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公爵家物語(オズボーン家)  作者: オサ
2年生
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2年生 その51 鑑賞会

51 鑑賞会


 イシュア暦367年1月の誕生祭で美しく舞った第3王子レイモンドと第2公女セーラは、王家と公爵家が今までと変わらぬ関係であることを貴族達に印象付けた。このダンスをきっかけに、2人が好意を向ける事があれば婚約を実現したいという一部の大人たちの思惑はあったが、2人共家の意向なしには婚約を考える事は無かったため、誘導された道を進む事は無かった。そもそも、王家と公爵家が血を混じらせてはいけないという、暗黙の了解があるため、万難を排してでも、それを推し進めようとする者はいなかった。

 ただ、第3王子レイモンドはそれから公爵邸を何度か訪問することがあった。

「レイモンド、制服も似合うな。」

「エリックも。アイリス嬢も可愛らしい。」

「僕の婚約者を勝手に褒めないでくれ。」

「褒めるのはいいだろう。」

「じゃあ、勝手に話しかけないでくれ。」

「エリック様、殿下に失礼では。」

絵画の鑑賞会の準備のために、公爵邸の別邸を訪れた金髪金目の王子を2人が迎えた。8歳になる少女は少し緊張気味であったが、2人の友好的な会話に自然に入る事ができた。子供としての柔軟性があるからなのか、公爵邸で最上級貴族と交流を持ったからなのかは分からなかったが、王家の人間に対する気後れは少なかった。

薄ピンクのドレスで可愛らしく身を整えた緑髪の婚約者は、垂れ目気味の柔らかい目から、周囲をふんわりとさせる温かい視線を発していた。溺愛してくれる婚約者との触れ合いの中で、女性の大きな魅力の1つが笑顔であり、その笑顔から発せられる包容力が男性の心を捉える鎖になる事を幼いながらも学んでいた。

「このぐらいは大丈夫だよ。」

「いいえ、エリック様、きちんと礼儀を守る事は大切です。そういうエリック様の方が素敵です。」

「うん、そうか。レイモンド様、とお呼びすることにする。」

「ああ、どう呼んでもらっても構わない。」

「では、中へ。」

 各部屋に設置された絵画を3人は見て回った後、談話室でお茶をする事になった。エリックの手際の良さに一通り感心すると、アイリスが2人をモデルに絵を描きたいとのお願いを了承した。とは言うものの、テーブルを前に座ったままで構わないという事で、少女を前に2人は主目的を遂げるために話し始めた。

「殿下が来週の鑑賞会にも出席する意図は何ですか。」

「アイリス嬢の前で、そういう話はしてもいいのかい。」

「婚約者ですから問題ないですよ。」

「幼い口調は演技なのかい。」

「半分半分かな。僕は兄さんと違って、武力も知力も低いから、こういう事にだけは役に立ちたいと思っているんだ。だから、今は幼い感じの方が情報収集しやすいんだ。とは言っても、末っ子だから、実際に甘えん坊だよ。」

「私も末っ子で、甘えん坊ではあるけど、兄上達の役に立ちたいと考えている。そういう所は似ている。」

 王家と公爵家の一番年下の同級生で接触であれば、何か問題が発生しても、子供の戯言で押し流す事ができた。その事を本人たちが一番自覚していて、本来ならば会話の中で相手の意図を探るような駆け引きが必要となるが、そこを無視して2人は交流しても問題は無いと考えていた。

「意図を聞く前に、確認したい事があった。」

「何だい。」

「セーラ姉さんとの婚約を狙っているって事はないよね。」

「それはない。」

「断言できるの。」

「できる。今まで王家と公爵家の婚姻が成立したのは二例だけ、いずれも公爵家の令嬢が王子に嫁いでいる。長い歴史の中で、これほど少ないのだから、両家には暗黙の了解みたいなものがあるという話は本当だと思う。詳しい話は誰からも聞く事ができなかったけど。」

 公爵家が暗闇の暴走を食い止めるための戦士を供給する一族である以上、王家が公爵家に入っていく事はありえなかった。国を維持するために生き続ける事を義務とする王家と、国を維持するために死を受け入れる事を義務とする公爵家の血は交わらない方が良いと、歴代の国王と公爵は同じ結論に至っていた。

