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公爵家物語(オズボーン家)  作者: オサ
2年生
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2年生 その39 対魔獣戦

39 対魔獣戦


 刺客の首を切り離したセーラは、その切り口を自分の胸に着けると、ベストに血を付けた。体から流れ出る血をブーツで皆のいる方向と反対に少しだけ飛ばした。

 腰の魔石袋から光の魔石を5つ握りしめて魔力を込めると輝きを放ち始めた魔石を、入ってきた通路と、これから魔獣が出てくる4つの通路の入り口に投げた。最後にもう1つを取り出すと、さらに強い魔力で発光させてから足元に置いた。

 セーラは魔獣を撃退する準備を整えた。

 魔物の巣から湧き出る魔獣は討伐しつくすと、次の出現まで2日間が必要であるが、この時間を短縮させる方法があった。魔獣を討伐する事によって手に入る無属性の魔石を放置すると、その魔石が12時間後に魔獣として復活した。

 コンラッド王子暗殺事件を企んだ刺客が、事件を事故に見せかける方法はただ1つで、12時間前に魔石を放置して、このタイミングで魔獣を復活させる事だった。死体の血と人間の命に引き寄せられた魔獣が、形がなくなるまで人を切り刻み続ける習性を刺客が見逃すはずはなかった。

刺客による暗殺が失敗しても、多数の魔獣が復活するまでの時間を稼ぐことができれば、刺客の任務を果たす事ができた。そして今、新たな刺客がセーラの目に現れた。

右斜め前の本道と呼ばれる周囲より大きな通路口から赤黒い4本足の獣が3匹現れた。膝の高さの身長を持った狼のような姿の魔獣の額には赤黒い魔石が鈍く輝いていた。

3匹の魔獣が自分に向かってきているのが分かったセーラは第一段階をクリアできた事に安堵した。魔獣は血に対しては、匂いを認識できるのではないかと思われる程に敏感であるが、生命体そのものには敏感とは言えなかった。動いている物を生命体として認識している仮説が正しいようで、麻痺毒で動くことができない5人よりも血を浴びたセーラと、血を流している死体に向かって、魔獣達が加速した。

走り出した瞬間は同時だが、距離に差があった。最初の一匹がセーラの胸に向かって後ろ脚で地面をけると、前足で攻撃を繰り出してきた。直前で左に体を動かして躱すと、二匹目の攻撃は右側に動かして躱した。その瞬間に右腰の短剣を右手で抜き放つと、三匹目の攻撃だけは半身だけ、ずらして躱して、魔獣の額の魔石を抉るように短剣を動かした。

魔石と4本足の獣の体が分離すると、魔獣の活動が止まり、貴重な資源へと変わった。魔石がある限り、体の一部が破壊されても攻撃を続けるのが魔獣であり、額だけを的確に攻撃できる能力だけが有効だった。

二匹は着地すると、振り返って次々と飛びかかってきた。一匹目を躱してから、二匹目を半身躱して額を抉った。人間の攻撃に怯むことのない魔獣には牽制は通用しなかった。確実に一体ずつを停止させる戦い方は、攻撃を躱して続けて一撃必殺を繰り出す機会を待つ事であった。

三匹目を停止させると、同じ通路口から今度は四匹が侵入してきた。

「同じ通路でまいたんだ。」

 数は確定できないが方向は決まった。これで魔獣との戦いに専念できるようになった。魔獣の立ち位置をコントロールする必要が減るだけでも戦いやすくなった。

 セーラが四匹の方へと3歩近づくと、一匹目を躱して、二匹目は躱しながら後ろで蹴りを入れた。それで仕留める事はできなかったが、着地の時間を少しだけずれる事ができた。その差を作るために、三匹目の攻撃を完全に躱す事ができなかった。右肩が軽く切られた。

「!!!」

 魔獣から傷を受けるのは初めてだった。家族から、ただ切られるだけでなく、魔獣の魔力が体に入ってくるから、痛みが人間の剣戟とは全然違ってくるとは聞いていた。その心の準備はできていたが、鈍痛が全身を駆け巡るような感覚に歯を食いしばった。その一瞬で、四匹目の攻撃を半身で躱して、魔石を抉る余裕がなくなった。

 左手でもう一本の短剣を抜きながら、全身を地面に落下させた。セーラの胸に飛びついてきた魔獣の真下に入る形で、攻撃を躱すと同時に、左手の剣で魔獣の喉を下から突き上げた。喉も心臓の位置も魔獣の弱点ではなかった。突き上げた剣で下から魔獣を跳ね上げる事に成功しないと、圧し掛かれて終わってしまう。

「ん。」

 魔石を突き上げる感触を得て、目の前の魔獣の肢体から力が抜けていく様を見届けながら、その死体の方向を少しだけ左手の剣で変えると、反転してきた魔獣と激突させる事に成功した。

 素早く立ち上がって、一匹目の攻撃を半身で躱すと、魔石を抉りながら、激突して動きを停止させた魔獣へと突っ込んでいった。右逆手で持った短剣で正面から額への一撃で魔石を外すが、魔獣の左前脚がセーラの腹部に傷をつけた。深い傷ではなく、薄皮を切られたような浅いものであったが、あの鈍痛は全身に広がった。

