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公爵家物語(オズボーン家)  作者: オサ
3年生
87/198

3年生 その85 帰還せず

85 帰還せず 


 イシュア暦368年1月10日に王都に帰還した国王は、民の歓呼を受けながら王城へと入った。事件の詳報を受けていたが、国王としての表情を歪める事は無く、3日後に開かれた勲章授与式と祝賀会でも、威厳と笑顔を失う事は無かった。すぐにでも裁断が下ると多くの貴族は考えていたが、国王の決断は未だだった。

 王宮の大広間で祝賀会が開かれた。国王の左右に3人の王妃、3人の王子が並んだ壇上を仰ぎ見ながら戦勝の乾杯が行われた。臣下の代表としてエリックが国王に祝辞を述べると、祝宴が始まった。貴族達が次々と国王陛下に挨拶を行っていった。

「エリック公爵代理。」

「ロイド卿。お久しぶりです。」

 公爵家の丸テーブルに1人だけで立っているエリックに近づいてきたのは、1年3か月後には正式に家族になる優秀な行政官だった。

「公爵邸に行けずにすまない。」

「仕方がありません。宰相府の仕事が忙しいのですから。」

「ところで、公爵から何か連絡は?」

「今朝ありました。全員の帰還は3月末になると手紙が。」

「・・・。」

ロイドにも政治的な判断として、帰還を遅らせる意味は分かった。武力でケネット侯爵を押さえつけたエリックという恐怖で、税務改革の反発を抑える狙いがあり、それは成功していたが、別の問題を作り出していた。改革への反発を皆無にはしたが、その分ケネット侯爵の赦免への動きを大きくしてしまった。

財務改革に忠実に従ったケネット派の貴族達は、勘違いした部下の暴走は許しがたいものではあるが、ケネット侯爵自身が税務改革に異議を唱えた訳でもなく、公爵家に協力するつもりだったと主張をし始めた。エリックに逆らう事ができない今、ケネット派閥は改革に賛同して、支援する立場であるとの主張を始めた。改革で納税額が増えるのは高位貴族ばかりで、ケネット派閥の貴族達が多かった。その者達が不満を全く言わずに、納税を迅速に行う事で、税務改革賛成派の看板を手に入れる事に成功していた。

ケネット侯爵派閥は、エリック公爵代理に協力していたのに、納税額が多くなったことに驚いた従者の1人が、国の大事を理解できなかったために暴走してしまった。こういった話が広がっていた。

「税務改革が順調に進んでいます。」

「エリックは、今は動かない方がいいと思うか?」

「ここで動いてもあまり得るものはないと思います。それに、予測もできないですから。」

「分かった。陛下と御爺様の決断を期待するしかないな。」

「レイティア姉様が戻ってくる3月末までに、そちらの仕事は済ませておいてください。それだけが心配です。」

「そうだな。それは何とかなりそうだ。」

「第3王子が王宮で色々と動いていると聞きました。兄さんの方でどうにかできませんか?」

「近衛第4騎士団から護衛を出している。」

「話をするのは難しいですか?」

「今は難しい。宰相の孫である私は宰相派の中心人物の1人だからな。接近すると、変な動きが出るかもしれない。」

 ケネット侯爵の処罰を強く望んでいた者は多数存在していたが、そのために動いていたのは第3王子レイモンドだけであった。誤解であろうが何であろうが、公爵家に刃を向けた配下をコントロールできなかった責任を取って、引退させるべきであるという正論をケネット侯爵派の貴族達にも、父である国王陛下に訴えていた。

 ケネット侯爵派の一員であり、第2王子の忠実な部下になると思われていた第3王子は、ケネット侯爵派の貴族達にも可愛がられていた。だから、会って話をしたいという要請には誰もが従ったが、処罰に賛同するようにとの訴えに従う者はいなかった。逆に、第3王子に赦免活動に参加するように、派閥の貴族たちは説得していた。

 孤立無援の政治活動を実施している第3王子を手助けしたいとエリックが考えているのは、赦免活動の中心人物が、第2王妃と第3王妃の2人だからだった。実母に逆らっても支援してくれる友の事を考えずにはいられなかった。