 正式な法や掟ではなかったが、両家ともそういう認識を持ち続けていた。

「でも、二例はあるんでしょ。多分、好きになったからという理由だと思うけど。レイモンド殿下がセーラ姉さんを好きになれば、話は変わってくると思うけど。」

「そういう言い方をすると、セーラ嬢が私に興味を持つような事はなかったという認識でいいのかな?」

「そうだね。で、実際の所、姉さんのことをどう思っているの?」

「美しいとは思うが、私が好きになる事はない。」

「どうして?」

 モデルになっている意識があるので、表情を変えないようにしていたレイモンドが困惑の色を浮かべた。

「そこは、そんなに突っ込んで話を聞くところなのかい。」

「政略的には何の価値もない事なんだけど、公爵家的には重要なんだ。可能性が0なのか、少しでもあるのかを考える事は。」

「内緒にはしてくれないんだろうね。」

「家族以外には内緒にする約束はできるけど。家族の中でも父様と兄さんには必ず話をする。」

「分かった。できるだけ内緒の方向で頼みたいのだが。セーラ嬢は好みのタイプではないんだ。どうしても好きになれないタイプなんだ。」

「少し、酷い言い方だよ。それは。」

「もう少し説明すると、つり目気味の女性がどうしてもダメなんだ。嫌いとかではなくて、その母上と重なってしまうというか・・・。大分前に、物凄く叱られた事があって、それ以来・・・。」

「分かった。ごめん、これは本当に内緒にしておくよ。」

 恥ずかしそうな表情のレイモンドにエリックは微笑んで見せた。公爵家としては、セーラが政略結婚の対象にならない事は最優先課題であった。第2夫人ミーナが望んだ結婚をしていない事は、公爵夫妻の咎であり、それをセーラにも背負わせるような事は絶対に回避するべきと夫妻は考えていた。そして、公爵家と言う地位がある以上、断る事ができない政略結婚とは、王家からの特別な依頼だけだった。それがない事が判明した時点で、エリックの任務の9割方は終わっていた。

「意図の話をするけど、いいかい。」

「してくれるのなら。」

「1つは、公爵家と交流を深める事。これは分かってくれると思う。」

「うん。他にもあるって事?」

「ある。一言で言えば、中立派をまとめるため。」

 第1王子派=宰相派。

 第2王子派=ケネット侯爵派。

 レイモンドの発言は、2大派閥に対して第3軸を作るとの宣言でもあった。今までの第3王子は第2王子を推していて、中立派はどちらにも属さないというだけで派閥としての実体はなかった。それを、第3王子が中立派をまとめる事ができれば、小さいながらも派閥として動く事ができる。その派閥の中心にはオズボーン公爵家が座る事になるから、将来拡大する可能性もあった。

第3王子が真に後継者の道を目指すというのであれば、唯一の手ではあるが、第3王子の狙いが別にあるならば、危険な策になりかねなかった。

「公爵家を守るつもりでそうするのであれば、やめた方がいいと思うよ。何が正しいかは分からないけど、公爵家とは関わらない方がいいとしか言えない。」

 第3王子と中立派に野心がないのであれば、他の派閥からの様々な圧力から逃れるために1つのまとまりになる事は1つの策になりえた。第3軸を作る事で、2大勢力の過激な行動を牽制できるのも理解できた。ただ、それは公爵家の力で、両勢力の動きを睨む事と同意だった。集団になればお互いを守りやすいのが事実だが、それは同じ弱者の時に成立する事であって、一強の公爵家が存在する以上、お互いに守り合うという状況にはならなかった。

「しかし、勢力を持つ事で回避できる事もある。そう考えている。」

「それはそうなんだけど、複雑にすると、後で色々な面倒が起こると思うよ。父さんが財務卿になってから、2年ぐらいが過ぎた時に考えるべき事だと思うよ。後継者を狙っての行動でないのなら、もう少し待った方がいいよ。公爵家に今すぐに手を出すような所はないから。」

「相談してみる。来週の出席は避けた方がいいかな。」

「それは来て欲しいな。楽しみにしている人もいるしね。」

「分かった。」

「描けました。モデル、ありがとうございました。」

 アイリスから渡された2人の美少年が一緒に描かれた絵は、第3王子レイモンドの宝物の1つになった。両家最年少の2人は気があったという程に仲良くなった。


 鑑賞会の招待状は、公爵代理アランの名で送られた。理由は2つあって、1つは軍事関係の貴族である男爵、騎士爵を中心に招くため、鑑賞会を通常の茶会よりも格下であることを示すためだった。もう1つは、デビュー前の子息子女を招くために、貴族の社交界での正式なパーティーではない事を示す必要があった。

「今日は、皆には公爵家のもてなしと、美術品の素晴らしさを堪能して欲しい。」

 大別邸の大食堂に集まった約100名の前でレイモンド王子が開会の一言を発した。

「続いて、バルム・ノーランド侯爵より開会の祝辞を。」

「今日は公爵のご厚意により、芸術を愛でる鑑賞会を開催できたこと、感謝に堪えません。王都美術館への支援だけでなく、これから生まれてくる大芸術家への支援とも言えるこのような会を企画された公爵の慧眼、戦公爵と呼ばれて。」

