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公爵家物語(オズボーン家)  作者: オサ
2年生
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2年生 その45 自立へ

45 自立へ


 謹慎処分が終わったセーラは、姉と弟と一緒に学園に降り立った。馬車の停留所でリリアとキャロットが待っていた。グレーの制服に久しぶりに手を通したセーラは、無事だと聞いていた2人と会えたことに微笑んだが、すぐに表情を変えた。

「セーラ。お帰り。」

「待っていたよ。」

「私に。」

「近寄るなとか言うの?」

 リリアの声にセーラは思わず頷いた。2人と一緒に居たいが、一緒にいれば巻き込む可能性があった。実際の刃に襲われる事は無いだろうが、言葉の刃は鋭く、その刃から身を守る術をセーラは持っていなかった。自分の処分を認めた以上、真実による反撃だけでなく、防御も不可能だった。

「そう言われても一緒だから。行こう。ね。」

 キャロットの言葉にセーラは頷いた。一緒にいたい強い気持ちがあって、一緒にいる事を受け入れてくれることを期待していた公女は、抵抗する事もなく、2人の言葉に陥落した。

 教室に入った時、緊張感を持っていたのはセーラだけだった。いつもの最前列の右側の座席を見ると、その直後の3人掛けの席には、いつもの3人がいた。

「コンラッド殿下。」

「おはよう、セーラ。色々言えないのだが、学園内では大丈夫だ。話は後だな。授業が始まる。」

 王都に広まった噂話の内容を考えれば、王子と公女が側にいる事を避けるべきだと思っていた。

「ですが殿下。」

 王子と公女の会話に割りこむ事を普通にする男子が、呆れた表情で割りこんできた。

「この学園にはくだらん話を信じる者も、話す者もいない。それに、わざわざ距離を置いたら・・・。まあ、そんなどうでもいい話はしても意味はないからな。」

 ペンタスのいつも通りの口調はありがたかったが、どうでもいい話と無視する事はできなかった。自分が我慢するか、守る事ができれば、気にしないでとの一言で押し流す事ができるが、5人の友達に関りがある以上、セーラには放置する事はできなかった。

「どうでも良くない!!」

「そんなに声を荒げない方がいいぞ。公女様なのだろ。それに、どうでもいい話にするしかないんだから。選択肢はそれしかない。気分は悪いけどな。」

「ペンタスの言う通りです。私たちには他者に何もできない代わりに、自分達はいつも通りにするという事ができます。先生が来ました。後で納得できる話をしましょう。」

 カーニーに宥められて、セーラは黙って変わりのない授業を受けた。


 一緒に休憩室で昼食を取った後、セーラは謹慎中の状況変化についての話を聞いた。

 学園長ゲンガー・ダルトン伯爵は、事件当日に3日間の休園を決めて生徒達を帰宅させると、対応のために情報収集を行おうとするが、第1近衛騎士団が捜査を始めると情報が全く入ってこなくなった。その時点で、ケネット侯爵派の誰かが第1王子の暗殺を企てた事を悟ると、学園室を立ち去るための整理をした。

翌日の午後には辞表を片手に宰相と面談したが、その時にはセーラの失態による事故という結論が出ていた。辞表は受け取ってもらえず、宰相と口喧嘩をした。知の学園長として理路整然としている部分はあったが、議論による口喧嘩ではなく、学園長のそれは罵倒だった。自分が辞職して、子供達に影響を及ばさないようにと考えていた事が、すでに無駄である事を知った学園長は、セーラのために激怒した。激怒して口汚く罵った所で、どうにもならない事は理解していたが、宰相から解雇と言う言葉を引き出そうとかなり粘ったが、それも実現できなかった。少しでもセーラの席を少なくするという策も失った学園長の怒りは、実行犯たちへと向かった。

その夜、ケネット侯爵派の緊急会合が開催された。そこでケネット侯爵自身が全く関わっていない事には確信は持てたが、陰謀を企てた者が名乗り出る事が無かったため、学園長は侯爵の目の前で派閥からの離脱を表明した。

「ジェイク殿下が入学する時に、派閥から抜け、中立の立場になるべきでした。このような愚策を実施したのも、私が学園長の立場にいて、何らかの便宜を図ってもらえると考えた愚か者がいるからでしょう。来年には第3王子レイモンド様が御入学なされます。三方が御卒業するまでは、学園内で派閥闘争、後継者争い、そういった事をする人間は、誰であっても全力で排除します。今より私は無派閥です。不要な接触はお断りします。最後に言っておきます。学園に手を出したら、今までに私が得ているあなた方に不都合な情報が表に出る事を覚悟しておいてください。」