「動きを止めて欲しいと伝えたい。」

「そうなると、王家で処罰を望む者がいなくなってしまう。それでもいいのか。」

「周囲の貴族達の味方が増えても、決定権者を動かす事はできないと思います。」

「そうかもしれないが、決定に影響を与える事はあると思う。」

 ケネット侯爵家を潰したいと考えている訳ではなかったが、ケネット侯爵派崩壊だけは成し遂げなければならないと考えていた。ロイドもエリックも、第1王子暗殺未遂事件が闇に葬られた事が遠因で、エリック暗殺未遂事件が発生したと考えていた。ここで引くという事は、今後の事件の発生を容認する事に等しかった。

権力闘争を好ましいと思わず、対立側の命を奪おうとは考えない宰相派陣営が、権力闘争を仕掛けるだけでなく、尻尾切りを前提とした暗殺も実行するケネット派陣営に勝てる道理がなかった。ただ、信じがたい武力で危機を切り抜けたというだけであって、権力闘争においては負け続けていた。死を避けるという一点を守りながら戦って勝利を得るには、この機会を逃すことはできなかった。

「ランドルフ卿が陛下に挨拶するようです。義父と一緒に行ってきます。兄さん。」

「好きにしていい。フォローはできるだけする。」

「はい。お願いします。」

 明るい青と白を基調とした紳士礼服の貴公子が再度国王の御前へと向かった。


 国王陛下の右手側に3人の王妃、左手側に3人の王子が並んで居る壇上に、ランドルフ・ミクソン騎士爵が歩を進めて、深く一礼した。

「ランドルフ、頭を上げるがよい。防衛線の間の護衛、ご苦労だった。また、剣を交えての鍛錬、改めて学ぶべき事もあった。感謝する。」

「ありがたき幸せ、陛下のお側でお仕えできたこと、我が家の誇りです。私の方こそ、陛下から様々な事を学ばせていただきました。」

「そうか。今後とも、騎士の見本としての活躍を期待している。」

「は。お言葉、ありがたく頂戴いたします。」

 肩パットといくつかの徽章で飾り付けられている騎士礼服姿のランドルフの隣に立っている美少年が深く一礼した。

「陛下、ご報告したい事がございますので、義父と共に御前に参上いたしました。」

 1度目の挨拶は、公爵代理として臣下代表の挨拶だったため形だけのものになっていた。戦勝記念の祝宴でもあるため、暗殺未遂事件の話をするのを避けるのは当然の事だった。だが、改めて2度目の挨拶に来たというのであれば、事件に触れると誰もが考えていた。その内容はケネット侯爵家に処罰を与える事であると、第2王妃、第3王妃は警戒したが、この場で何かができる訳ではなかった。。

「頭を上げよ。報告を聞こう。」

「はっ。父より、王都への帰還を先延ばしにするとの書簡が今朝届きました。モーズリー高原及び新領地の開発の指揮と視察を行うのに時間がかかるとの事です。」

「3つの町が新しくできる上に、街道整備が急務だからな。いつ頃、帰還する予定なのだ。」「書簡には期日はありませんでした。母エリス、兄アラン、姉レイティア、セーラの4名もしばらく公爵領の開拓に従事するため、王都へは戻ってきません。公爵家としては寂しい限りです。」

 この情報に何を感じるのかは人によって異なるが、一番深刻に捉えたのは、緑のローブと赤の王冠を身に着けた金髪紫目の男だった。戦闘以外で王都を離れる事のない公爵が、戦闘後も帰還しないのは異常であった。しかも、エリック以外の家族を王都に戻さない事は、王家との関係を断つことも厭わないとの意思表示とも読み取れた。

 反乱や独立という過激な行動を意図していないとしても、今のままでは公爵家にとって王都が安全な場所ではないと公爵家は主張していた。少なくとも国王としては、この報告をそのように捉えるしかなかった。結果として、未遂で終わりはしたが、エリックとセーラは刺客に襲われた。公爵家の中でも弱いと思われている2人が命を狙われたのだから、公爵家としては、王都は安全な場ではなく、王都には隙さえあれば公爵家の人間を殺害しようとする人間が存在する危険な場所であった。

公爵家は、王都に戻らないという事で、今回の事件の抗議をしていた。

「そうか、それは寂しいな。」

「陛下、レイモンド殿下と話をする事をお許しください。」

「確か同級生だったな、許す。」

「ありがとうございます。」

 エリックは、第3王子の方に向き直って、2歩進んだ。往時の成長は早いのか、レイモンドの金目は少し下向きで、友のサファイヤブルーをじっと見つめた。処罰運動が成功していない事を責められるのならば、容赦なく責めて欲しいと思っていた。王家が己の剣と盾を大切にしないのであれば、それは愚かであり、剣と盾として働いている者から批判を浴びるべき事であると第3皇子は考えていた。