「んん。」

「ああ、そうでしたな。簡単にでしたな。2階に展示された絵画の数々は、王都美術館でも数日しか展示されていないものもあり、王都でも。」

「バルム卿。」

「おお、アラン殿、分かっております。詳しい説明は2階の展示室に私や絵画に詳しい者が控えておるので、遠慮なく聞いてもらいたい。ですが、見どころは学園や各学校の芸術家の卵たちが描いたものです。ああ、この話も長くなってしまうので、話は2階で。ただ、本当に見所ですぞ。」

 銀髪銀目の品の良さそうな小太りの侯爵は、国内でも名の知れた芸術家だった。もうすぐ30歳の若き侯爵は、侯爵位を引退した父に領地の経営を任せると、王都の郊外にあるアトリエで絵画を中心とした作品を制作していた。王宮にも数点飾られているぐらいの大家ではあると同時に、芸術全体をこよなく愛するため、芸術家の育成にも熱心だった。

そのため、貴族学園と各初等学校での改革を成し遂げた公爵家に常日頃感謝していた。その公爵家で絵画の鑑賞会が開催されると聞くと、押しかけるように運営側に参加すると、美術品展示の監修担当の座を射止めた。

芸術にお金だけは出し続けていた公爵家と、芸術家であり芸術愛好家であるノーランド侯爵がつながった事は、王都の芸術家たちの生活を大きく変える事になるが、それは少し先の事であったが、この鑑賞会が国内における美術そのもの格付けを上げたのは間違いなかった。

「では、この後、2階への階段のある大広間へ移動してください。」

 鑑賞会開催の目的の1つに、社交界デビューをしていない騎士爵家の令息令嬢のデビューの機会を作る事だった。そして、それに便乗する形で、エリックとアイリスはデビューを飾った。

 2階から降りてくる2人とそれに続く5組の親子は晴れの舞台で貴族としての第一歩を踏みしめた。軍務関係の公爵に恩を感じていた彼らが、さらに公爵家へと心酔していく過程は、国を救う過程につながっていた。

 1階の各部屋でお茶と軽食を優雅に楽しみ、2階の各部屋では展示物を鑑賞した。7,8歳の子供たちを連れた若い夫婦は、子供達の喜ぶ姿を見守りながら、2階を見て回った。彼らのほとんどが芸術的な価値を理解していなかったが、単純に美しいものばかりで、その美しさ感動はできた。その感動が思い出となる事が、今回の鑑賞会の最大の成果であると、芸術家侯爵は満面の笑みで喜んでいた。

 淡いオレンジのドレスで着飾っている赤髪の公女は、2階の一室で展示された絵画の説明係を担っていた。

「セーラお姉様。」

「・・・。」

「セーラお姉様!」

「アイリス、どうしたの?エリックと一緒じゃないの?」

「殿下とお話ししています。私は、他の部屋を見て回りたかったので別行動になりました。」

 水色のドレスはレースをふんだんに使ったもので、緑髪の少女の可愛らしさを数割増しにしていた。

「お姉様はお疲れですか?」

「え。」

「今、声を2度かけたのですが、最初は気付いてなかったようで。」

「ええ、そうかもしれないわ。気付かなくてごめんね。」

「いえ。あまり無理はしないでください。」

「ふふ、ありがとう。気を付けるわ。」

 アイリスは公爵邸の皆が好きだったが、セーラは特に好きだった。厳密にいうと気になる存在だった。生まれた時から公爵家にいる訳ではないという点で、2人は同じ境遇だと言えた。公女と公子の嫁という立場は異なっているが、公爵家に相応しい人間になろうという目標を持っている点では同志だった。しかも、セーラはそれを実現した先輩であり、アイリスの目標だった。

「今日のこと、ありがとうございます。」

「どういたしまして。だけど、私がした事はたいした事ではないわ。」

「そんな事はありません。今までの事も全部、感謝しています。」

「そんなに畏まれても困るわ。家族なのだから。もっと甘えてもらいたいわ。妹ができて嬉しいんだもの。」

「私も、お姉様ができて嬉しいです。もう、色々と甘えています。」

 アイリスはセーラだけでなく、公爵家で十分なほど甘やかされているのは実感していた。それはとても嬉しい事で最初はただ浮かれていて、嬉しいだけだったが、セーラという義姉になる人の様子を見続けている間にある事に気付いた。家族の絆を作るには時間だけでなく、相互に何かを与え続け、もらい続ける事が必要なのだと分かった。

 これが全ての人間に該当する事かは分からなかったが、公女になった少女がそれを志している事だけははっきりと分かった。


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