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公爵家物語(オズボーン家)  作者: オサ
3年生
55/198

3年生 その53 公爵邸のデビュー

53 公爵邸のデビュー


 イシュア暦367年4月、第2公子エリックは13歳の社交界デビューを公爵邸の入口大広間でのパーティーで飾った。この日に同時デビューを果たしたのは、第3王子レイモンドを始めとした35名の同級生達だった。翌日はさらに45名の同級生が公爵邸のパーティーでデビューを果たした。

 学園に通う事になる同級生の3分の2が公爵邸に集結したのは、第3王子が王宮でのデビューではなく、公爵邸のデビューをする情報が広まった結果だった。王宮でのデビューではなく、臣下である公爵邸でのデビューは、王位継承権争いからの離脱を示す目出度い物ではなかったが、王族と同じ場所でデビューできる貴族としては名誉であった。

 多くの参加希望者がいる事を知った公爵は、中立派となった貴族達だけを参加させると、王位継承争いから離脱すると言いながらも、実は諦めていないという邪推を招くかもしれないと、全ての派閥に招待状を送った。すでに予定が決まっていた貴族達を除いて、公爵家に集結する事になった。

「ロイド、相談があるのだけれど。」

「何だい。会場で話してもいい事なのかい。」

 紺を基調とした紳士礼服と水色の豪奢なドレスの、婚約者達がテーブルのグラスを手にしていた。愛のダンスを堪能したレイティアは先程の笑顔とは別の表情に変わっていた。

「大丈夫よ。」

「後でも良ければ・・・。」

「今がいいわ。」

「それで。」

「セーラに相応しい男性を探して欲しいの。」

「・・・・・・。」

「聞こえた?」

「聞こえてはいるけど、セーラには政略結婚はさせるつもりはないと思ったけど。」

「ええ、だから、素敵な男性を探しているのよ。」

「それは政略結婚だと思うのだが。」

「紹介したいだけなの。セーラが自分で素敵な男性を探している様子がないわ。恋愛結婚をしてもらいたいのだけれど、出会いを作ろうとしていないわ。」

「学園生活はまだ4年間ある。」

「セーラは4年あるけど、私は1年後には卒業するから、サポートできなくなってしまう。」

義妹が魅力的な女性であることは、近くにいるとよく分かるが、少し離れた位置から見ると、公爵夫人の元侍女の子、第1王子を危険にさらした女生徒などと、公女であっても近づきたくない女性に見えた。

「お見合いのような事をするって事なのか。」

「そうするかは分からないけど、セーラに相応しい男性を見つけないと、何も始まらないわ。」

 妹自慢や可愛がりではなく、本気で心配している様子が見て取れると、宰相の孫も本気で考えるべきだと判断した。

 セーラが暗闇の暴走における重要な戦力になった事をアランから聞いていた義兄は、暗闇の暴走までの時間に、第2公女が幸せと感じる事ができる時間をできるだけ増やす事が婚約者の望みであると考えた。それは、一家とセーラやミーナと言う女性を知る者の切実な願いでもあった。

「色々な情報を集める事から始めた方がいいと思う。レイティアも婚約者のいない女生徒が誰を好きかみたいな情報をできるだけ集めてもらいたい。」

「そんな情報を集めてどうするの。男性の方の情報は必要だけど。」

「他の女生徒が恋心を寄せている男性にセーラが積極的に話しかけたりできると思う?」

「できないわね。」

「まずは、セーラが好きになっても問題ない男子を探す事を・・・。」

 レイティアの視線に怒りが含まれているのを感じたロイドはじっと見つめながら言葉を待った。自分にだけは貴族令嬢としてではない女性としての表情を向けてくれることは嬉しいが、怒りを含んだ表情を見せている時は、言葉を選ばなければならない事を知っていた。

「セーラに、他の女生徒に相手にされないような男子生徒を紹介するつもりなの。」

「そんなつもりはないが、周囲に配慮しながら人を探すとなると、結果として、そういう事になるかもしれない。」

「そこをどうにかしてくれるのが、ロイドでしょ。」

「無茶を言わないでくれ。まずは、セーラの好みのタイプを聞く事から始めるべきだと思うが。」

「そんな事はできないわ。そういう話が出れば、そのまま政略結婚の話になってしまうもの。セーラには、自然な形で、できれば、ロマンチックな感じの出会いを・・・。」

「レイティアの要望は分かったけど。まずは、情報を集めるしかない。」

「分かったわ。ロイド、お願いね。」

「ああ。」

 美の女神の表情に戻った女性と、2年後には結婚式を挙げるのだと思うと、自分の幸運を義妹にも分け与えたかった。


「姉上、今日も綺麗ですね。」

「アラン。お疲れ様。」

 赤を基調とした騎士礼服姿のアランは、セーラよりも背が高く、美少年ではなく、美青年と呼ぶに相応しい姿で青い瞳を輝かせていた。

 テーブルの上のグラスを弟に渡した姉は、微笑みながら喉を潤した。踊れない公女から脱却したセーラは薄緑のドレスと共に華麗な一輪として、会場に彩を与えていた。

「素敵な男性と踊れましたか?」

「・・・。皆、デビューしたばかりの子達だから、素敵な男の子達だったわ。」

 アランもデビューしたての女性達と踊っていた。会場を提供した主人の1人としては、社交界デビューの令息令嬢への対応が最優先事項だった。それが終わった今、姉セーラにパーティーの本来に意味を考えてもらいたかった。

