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公爵家物語(オズボーン家)  作者: オサ
2年生
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2年生 その30 公子の未来図

30 公子の未来図


 公子アランが人生設計をする時、9年5ヶ月後の暗闇の暴走が基準点となり、それ以降は無であり、それ以前は準備すべきことで埋められた。

 学園中等部1年生における重要な課題は、男子生徒と親交を深める事であった。25年ごとに発生する魔獣達の大量出現において、魔獣を撃退する戦力を準備できなければ国が崩壊してしまうのだから、戦士となる貴族達と絆を深めて、共に戦う友となる事は必須だった。

公爵家が担当する大中小それぞれの巣が最大最凶の地下構造物ではあるが、学園の近くにも1つ、王都の西部と南東部に1つずつ、小の巣は存在した。これらから発生する魔獣達を倒し切らなければ、王都の機能は半壊して国力は激減する。さらに、全国各地には確認して管理しているものだけで、小の巣が80個あった。最大の懸案である中の巣と大の巣は公爵管理下の1つずつしかない事は救いと言えたが、各地の巣においても暴走を止める事ができなければ、街ごと死の場所へと変わる。

これらの地方に対応するためにも1人でも多くの優秀な戦士が必要だった。公爵家が英雄の一族と評される事は当然ではあるが、公爵家のみで国を支えてきた訳ではなく、多くの戦士が公爵家を支えてきた。英雄の一族でいられた公爵家の次期当主としては、国全体の戦力の増強を最優先課題と考えていた。

学園に通う貴族男子の中で、長男は後継ぎであり、彼らと交流を深める事は、貴族間の協力、都市間の協力、ありとあらゆる政治的準備に良い影響を与えた。次男三男達の多くは騎士を目指し、彼らとの交流はそのまま将来の騎士団の強化につながった。

アランが授業外ですべきことは、男女の愛を語る事ではなく、戦士たちの夢を語る事であった。

そして、次に大切な事は、増強した戦力を維持する事だった。この維持を壊そうとするのが、血塗れの権力闘争だった。公爵家で発生する可能性は皆無だったが、王家の方は第1王子と第2王子との後継者争いが発生していた。2人だけが決闘して全てを決めてくれるならば、好き勝手にやらせたいところだが、実際に動くのは下にいる貴族達であって、暴走する事があれば著しく戦力が低下する事態も発生した。

王家と公爵家が婚姻を結ぶ事をタブーとしているのは、公爵家が王位継承に巻き込まて、戦力を低下するのを防ぐためだった。

今、第1王子と第2公女は親友と言っていい関係を作っていた。そこに、第2王子と第1公子が親友のような関係を作る事ができれば、公爵家の姉弟が接着剤となり、2人の王子の決定的な対立を防ぐことができるかもしれなかった。少なくとも、対立の中で多くの貴族達が犠牲となるような闘争を起こさないように圧力をかける事ができるとアランは考えていた。

中等部の3年間で強固な男子達の絆ができれば、アランの設計図は明るいものになるはずで、嫁取りは高等部の3年間で行えばよいと考えていた。公爵家の跡取りである以上、血を残す事の大切さも理解しているので、嫁取りを軽んじている訳ではなかった。他の人間とは重視する時期が違っていた。


「アラン様、お話とは何でございましょうか。」

 自室の応接ソファーに腰かけた公子は、公爵邸で最も頼りになる老紳士に向かいのソファーに腰かけてもらった。

「クラスの女生徒からの誘いを断りたいのだが、相手を傷つけずにするためには、どう言えば良いのかを教えてもらいたい。」

「アラン様、拒絶されて傷つかないご令嬢はいません。」

「では、女生徒が誘わなくなる方法を教えてもらいたい。」

「アラン様、この老人を頼りにしていただく事は嬉しゅうございますが。女性とのお付き合いに関しては、アドバイスできるような経験はございません。ただ、そういった事は一時の事であって、すぐに収まるのではないでしょうか?」

「本当にそう思っているのか。」

「いいえ。」

「そう思っているのなら、手を貸してくれ。」

「第2王子への接触を避けるようにと、向こうの派閥から指令が出ておりますので。女生徒の興味はアラン様に向かうと思います。これは仕方がない事かと。」

 ケネット侯爵派では、派閥内の令嬢たちに第2王子が伴侶を選ぶまで待つようにとの指令が出ていた。第2王子の成長を重視しての対応であったが、現時点において最大派閥の首領である筆頭侯爵家の後ろ盾を手にしているだから、第2王子自身の縁組によって、さらなる勢力拡大を目指す必要がなかった。