「レイモンド殿下、公爵家のための様々な運動、感謝いたします。ですが、ご自身の立場を考えますと、これ以上の運動は止めた方が良いと考えます。すでに会議で申しましたが、陛下のご裁断に従うだけですから。運動するような事ではないと考えます。それに公爵家は自分達を守る事はできます。」

「もちろん、陛下のご判断が全てだが。民の考えを知る事も大切だと考えている。その中で、しなければならない事だと考えている。ただ、力が及ばないために成果が出ていない事は申し訳ないし、心配させているようだ。だが、それに、私はエリック殿を友だと思っている。友のためにも何かをしたいのだ。」

「そこまで公爵家の事を御考慮くださること、感謝いたします。ですが、これ以上は動かれない方が良いと考えます。また、友と呼んでいただいた事、嬉しいです。私も友として、殿下に騎士の誓いを捧げたいと思っています。よろしいでしょうか。」

 13歳の未成年の第3王子と第2公子の関係であれば、単なる騎士ごっことして大人たちが微笑ましく見守るような事であったが、今の第2公子は公爵代理の肩書も持っていた。公爵代理として騎士の誓いを捧げると言うのであれば、それは次期国王に捧げる誓いと同義であった。公爵家が自分達のために尽力してくれる第3王子を後継者として後押しする事を準備があると表明した。

「エリック殿。」

「エリック坊ちゃん。」

 2人の会話に同じ瞬間に割り込んできたのは、騎士達の風格を備えた男達だった。第1王子コンラッド、第2公子義父ランドルフ、2人の低音の声が壇上の冷え切った空気を大きく動かした。

「2人の会話に割り込んだ事、すまなかった。ランドルフ卿も言いたい事があるようだ。先に聞いてやってはくれるだろうか。」

「はい兄上。ランドルフ卿、今日は戦場で活躍した貴殿達の慰労会だ。遠慮することなく、話したい事を話してくれ。」

 義理の息子である公子は、後ろの方を振り返ってから、義父に頷いて見せた。

「無礼な事をすいません。その、えーっと、エリック様にお願いがあります。」

「言ってください。」

「殿下に捧げる騎士への誓いは、アイ、娘との結婚の後にしてもらえないでしょうか。いずれ国や王家の方々に騎士の誓いを捧げるのは当然だと思うのですが。父親としては、最初に誓いを捧げるのは、その、娘にしてもらえないでしょうか。私も、妻に誓いを捧げてから、国と公爵様に誓いを立てています。今回、護衛の任を頂き、国王陛下への誓いを捧げる機会をもらいましたが。その、何と言うか、妻は、一番に誓いを捧げられた事を喜んでいまして・・・。」

「確かに、ランドルフ卿の言う通り。婚約者と正式な結婚を成した時にする誓約が、最初であるべきと言うのは、その通りだと思う。コンラッド兄上のおっしゃりたかったことも、卿と同じですか。」

「ああ。ランドルフ卿の言う通り。私からはそれ以上言う事は無い。」

 政治的駆け引きとして止めに入った第一王子は結果が同じであれば、誰もが納得できる理由を提示した騎士に任せるのが良いと判断した。

「アイリスに婚約を願った時、自分の誓いを捧げたと考えていました。ただ、ランドルフ卿がそう言うのであれば、正式な結婚の時に、最初の誓いを捧げます。ですが、レイモンド殿下に対する気持ちをどうすれば良いのか。」

「あ、それなら、今は誓いではなく、約束、が良いと思います。一方的にできるもので、誓いのように相手が受けるものではありません。いずれ時が来れば誓うという約束で良いと思います。」

「なるほど。分かりました。」

「娘への配慮ありがとうございます。」

「レイモンド殿下、友として、殿下の身を守る事を約束いたします。そして、時が来れば、騎士の誓いを受けていただきたく思います。ですから、今はあまり無理をするような事がないようにと、この点もお願いいたします。」

 第3王子派閥の正式な発足は実現しなかったが、公爵家が納得できる裁断をしなければ、いつでも王家の後継者争いに介入するとの警告を発する事はできた。それをどう判断するのかは、国王陛下次第という事になった。


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