 2度目の痛みを飲み込むと、目の前で力を失った魔獣を盾にして最後の魔獣の攻撃を躱しつつ短剣を奮った。

 魔獣がさらに出現するのかは分からなかったが、セーラは迷わずに左胸にあった緑色の小瓶の封を切ると、中の液体を一気に飲み干した。特製の強壮剤が全身に力をみなぎらせてくれるのを感じると、腰の傷薬を右肩と腹部に塗り付けると、魔獣の肢体に近寄って先程手放した短剣を抜き取った。

 三団目の登場も同じ通路口からの登場で、今度は六匹だった。左手の剣を順手、右手の剣を逆手で持ったいつものスタイルで戦闘を開始した。

 三対一までは騎士なら対応可能、一つ上の騎士なら四対一でも勝機はあるが、五対一から先は通路に逃げ込んで包囲攻撃と連続攻撃を封じつつ、正面からの決戦で一匹ずつ仕留めていくのが常道であり、唯一の勝利の方法だった。生き延びるための選択は1つだったが、その場合は円形広場で麻痺している五人を生贄に捧げる事になるのだから、セーラは選ぶ事はできなかった。

王位後継者を救うための良策は、ペンタス、リリア、キャロットの三人が魔獣の攻撃を受ける間に、最低二匹を倒して、第一王子とカーニーだけを守る事だったが、セーラは六対一の戦いに選択した。

二匹が同時に飛びついてくると、大きく躱しながらも、一匹の額を擦れ違いざまに抉り取った。そのまま踏み込んで跳躍をしかけるために力をためた別の魔獣の額に剣を突き刺してから、魔石を押し上げるようにして外した。筋力が上昇しているのを感じたセーラは、振り向きざまに右手の剣を振り下ろして、背後に迫っていた魔獣の前足を切り落としながら攻撃を払った。

前足の一本を失っただけで魔獣は動きを止めないし、攻撃も継続するが、動きが遅くなった事で格段に対処しやすくなった。左側から同時に飛んでくる二匹の魔獣を躱して、一匹を仕留めれば三対一の状況に持ち込めるとの計算で、セーラは二匹の間に飛び込んで行った。

間をすり抜けつつ右側の魔獣の額を抉り取った瞬間、左の脇腹に強烈な痛みが襲い掛かった。興奮作用が体の繊細な動きを低下させていた事に、セーラはこの時初めて気付いた。

「ぐぅ!」

 伸縮性のある魔獣の皮で作られた肌着が、傷口を大きく開くのを防いでいたが、傷が深い事は体に走る痛みの位置で理解できた。

傷の治療をしなければ死。

死の香りが冷静さを失わせたのか、生への欲求がそうさせたのか、セーラは近い順に魔獣へ攻撃を仕掛けた。致命傷となる傷は避けたが、右腕、右腹部、左頬に傷を追いながら三匹を仕留めた。

膝を地面に落として、両手の剣を地面に置くと、左胸の回復補助剤を一気に飲み干してから、腰の塗り薬を取り出すと左の脇腹の傷に塗り込んだ。瞬時にして傷口が塞がるのは分かるが、深い所の痛みが残っていた。すぐに頬と右腹部、腕や肩の傷にも薬を塗って塞いでいった。

深紅の瞳が通路口に三匹の魔獣を見つけた。もう少しだけこのままで、傷が癒えるのを待ちたかったが、両手に短剣を握り締めると、両足に力を込めて立ち上がった。向かってくる三匹が出てきた通路口に、さらに三匹が見えた。

三匹を躱しながら一匹を仕留めた場合、後ろに流した二匹と新たな三匹に前後から挟まれて、勝機を完全に失うと判断したセーラは、一撃確殺ではない近接戦闘を選択した。助走による攻撃を封じるために、魔獣の足に攻撃を加えながらの近接戦闘は、六匹の魔獣の中で舞っているように見えた。

傷を受けながらもギリギリで躱しながら、魔獣の行動力を少しずつ削る戦いは時間がかかった。その中で、人間だけを意識して移動と攻撃をする魔獣達が、密集状態になるとお互いに激突する場面が発生した。

その激突の瞬間を狙って、セーラの短剣が魔石を弾き飛ばした。

一匹になるまで100手を超える攻防を繰り返したセーラは、最後の一匹の額の魔石を抉り取った瞬間、最後の一匹が通路から飛び出してきて、セーラの背後から最後の攻撃を仕掛けてきた。

右手の剣で魔獣の突進を受け止めると同時に、魔獣の両前足で腹部を切り裂かれた。

「ぐぅぅ。」

 腹部に入った鈍痛が、その傷の深さを知らしめたが、最後の力を振り絞って動かした左手の短剣で魔石を抉り取る事に成功した。

 未だいるかもしれない。その恐怖がセーラを円形広場の中央へと歩ませた。傷口を塞ぐ前に、皆を守りやすい位置を取らないと、守る事ができないと判断したセーラは、その場に辿り着くと、膝を地面に着いて上体だけは直立状態を維持した。

 あと一匹だけは、身を盾にしながら仕留める事ができる状況を作った後、セーラは気を失わないようにだけを意識しながら、通路口を睨みつけていた。


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