「出席者の中に気になるような男性はいなかったのですか?」

「アランの方こそ、素敵な女性はいなかったの。」

「姉上です。」

「あ、アランが素敵だったわ。」

「いえ、そう言う気を使って欲しい訳ではなく、パーティーは出会いの場でもあるので。声をかけられたりはしませんでしたか。」

「特に声をかけられる事は無かったわ。普通に挨拶はされたけど。」

「デビューの子達のパートナーが終わって、これから、声をかけられるかもしれませんよ。」

「アランは声かけられそうね。向こうの女性がこっちを見ているわ。」

 喉を潤してからアランは覚悟を決めた。

「姉上、ご自身の婚約について、どうお考えですか。」

「どうと言われても・・・。」

 表情が困っている事を強調しているが、そういう表情を見せてくる姉に対して、弟の方が困っていた。家族の全員がセーラの幸せな婚約を実現したいと考えているのに、当の本人がそういう意識を持ってくれなかった。

「私は姉上には政略結婚ではなく、恋愛結婚して欲しいと考えています。」

「私では政略結婚の相手としては足りないのかな。」

「そんな事はありません。ですが、政略結婚というのであれば、レイティア姉上がロイド兄さんと結婚する事で十分なのです。公爵家が他の家と婚約でつながる必要が無いのです。次期当主の私が見合いを一度もした事が無いのが、政略結婚が必要ない事を証明しています。」

「そうなのね。」

「はい。ですから、姉上が公爵家のために政略結婚を望んだとしても、時間が過ぎるだけで、意味が無いのです・・・。意味がないは言い過ぎでしたが。」

「政略結婚はないから、結婚相手は自分で探した方がいいって事なの?」

「簡単に言ってしまうとそうです。」

「難しく言うとかがあるの?」

「難しく言うと、セーラ姉上や私が誰と結婚しても、何らかの意味が生まれて、公爵家は政治的な利益を得る事ができます。だから、私達は積極的に婚約者探しをした方がいいのです。結ばれる相手は1人ですが、結婚せずとも様々な方と交流を持つ事は、将来の友好関係を作る事にもなります。」

「友達をたくさん作った方が良いって事?」

「そうです。」

「でも、アランは、積極的に近づいてくる女生徒を避けていたけど。」

「私がそれぞれの令嬢と友誼を深める時間を十分に持っていれば、避ける必要はありませんでした。ですが、あの状況で、少数の女生徒と友誼を深める事になれば、私に交流を断られた令嬢やその実家を敵に回す可能性もありました。クラスの令嬢だけであれば、何とかなったかもしれませんが。」

「そう言う事だったのね。」

半分は本当で半分は嘘だったが、アランはセーラを恋愛結婚に意識を向けさせる目的であれば、姉を騙しても構わないと考えていた。姉の性質から、公爵家のために犠牲になる事を厭わないという思考を完全に消す事は無理であると判断していた。自分達も未来の公爵家の土台になる事を覚悟しているのだから、それを姉だけに変えるように言う事はできなかった。

ただし、恋愛と結婚だけは、公爵家のためという思考から脱出させなければならないと考えていた。それは、公爵夫妻のミーナへの贖罪のためでもあると同時に、公爵家にとって夫婦仲と言うのは、とても重要たからだった。公爵家にとって、次の世代の子供達を育てる事も重要な役割であり、子供達の健全な成長を実現するためには、夫婦仲が良い事は大前提だった。政略結婚でも構わなかったが、夫婦仲が良好な状態で、出産育児をする事も重要だった。

「私は周囲からの積極的な行動が減ってきたから、そろそろ積極的に動き出す予定です。だから、姉上にも積極的に動いてもらいたいのです。」

「アランが動き出すからと言って、私が積極的に動かなければならない事にはならないと思うけど。」

「公爵家で婚約を結んでいないのは、私と姉上だけです。先に私が決まると、公爵夫妻は、第2公女の婚約を全く考えていないんだ。というような噂を流されるかもしれません。姉上が先に婚約者を見つけなければならない訳ではありませんが、私としては、自分の婚約発表は姉上よりも少し遅い時期にしたいとは考えています。」

いつの可能性を示した事で、セーラの意識を前向きに変える事はできた。

「分かったわ。私も気にしながら行動をするわ。」

「はい。お願いします。」

「そろそろ、踊りの輪に入ってあげたら、向こうにいる女性もアランの方を見ているわ。侯爵家の令嬢だったと思うわ。」

「そうですね。ダンスを誘ってきます。姉上も、声をかけられたら、できるだけ踊ってあげてくださいね。」

 一歩前進したと感じたアランは楽しげにダンスをしていたが、この日デビューの後輩達以外の相手とセーラが踊る事は無かった。半年前に王都を駆け巡った悪意のある噂が会場で聞かれる事は無かったが、事故そのものと噂の記憶が消えた訳ではなかった。

 デビュー時の相手のように形式的なものであれば、公女と言う肩書に貴族達は飛びついていったが、王家やケネット侯爵家、宰相家などとの駆け引きが発生する可能性を考えると、飛び込んでいく事はできなかった。

 さらに、公爵が4月から財務卿に就任した事で、公爵家とのつながりを持つ事が、自分の家にどのような影響をもたらすかが全く読めなくなり、現時点で踏み込んでまで接近したいと考える貴族達はいなかった。


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