 派閥と決別した学園長は翌日の緊急職員会議で、無派閥になった事を宣言した上で、学園内で派閥に関係する動きをした者は排除する事を申し渡した上で、今後侯爵派の一部が噂を流す事が予測されるため、学園が始まったらすぐに学生達に、噂話をしないようにと伝達するように指示を出した。

 先代のケネット侯爵の下で、様々な手段を見てきた貴族達は、これから何が起こるのかの予測はできたので、自分の子供達を守るために、すぐに手を打って、子供達に派閥に関係する行動をしなくて良い事を伝えた。この事によって、王都で広められた悪意の種が、学園に入ってくる事は無く、花を咲かせる事もなかった。


学園長は第1王子には極秘情報の一部を伝えた上で、殿下が身を守るのに必要ならば、対立勢力に不都合な事でも何でも話をすると発言した。という所までセーラに話し終えた。

「と、いう訳で本題の方の話をしたい。」

「この話は終わりだが、これからの話が本題だと考えているのはお前だけだぞ。」

 ペンタス、カーニーのコンビで話を大きく変えた。

「本題と言うのは何?」

「農作物改良活動についてなんだが、高等部3年の先輩たちが卒業すると、中等部3年の先輩2人と俺だけになってしまうんだ。」

「それは前から分かっている事で。それに、どうにかする事ができるものではないと思うけど。」

「セーラの言う通りなんだけど。第2、第1初等学校で大成功したのを見て、人は集める事ができると思うんだ。何かいい方法がないか?」

「祭りのようなイベントをするのか?」

「祭りは一時的なものだから、うまくはいかないと思う。継続的に皆が農業に興味を持って、活動する事を、促す策がないかと思うんだ。このままだと、俺が卒業してしまうと、先生の一部が細々と研究を続けるだけになってしまうんだ。」

今回の事件とは全く関係ないが、ペンタスにとっては、こちらの方が重要だった。それに、この件は学園内で話す事を避けるべき話題になったため、報告だけで終わる必要があった。

「私は初等学校のお祭りみたいに、仕事を探す事ができるようなイベントが、学園にあると助かるわ。騎士爵家だから領地がある訳ではないから、卒業した後、商業ギルドで学んで侍女になろうかと思っているの。」

 キャロットが料理上手であったり、裁縫が得意であったりするのは、小さい頃から母親に将来を見据えて仕込まれていたからだった。それはセーラと全く同じだった。小さい頃から食堂で母親と一緒に働いていたが、12歳になる時には、商業ギルドで紹介してもらった職場で見習いとして働く事も検討していた。何をしたいと決めていた訳ではなかったが、庶民としてのコースはそれしかなかった。

「男子は騎士、女子は結婚。それが学園に来る目的だと言われるけど、男子も全てが騎士になれる訳ではないし。女子も全員が結婚相手を見つける事ができる訳ではないわ。せっかく学園で高度な勉強をしているのに、それを活かす事ができる人は少ないわ。」

騎士爵家のキャロットだけでなく、多くの女子は、学園に通ったからと言って、何かを得られる訳ではない現実を理解していた。だからこそ、婚約相手を見つける事に全力で挑戦する女生徒が多かった。

「リリアは子爵家だから、結婚相手はすぐに見つかるんじゃないのか。下位の貴族なら、すぐにでも婚約できるとかは。」

「簡単ではないわ。政略結婚なら、親が動かないと成立はしないし、学園内で恋人になっても、立場が異なると結婚するのは難しいわ。階級に差がある以外にも、派閥とかもあるから。それに、家によっては色々と事情があるから。私の所は、爵位を継げる長男の嫁になるようにと、勝手に目標を決められたわ。両親も私の事を思っての事なのだけど・・・。簡単ではないわ。」

 貴族としての責務については深く考えることはあったが、セーラは結婚についてはほとんど考えていなかった。政略結婚であれば公爵家に貢献できるのだから、いずれ両親から提示された結婚に頷けば良いのだと考えていた。王家に次ぐ公爵家で自由な結婚ができるとは考えていなかった。だから、リリアの話には興味が無かった。それよりも、キャロットの話には興味があった。

