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公爵家物語(オズボーン家)  作者: オサ
2年生
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2年生 その37 大成功

37 大成功 


 7月第2週の太陽の日、第1初等学校の大講堂にテーブルと椅子が持ち込まれて、簡易的なお茶会パーティーが開かれた。

 9月末の発表祭に資金を提供する貴族と商人達が招かれたが、彼らは茶会そのものに期待していなかった。見習いメイドですらない学校の生徒達が給仕役で、歓待で対応するのは貴族達ではあるが、14歳の学園生徒であるのだから、期待する方が可哀そうだと考えていた。

顔を出すはずの第1王子のコンラッドに挨拶をした後は、どうやって時間を潰そうかと考えていた商人と貴族達は王子の挨拶から驚いていた。

「第1初等学校発表祭の支援をありがとうございます。より良い発表祭とするべく、尽力いたしますので、今後もよろしくお願いします。また、良き交流ができる事を感謝いたします。」

 完全にお願いする側のセリフと、頭を下げた行動に会場が固まった。確かに、主催者側として出資者に礼を述べるのは当然ではあるが、王家の人間は第1学校の所有者であり、そもそも国の所有者でもあるのだから、第一王子が頭を下げる必要が無かった。それなのに頭を下げるという事は、第一王子が学校の生徒達のために頭を下げたという結論しか導き出す事ができなかった。

「お茶と軽食もお楽しみください。」

 良く通る女性の声が大講堂に時を戻したが、招かれた客たちの驚きが止まる事は無かった。第1王子が各テーブルにわざわざ出向いて、個別に挨拶を始めた。

「殿下、ご丁寧なあいさつ痛み入ります。」

「こちらは歓待する側ですから、そのような言葉遣いは無用です。」

「そうそう。コンラッドがそう言っているんだから。ところで、ガイストの街では、良い麦を使った特産品があると聞きました。」

 商人達は何が起こっているのか、この無礼な言葉遣いで殿下を呼び捨てにして、普通に話をしているのが誰なのか、何もかもが分からなかったが、会話を止める訳にはいかずに、戸惑いながら話をするしかなかった。

「殿下とお呼びしないか。ペンタス。」

 窘めている人物が男子の学生服を着ているのは見えているが、顔立ちは美しく、女子生徒が男装しているようにしか見えなかった。この女性とも男性とも言えない人物の存在が、出資者達を混乱させた。

「分かった。気を付ける。それよりも、特産品の話を聞かなければならないんだ。いいか、この町の特産品を育てたのは、ここにおられるキーズ商会の・・・。」

 ペンタスの農作物及び特産品自慢話を聞かされた商人は、自分が褒められているのだから、悪い気はしなかった。しかも、第1王子の前で絶賛されているのだから、この無礼な少年によって、この商人は名誉を与えられていた。さらに、第一王子はきちんと話を聞きながら、商人である自分ときちんと褒めるための対話をしてくれた。

 この会話の中で、背が低めの男子が、豊富な知識を持ち、農作物に対する絶大な敬意を抱いている事が分かると、王子に対しての無礼な発言の意図が何であろうかと考えるようになった。

 資金提供者をもてなすために、王子が頭を下げて、テーブルごとに挨拶に回るだけでは足りないと考えた王子が、言葉通りに遠慮は不要という姿を見せるために、あえて側近の1人に普通の同級生に話すような態度を取らせた。それが第1王子の狙いであると考えていた頃、新しい驚きが発生した。

「特産品の屋台があればいいのにね。話だけでなく、実際に食べてみたいな。」

 コンラッドに付き添っていたリリアの一言に、商人が食いつかない訳がなかった。収穫祭の時期は、各地や近隣の農村から大量の食料品が王都に入ってくる商機であり、祭りの屋台でアピールできれば、販路の拡大につながる可能性があった。特産品の人気が王都に広がるようになれば、莫大な利益を得るルートを手に入れる事ができた。

 コンラッドは商人たちの要望が強い事を知ると、この場で確約はできないが検討すると宣言した上で、商人達の要望を聞き始めた。側仕えのカーニーとリリアがその場でメモを取りながら、どのような屋台を出したいのか、準備に必要なものは何かなどを聞き取った。さらに、すでに挨拶を済ませた商人達にも、同級生を派遣して丁寧に話を聞いていった。