「彼女たちの視野に入らないようにする方法はないのだろうか。」

「ございません。3月の第2初等学校発表祭で大きすぎる実績を手にされておいでですから、ご令嬢方の御父母様も、婚約が成立しないとしても、アラン様と縁ができる事をお望みでしょう。」

 商人と貴族の双方に良い人材を提示して就職活動を活性化するという意図が大成功しただけでなく、商人と貴族の交流が大きな化学変化を起こしていた。お金を使う事が嗜みであると考えている貴族が資金を出して、その資金を運用できる商人が、新たな労働者を雇い入れれば、人も物も金も大きく動き出すに決まっていた。王都に新たな賑わいを作り出した立役者が注目を集めた。身分は最高級の公子で、王都の経済力を底上げした若き才子は、剣の達人との評価も得ているのだから、人を引きつけるに決まっていた。

「他に目立ってしまった原因はあるか?今後の参考にしたい。」

 打開策を考える場ではなく、反省会へと移行しつつあった。

「社交デビューが失敗でございました。」

「商人達も参加させて、貴族との交流を推進したからか。」

「それは、功績を強化しただけですから。失敗とは言えません。」

「失敗した覚えはないが。」

「最初のダンスをセーラ様と踊った事です。」

「特別な女性がいない場合は、母や姉をパートナーにするのが通例だと思うのだが。」

「はい。特定のパートナーがいない事を示したことは、パートナーを探しているとアピールしている事にもなります。デビューで踊らない選択もございました。そうしておいででしたら、今はパートナーそのものを求めていないとメッセージがご令嬢方に伝わったと思います。」

 ダンスを苦手として人前で見せたがらない姉を気遣って、自分のパートナーとして選んだことが原因だったとは思ってもみなかった。自分であれば、形だけでもそれなりに踊っているように見せられるから、それが姉の苦手意識を取り除く一助になれると考えて選んだことが、このような事態を生んでいる事に初めて気付いた。

 アラン自身がパートナーを探しているとアピールしながら、美貌と実績と地位を背負っているのだから、女生徒達が積極的に動こうとするのは自然な事だった。

「どうすれば・・・。」

「本格的に婚約者探しを進めてはいかがでしょうか?婚約者をお決めになれば、ご令嬢方からのアプローチはなくなります。」

「私には女性を見る目がある訳ではない。」

公爵夫人や公女という美しさも能力も溢れた女性を誰よりも知っているのは事実であるが、単に素晴らしい女性が家族として、側に居るというだけであって、誰かの能力を見抜く能力が鍛えられた訳ではなかった。

「アラン様、見抜くとかではなく、婚約者に望んでいる事をはっきりと意識する事から始めてはいかがでしょうか?」

「望んでいる事は、自信が持てる何かを持っている事だな。」

「何かとはどのようなものでもよろしいのでしょうか?」

「何でも構わない。国で一番とかでなくてもいい。自分自身に対して、自信が持てる何かが・・・。」

「自信が持てるとなると、国一番と言わないまでも、多くの方から評価を受ける能力という事になるかと思います。内容はどのようなものでも良いというのは、刺繍でもよろしいのでしょうか?」

「刺繍でも良いが、自信を持つとなると確かにかなりの能力が要求される事になるか・・・。それでも、公爵夫人になるのだから、1つは誰からも認められる能力を持っていて欲しい。」

 アラン自身は才能溢れ、高い能力を持った女性を妻にしたい訳ではなかった。好みの顔と言うのはあるが、妻に過剰な美を求めるつもりもなかった。自分と子供を愛してくれる女性であれば良かった。だが、妻が公爵夫人として幸せになるためには、本人が自信を持てる何かが必要だと考えていた。

 新公爵夫人は、美の女神エリス、女神の娘である才女レイティア、庶民出と侮られながらも公女としての評価をわずか1年で確立しつつある努力家セーラ、この3人と比較されて、競争する事を強要される可能性があった。貴族社会の刃が公爵家に向かう場合、この強要によって新公爵夫人を攻撃するのは確定事項と言えた。

 そういった刃から守るつもりはあるが、一番恐ろしいのは、自分自身で刃を突き立てる事だった。その場合、自分自身を助ける事ができるのは、自分の心の内に打ち立てた自分を信じる気持ちだけだった。

「アラン様が望んでいる事を周囲のご令嬢にお知らせする事ができれば、現状を変える事ができるかもしれません。」

「現状は変わるかもしれないが。それぞれが自信を持っている何かをアピールするという方向になるだけで、女生徒に囲まれる事は分からないな。」

「婚約者をお決めになるまでは、大きく状況が変わるとはないかと思われます。」

「そうか、結局は・・・。セバス、感謝する、良い事を思い出した。」

「それは何よりでございます。」

輝かしい金髪と透き通った青い目には満面の笑みが相応しいし、男性に成長しつつあっても、次期当主の一番の魅力は素直な所で、無邪気に喜ぶ姿こそが尊いものだと、祖父の気分に浸りながらセバスチャンは微笑みを返した。