「商業ギルドみたいなものを学園内に作って、部門ごとに活動して、仕事が斡旋できる様になったら、男子は騎士以外、女子は結婚以外の道を探す事ができると思う。」

「商業ギルドみたいか。」

「地方では、大規模な学校が無い所が多くて、そういう所は職業訓練も実施しているから。そういった所を参考にすれば、学園でも色々な仕事のための勉強ができるようになるかもしれない。」

「うーん、俺がしたいのは、職業訓練ではなくて、農業研究なのだが。」

「農業研究と、農業の職業訓練は何が違うの。開墾して、種を蒔いて、育てて、収穫するのは研究も訓練も同じよ。」

「確かに、そうだな。」

「農業研究には興味が無くても、農業訓練だったら、少しは興味を持つ人が出てくるかもしれない。領地持ちの貴族であれば、自分の所の農業について、少なからず興味を持っているはずだから。」

「そうだな。本格的な研究をしなくても、少しだけなら農業に興味を持つ者が出てくるかもしれないな。いいんじゃないか。」

「商業ギルドみたいに、色々な部門を作れば、学園の皆がそれぞれのしたい事ができるようになると思う。」

 セーラの提案に5人は顔を見合わせながら色々と考えてみた。貴族の伝統や常識に沿ったものに拘っていれば、あれだけ盛り上がった祭りは実現できなかったのだから、学園でも同じように常識に捕らわれない考え方で、色々な物を見直してみるべきだと考えた。

「学園ギルドは、生徒で運営するという事になるのだな。」

「殿下のおっしゃるようにするのが良いと思います。将来、官吏として王宮で仕える者もいるのですから。その訓練として事務処理を任せる事もできるかと。」

「カーニーは、騎士を目指すのだから、うーん、学園騎士団みたいなのを作って、そこに所属する形になるのだな。」

「いや、騎士団は、今までの仕組みで十分だろう。」

 全てを一から作り直す必要はなった。

「最初の目的であった、ペンタスの農業部門には参加する人は出てくるのかしら。」

「リリアの指摘はその通りだけど。1人で複数の部門に所属する事ができれば、農業部門に入る人もいるかもしれないわ。1人が1つしか選べないようにする訳ではないから。」

「学園ギルドという名称だと、学園を統括するみたいに思われるから、」

 リリアの問いかけにセーラが答えた生徒会という名称が採用されたため、この学園改革がセーラの功績の1つに数えられることになったが、実際には多くの人々の活動の結果で実現した。ただ、その人々を動かす大きな要因がセーラであったから、公女が功績を1人占めするような話が出てきても、それを否定する者は誰もいなかった。


 1か月後、生徒会計画をまとめ上げた6人は、担任のミレーネ教諭と共に学園長に提案を持って行った。ミレーネ教諭のサポートもあったため、提案書としての出来栄えは良かったが、いくつかの問題をクリアしなければならないため、学園長預かりとなった。

 学生の自主性で運営する生徒会と言っても、教諭を指導者として必要な部門もあったため、職員会議で諮られた。後継者育成などの悩みを抱えていた教諭たちが賛成した事で、学園全体の要望としてまとめられる事になった。

ただ、学園として継続的に活動するためには、正式な予算が必要であり、国の行政としての認可が必要だった。宰相に提案書を提出すると、内容は良いが予算が取れるかどうかの話は、財務卿メルヴィン・ロナガン子爵と直接するようにと言われた。

 学園長が宰相に三度の交渉を行った結果、ロナガン財務卿を説得する事ができないと実施は無理であると結論になり、学園長はセーラ達に提案書を戻した。武の公爵家に匹敵する程に恐ろしいと語られるロナガン財務卿を説得できる者はいないと誰もが考えていた。

 

