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公爵家物語(オズボーン家)  作者: オサ
2年生
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2年生 その28 魔法はない

28 魔法はない 


 学園の授業に、魔法学はなかった。

代わりに魔力学が存在していて、薬草学と魔道具学の2つに細分化されていた。4本足の魔獣の額に輝く赤い魔石が、魔力の結晶と言われていて、魔道具の核であり、魔道具そのものでもあった。

 様々な種類の属性を付与した魔石は、水を作り出したり、明かりを灯したり、調理の熱源になったりと、様々な分野で活用されていた。だが、その分野が兵器に及ぶことがなかった。魔石が魔力を放出する条件に、人間が体内に持っている魔力を魔石に注ぐ事があった事が、武器への転用を不可能にした。

 魔石を利用する研究から、人間の体内に魔力がある事は確認できたが、人間は魔力を体外に放出する方法を知らなかった。つまり、魔力を使用した魔法なる術は存在していなかった。

「種々の研究から、魔力は物質を媒体にして極少量を伝達する事ができるのは分かった。伝達する事はできるのだが、魔力を蓄える事はできない。もしかすると、何らかの方法があるのかもしれないが、現時点において、その方法は不明であるから、魔力は魔石以外に蓄えられる物質は存在していない。魔石が放出した魔力を再び蓄える方法も無い。」

350年前は盛んに行われていた研究分野であったが、今は発展しない学問になっていた。

「先生、屋敷の灯りは、部屋の入口の灯り盤に触れれば、魔力光を発しますが。どういうことなのでしょう。」

「灯りの魔石と灯り盤の間に、魔導線を通してあって、盤に触れる事によって微弱な体内魔力を魔石に流す事ができるのだ。」

 学園中等部1年生が学ぶ魔道具学の最初の授業の定番の質疑が繰り広げられていた。便利な道具の使い方は知っていても、その詳しい仕組みを知っている者は少なかった。その少ない人間の1人がアランで、かつて自分が通った道を、教師と同級生が通っているのを興味深い表情で見守っていた。

公爵家の次期当主として、模範学生である事を自らの課題にしていた彼は、この後に展開する話についても、興味があるような態度を見せる準備ができていた。

「先生、魔石を武器にする事はできないんですか。」

「できないな。炎を発する魔石が一番攻撃に適してはいると言われているが、強力な炎を発し続けるには、自分が触れていないとならないからな。敵を燃やすような火力を出すと、自分自身も燃えてしまう。」

「魔導線をつないでいればどうですか。」

「魔導線と呼んではいるが、単なる薄い鉄の板でもあるから、すぐに線を切られてしまうし、火力が強いと線が溶けてしまう。」

「分からないように隠すのはどうですか?」

「昔、炎の魔石を地面に埋め、魔導線を地中に埋めてという武器を開発しようと考えた方がいたらしい。それが、どうなったと思う?アランは分かるか?」

「はい。成功はしませんでした。魔導線の有効距離が25mであることが分かっただけでした。」

この実験をしたのは、オズバーン公爵家の5代目当主で、アランは家の歴史と共にそれを学んでいた。公爵家が魔獣狩りの第一人者であるという事は、魔石を自由に研究できる事と同義であり、現在の魔石使用に関する基礎技術を開発したのは、全て公爵家の関係者であった。特に7代目当主は過去の研究をまとめた書物を何冊も残していて、それが魔道具学の基礎になっていた。

「遠隔使用には限界があるが、新しい属性を発見する可能性はあり、魔石そのものの研究の余地はある。ただ、この分野での新発見は100年以上ない。研究者の多くは、魔道具の改良に取り組んでいるのが現状で、研究者と言うよりも職人に近いと言える。衰退している分野と言われているが、実際に私達の生活には非常に役立つ事であり、魔石そのものの価値は高く、この分野の学問を究める事にも価値はある。」

人気がある訳ではないが、生涯の研究分野に魔石の研究を選ぶ学者もいた。新たな発見がないため、研究者として失望した後は、昔からある道具の修理を仕事として、それなりの収入を得る事ができた。栄光を手にする事ができる職業ではなかったが、人生を鎮めてしまうようなリスクがある職業ではなかった。