 公爵一家の晩餐の最後はお茶会と言う名の家族会議が開催される事があった。家族的には重要な案件の話し合いばかりで、公爵家の政治的な話し合いがされる事は今までは無かった。

「父上、お話があります。」

「改まってどうした?」

 晩餐の始まりから機嫌が良さそうな長兄に家族の視線が集まった。

「以前、父上からお話があった婚約者候補のご令嬢を紹介していただきたいのです。」

「???」

「???」

「???」

「???」

「???」

 アラン以外の人間は、以前の記憶を呼び起こすのに懸命だったが、何も出てこなかった。「アラン、以前とはいつの事なのだ。そもそも婚約者候補の話をした記憶はない。もしかして、そういう話にして、女生徒からの距離を取りたいというのであれば、嘘を付くことになるのだから、あまり良い手立てとは思わないが。」

「いえ。虚偽で女生徒を退けるような話ではありません。覚えておられませんか。3年ぐらい前にお話です。」

「3年前・・・。」

「あ、もしかして、父さんが部下から、娘を兄さんに紹介したいと言っていた話の事。」

「そう。その時の話。」

弟の記憶力の良さに兄としては嬉しくなると同時に、3年前に父からの聞いた申し出に対して、あの時に誠実に向き合わなかった事に後悔した。

「あ。あの時の話か。」

「父上も覚えておられたのですね。」

「思い出したが。」

 嬉しそうに話をしている息子が持っている最近の悩みを知っているだけに、この婚約者候補の話に救いを求めているのは分かるが、思い出した今、それが救いにならない事を息子に伝えるのが心苦しかった。

「そのご令嬢がすでに婚約しているとかですか。」

「いや、婚約をしている事はないはずだ。そういう話をランドルフからは聞いたことはない。」

「ランドルフ殿!」

「ランドルフ殿のご令嬢だったのですか。父上、ぜひ。お話の機会を頂けるように、ランドルフ殿に。いえ、父上の許可を頂いた上、自分で挨拶に参ります。」

 その実力で平民から騎士爵の貴族になったランドルフの強さは群を抜いていた。元からの貴族出身であれば、近衛騎士団の団長クラスになれる実力を持っていた。ギルバード公爵直属の騎士達の中でもベスト3に入る強者であった。しかも、兄弟の幼少期に公爵邸を訪れて、何度も剣の相手をしてもらっていた。

「ランドルフの娘は6歳か、7歳のはずだが。」

「え。」

「3年前の話は、ランドルフが酒の席で、娘の可愛い盛りだと言っていた時の話で。その中で酒の席の話として出てきたものであって、正式なものではないのだが。」

 話の出どころは問題ではなかった。問題は令嬢の年齢だった。正式な結婚が11年先では婚約者候補にはできなかった。アランにとっては、暗闇の暴走の前に結婚して、後継ぎを授かる事が結婚条件の1つだった。36歳のランドルフの娘だから、16歳前後で少し年上だと思っていた。実際には、10歳以上年下の女性と結婚して、1人娘を得ていた。

「残念ですが、年が離れています。それに、いえ・・・。」

 形だけでも婚約者というのは不実である上、女生徒からの壁としての役割を担うのであれば、それなりの攻撃を受ける危険があって、7歳の少女に処理できるようなものではなかった。年上で父親の豪胆さを受け継いでいるような令嬢であれば、将来の公爵夫人にも、現在のパートナーにも不足はなかったが、それを期待するには若すぎた。

「そうだろうな。」

「エリック、そのご令嬢を紹介してもらってみては。」

「・・・兄さん、急にどうしたの?」

「学園に入学する前に婚約者がいれば、入学後に私のような事態にならないですむ。」

「兄さんみたいにはならないよ。兄さんは見た目だけで評価されている訳じゃあないんだから。」

「甘い考えだな。公爵夫人に重い責任を感じる令嬢だっている。そういう令嬢にしてみれば、次男であるエリックと結婚したいと考える令嬢の方が多いはずだ。見た目はほぼ私と同じで、愛くるしい可愛さだって持っている。間違いなく学園で女生徒に囲まれる事になる。それに、ランドルフ殿のご令嬢なのだぞ。」

そこまで女性に囲まれて、婚約についてばかり考えるように要求される事が嫌な事なのかと、疑問に思うエリックだったが、公爵家の跡取りと言う唯一の存在になっている兄には、兄の悩みがあるのだと考えて、意見をするのをやめた。

この後、弟思いの兄の演説に押されて、エリックとセーラがランドルフを訪問する事になった。


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