。それと、発表祭に協力する学園生徒の部活動に支援金を出して欲しい。」

「モーズリー高原の投資とは。」

「これを読んでくれ、ジム。エリック様、学園生徒は、各王子の在籍する学年が、それぞれの王子が担当する初等学校を支援しています。いくらぐらいの予算枠を提示しますか。」

「各学年に金貨5000枚まで出すようにしよう。」

「それだと、貴族達の支援金が、学園の部活動には不要になります。」

「そう、それが狙い。初等学校や祭りで発生する利益を貴族達が奪い合うのはいいけど。学園の部活動を特定の貴族の傘下に入れるようにはしたくない。」

冷静さを取り戻したエリックは、ケネット侯爵派が勢力拡大のための行動を事前に封じる策を打つことにした。そして、それは今まで公爵家が続けてきた下級貴族を豊かにする策を実施する事でもあった。


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