 その日の夜、自室の鏡台に向かい合っていると、部屋の扉を叩く音がした。

「姉上、アランです。お話したい事があります。」

「僕もいるよ。」

 黄色の寝間着の上に水色のガウンを羽織ると2人に入室の許可を出した。白い寝間着姿の弟達は相変わらず美しく、良く似ていた。

 応接テーブルを挟んだソファーに向かい合って座った。

「何の話?」

「今日の晩餐の時、何か話をしたかったのではありませんか?」

「どうして、そう思ったの?」

「弟だから分かるんだよ。いつも見ていれば分かるよ。」

「話そうかとは思ったけど、話さない方がいいと思ったから・・・。」

「父上へのお願いなのですね。聞かせてもらってもよろしいですか?」

 セーラが父母に対して、自分の望みを伝える事を常に躊躇っていた。父母に対する遠慮ではあったが、それは2人が過剰に反応するからだった。特にエリス公爵夫人は、ドレスが1着欲しいとセーラが言葉を発した時には、王都中の職人たちに注文を出そうという勢いで動き出した事があった。何でも要望を叶えてくれる父母の思いはありがたかったが、セーラの頭の中で処理できる範囲を超えているため、常に立ち止まった上、どのように伝えれば良いのかを慎重に考えなければならなかった。

「学園長から、生徒会の話は予算が付かないと実現しなくて。予算を得るには、財務卿の許可が必要なんだけど、すぐに説得するのが難しいとおっしゃって・・・。」

「ふーん、父さんに頼めば、何とかなると思うよ。」

「エリック、そんなに簡単に・・・。」

 表情を作るのが上手なセーラも、赤い瞳が見せる感情を隠す事はできないようで、困った色をはっきりと見せていた。

「姉上、自分の要望で公爵家が動く事は、いけない事、もしくは、しない方がよいとお考えではありませんか。」

「いけないとまでは思わないけど・・・。」

「姉上、ぜひ父上に相談してみてください。相談しても、公爵としてできない事はできないとおっしゃると思います。姉上から見て、無理をしているように見えるかもしれませんが、父上もできる事と、できない事はきちんとお考えです。母上は、その、まあ、そういう事なのですが。今回の件であれば、学園の利益になると判断すれば、父上も財務卿との交渉をしてくださるでしょう。」

「でも。」

「姉さん、遠慮する気持ちは分かるけど。娘として受け取って良い物を受け取るだけだと考えればいいと思うし。公爵家はミーナ母さんに恩義があり、それを返しきれていないんだ。姉さんに、それを受け取ってもらいたいと考えているんだ。」

「ミーナ母さんの貴族への復籍と、第2夫人になる時に、お父様にもお母様にも、公爵家の力を使ってもらったから。」

「ああ、そう言われると、そう言う事になるのか?」

「いや、エリック違うぞ。姉上、その件は公爵家がしたい事で、こちら側の要望を実現しただけです。恩義を返した事にはならないのです。」

「兄さん、その説得だと、姉さんには通じないと思うよ。」

 弟に指摘されたように、表面上の対話が成立したからと言って、それでお互いの気持ちが納得できる訳ではなかった。アランは今一度自分の目的を思い返してみた。自分がこの部屋に来たのは、姉の要望を叶えるためではなく、姉と父親の絆を一歩前進させるためだった事を思い出した。

「姉上、お願いがあります。」

「え、お願いって。」

「先程、公爵家がミーナ母さんに恩義を返したいと言いました。その気持ちだけではありません。特に、父上は、セーラ姉さんに父親として何かをしたいんです。セーラ姉さんに喜んでもらえる何かをしたいのです。そういった素振りを見せていませんが、そうお考えなのは間違いない事です。だから、姉さんには積極的に要望を伝えてもらいたいのです。父上のために。」

「・・・。」

「姉さんも気付いていると思うけど。父さんも母さんも不器用で、世間知らずなんだ。他人に気を遣わない訳ではないけど。使い方が、その下手なんだ。だから、子供側から歩み寄らないと、うまくいかないんだ。」

「そうかもしれないけど。」

「それとさ。自分では気づいていないみたいだけど、姉さんも不器用と言う点では同じだよ。」

「え。私は。」

「エリックの言う通りです。姉上の不器用さは、自分の立場と力を理解せずに、無用な遠慮をする事です。事件は、公的には失態となっていますが、王子を救った行為である事に変わりはありません。王室の権力争いを防いだ事は紛れもない事実です。そして、これは公爵家の功績でもあります。そういった正の部分もきちんと見て、正しく評価する器用さを姉上は持つべきなんです。今回の財務卿との交渉を父上にお願いする事は、セーラ姉上の功績に対する褒美であると考えればいいんです。」

 赤目赤髪の遠慮しか知らないような少女の気持ちを変える事ができそうだと考えた兄は、ただただ正論で押し続け、弟の方は兄の発言を茶化すような事も師ながら、姉の思考を狭い所から広い所に向かうように誘導し続けた。


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