身分に関係なく敬うべき者を敬う謙虚な姿勢だけでも王子の評価は上がった。側近である男子2人と女子1人の組み合わせは、商人にも貴族にも飽きさせることのない話題を提供して、きちんと王子との対話をサポートしていた。最初は、王子が支えられるばかりだと考える商人達もいたが、突発的な状況における素早い決断力と対応を見る限り、王子が重要な権限を握っているのが分かった。そうなると、同級生に助けられている第一王子ではなく、同級生を使いこなしている第一王子という認識を、商人達と貴族達は持つ事になった。

さらに、会場のメイドを取り仕切っている赤髪赤目のメイド長が、オズボーン家の第2公女だと気付くと、第1王子の政治的な勢力に関する認識も変える必要があると考えた。

庶民出の公女は、庶民の憧れであると同時に、貴族達からの侮りの対象であったが、今は公爵家に愛されている公女として認識にされていた。長女レイティアよりも公爵夫人に可愛がられていると評されていたのは、実母ミーナが特別待遇を受けた事と、姉自身が妹の素晴らしさを語っている姿が度々見られた事があったからだった。

公爵夫人の寵愛を受けている第2公女が、まるで庶民のような扱いである給仕役を担当している事はありえなかった。しかも、楽しそうに給仕役をこなしている姿が、嫌々やっているようには見えなかった。

第1王子のために、公女がどのような任務でも忠実に遂行している事実から、公爵家が完全に第1王子コンラッドの下についていると多くの人間が判断した。

もしかすると、公女が第1王子のためにここまでやっているのは、と想像の翼を広げながら、時が来るまでこの話を広げない方が良いだろうという、心遣いをする事が、今日の素敵な茶会の礼になるだろうという所まで、その翼で飛んで行った。


 発表祭の場所として第1初等学校だけでは狭いという問題を解消するために、商人と貴族の力を借りたのだが、その商人から頼まれて、祭りの拡大をする方向に動き出す事になった。

 人材については商人達が用意をするが、場所と全体を運営する人をどうするのかを考えた時、自分達だけで解決できないと判断したセーラは、頼りにすべき人物の名を告げようとしたが、その前に筋を通すべき人がいる事を思い出した。

「お姉様。」

「セーラ?」

「はい。部屋に入ってもよろしいでしょうか。」

「ええ。いいわよ。」

 水色の寝間着姿で鏡台に向かっていたレイティアは立ち上がると、ソファーの方へと歩き出した。部屋に入ってきたピンク色のセーラもソファーの方へと向かった。寝巻の上に同じ色のガウンを纏っていて、可愛らしさを強調していたが、誰に見せる事もない寝間着である事を、姉レイティアは残念に思った。

「飲み物はいる?」

「いえ、いりません。」

「どうしたの。寝巻を見せに来てくれたの?」

「そうではありません。お姉様にお願いと言うか、許可を頂きに来ました。」

「許可。私が許可するような事って、何かあったかしら?」

「第1初等学校のお祭りの事で、困ったことができたので。」

「私の力を借りたいって事。もちろん、セーラに頼まれたら、何でもしてあげるわ。」

 水色の妖精が満面の笑顔を見せた。

「いえ、お姉様に頼みたいのではなくて、ロイドお兄様に力を、借りたい、と思っていて。」

「ロイドは頼りになるわよね。私なんかよりも。」

「最初は、お姉様に力を借りようと思ったのですが。」

「頼りにならないと思ったのね。」

「違います。公爵家の力を借りるのは良くないと思って。お姉様にもアランにも頼めないと思って。」

 姉が自分のために何かをしてあげたいという気持ちは嬉しいが、とても重要な任務であると考えるのは、やめてもらいたかった。

「そうなのね。でも、ロイドに頼むのであれば、私の許可は必要ないと思うけど。」

「お手伝いをしてもらう場合、お休みの日にも力を借りるかもしれないので、お姉様とロイドお兄様の時間が減ってしまうかもと・・・。」

「心配してくれたのね。でも、私はロイドを独占したい訳じゃないのよ。妹の力になる事は喜ばしい事だと思うわ。ただ、宰相様のように、ご自分の仕事を孫に押し付ける事が許せないだけだから。」

「ロイドお兄様にお願いしても。」

「ええ、もちろんよ。せっかくだから、ガウンの下の寝間着を見せてもらいたいわ。」

「え?どうしてですか?」

「どうしてって、私も見せているから。セーラの寝間着姿を見てみたいわ。」

「分かりました。」

 ゆっくりとガウンを脱いだセーラは真っ赤になりながら、姉の視線と指示に従った。くるっと1回転して笑顔を見せた。兄弟姉妹のいなかったセーラには、これがほのぼのとした家族が見せる風景であるのか、姉レイティアだけが望んでいる風景なのかは分からなかった。


 学園の午前の授業が終わると、セーラはロイドを昼食に誘った。6人組と昼食を取りながら、状況を説明してもらった宰相の孫は、食事後に次々と指示を出していった。

 地図を広げると、商人達の屋台を設置できる地域を設定した。

「王都中の商人が参加すると思った方がいい。それと、日程を後ろに1日伸ばそう。学校の方は2日のままでいい。」

「ロイド様、それだと、発表祭とは違う祭りになってしまいます。」

「キャロット嬢の言う通りで、商人達の屋台を、直接参入を認めると、王都の収穫祭になってしまうんだ。」

「ロイド殿、それを私たちが決めても良いのですか。」

「構わないでしょう。王宮の予算を使うような事がない限り、殿下の決定で何でもできるようにしているはずですから。」

「はい。ですが、少額であっても予算は必要です。それに、警備の配備も考えないとなりません。学校の敷地を出た街中を使うのだから。」

「資金の方は、ギルドに出させますから問題ありません。この後、殿下には一緒にギルドに行ってもらいます。」

「警備の方は?」

「王宮の近衛騎士団を殿下の命令で動かしてください。20人ぐらい巡回させれば十分です。足りない所はギルドがやりますから。」

「近衛騎士団の役目は、王宮の守護と戦役であって、警護は入っていません。」

「殿下がいる所は王宮と同じです。王宮の守護とは王族の守護ですから。何の問題もありません。近衛騎士団も喜ぶと思います。とにかく、これは王宮に戻ってから打診してみてください。許可が得られるはずです。」

 第1王子以外の5人には、新地域の割り当て案を作るように指示を出した。その日はギルドの協力を得る事と、割り当て案の作成で終わったが、翌日からは上級クラスの生徒とミレーネ教諭の協力を得た上で、新たな課題を処理していった。

 地区割を決定してから、学校とギルドの領分を細部まで決めると、学園側は第1初等学校のサポートに専念させた。6人組だけは第1王子のサポートの位置に据えたことで、ギルドとの交渉も担当した。

 このロイドの大活躍に心酔したのはペンタスだった。農作物を王都に集めての収穫祭という理想郷を作るために次々に適切なカードを切っていく手際に、自身の理想の姿を重ねると、師匠と呼んで、殿下に対しては使わない敬語を使うようになった。

 瞬く間に王都収穫祭の形ができると、第1王子が王都収穫祭の主催者として名前が広がった。

 天才美少年と呼ばれた第2王子がケネット侯爵の後援を受けて、王位継承権争いの一番手にいる事は、貴族だけでなく、庶民の間に広がっていた。ジェイク王子の名前は知っていても、コンラッド王子の名前を知らないという庶民は多かった。第2王子の陰に隠れていて、今までは第1王子の話が庶民の口に上る事はほとんどなかった。

だが、大きな利益をもたらしてくれる王子の名前と人柄が、商人達が通して王都に広まった。また聞きの噂ではなく、実際に商人達が見てきた話だけに、その広がり方は凄まじかった。商人にとって金儲けの機会をくれるというだけでも感謝の対象なのに、場所も方法も新たに提供してくれるのだから、信仰の対象にする者がいてもおかしくなかった。

収穫祭で祀るのが豊穣を司る神なのだから、王都収穫祭で祀るのは王家の第1王子が相応しいという冗談も、9月末の3日間の祭りが終わると、冗談とも言えなくなっていた。

族中心の催しばかりの王都に、民のための祭りが誕生したのだから、民の落とすお金は膨大なものになった。半年前に行われた第2初等学校での発表祭でさえ、利益が出た事で絶賛されたのだから、その規模の10倍を超えた祭りが絶賛されるのは当然だった。

 第1王子コンラッドの名前は、民衆に富をもたらした王都初の収穫祭の主催者として王都に轟いた。


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