 中等部1年上級クラスに在籍する第2王子と公子の美男子は最後列の席で並んで居た。アランとしては最前列で勉学に前向きな姿勢を見せたかったが、担当教員から最後列に座るように指示を受けていた。女生徒たちが公子の魅力で授業に集中できなくなるから、という理由を聞いた時に、担任が公子である自分に媚でも売るつもりなのかと邪推したが、そうでない事がよく分かった。

「アラン、公爵家では薬草学にも詳しいと聞いた。」

「はい。ジェイク様。」

「未だ習っていない所で聞きたい事があるのだが。」

「知っている事であれば、お答えできます。」

「強壮剤と回復補助剤というのは同じものではないのか。」

 中等部1年生初日の午前の授業が終了しているため、教室を出ていく事ができるが、女生徒たちは出ていかずに、ちらちらと2人に視線を向けていた。その熱のある視線にアランは焦っていた。自分が美形である自覚はあったし、公子という身分もご令嬢を引き付ける要因となる事は分かっていたが、日常生活の場で剥き出しの好意の視線を向けられたのは初めてであった。

「効果が違うので、別の薬です。ただ、原材料が同じで、製造方法が違うだけなので、同じ薬だと思う人も多いです。」

「そういった事を学ぶのはこれからだな。」

「はい。」

「午後は、活動の見学をするのが通例と聞いたが。アランはどうするのだ。」

「はい。いくつかの見学をする予定です。」

「そうか。で」

「アラン。」

 教室の入口で自分の名を発した赤髪の美女に視線を向けた時、一瞬だけアランは穏やかな雰囲気を感じ取ることができたが、それは一瞬だった。教室の雰囲気はピリピリとした緊張感に包まれていた。教室内の女生徒達の視線が、声の方に集まっていた。

グレーの制服に緑のラインが見えた事で、その女性が1つ上の先輩であり、赤毛のアランの姉である事は推測できたであろうに、敵意ではなかったが、好意ではない何かを含んだ視線を第2王子と公子の同級生たちは向け続けていた。

「姉上。」

 少し大きな声を発したのは、女生徒たちに姉であると認識させるためであったが、自分の声に反応してくれた弟に笑顔を見せて、姉が近づいてきた。

 アランにとって、学園初日の午後は重要な予定で埋まっていた。姉と一緒に姉のお弁当を堪能する事とその後に学園内を案内してもらう事は10日前からの約束で、最近の出来事の中で最大の楽しみであった。今までにも屋敷に残る兄弟にお弁当を作り置いてくれたことは何度もあり、お弁当の味は知っていたが、学園内で一緒に食べるシチュエーションは憧れであった。3日前には2人で学園内を歩き回る事を想像して顔を真っ赤にした瞬間をエリックに見られて、散々からかわれていた。

 そして、その楽しみの中に重要な任務があった。それは、昼食を共にするであろう6人組との対話だった。リリア嬢とキャロット嬢は公爵邸に遊びに来てくれたことがあったので特別気にする事は無かったが、男子3名の方は気にしなければならなかった。姉との関係を見定める必要があった。姉が3人に特別な感情を抱いていないのは分かっていた。王家とは距離を開けてきた公爵家の歴史は知っているし、カーニーなる女性の見た目を持った美少年とは出会いが最悪で、姉の勉強を見ているペンタスには婚約者がいた。

 だが、姉セーラに気持ちがなくても、その3人が姉を好きになるか可能性はあり、姉の魅力を考えると、それだけ近くにいる3人が魅了されている可能性があった。最初は恋愛対象ではなくても、思い続けられる内に、気持ちが向かう可能性もあるのだから、その点をしっかりと検証する必要があった。公爵夫人から、その点をしっかりと見定めるようにと命令されていたため、アランにとっても重要な任務であった。

 

姉が接近してきた。そして、女生徒たちの視線も一緒に近づいてきた。

 第2王子がアランに対して午後の活動見学を一緒にと誘うセリフの途中で姉が声をかけてきた。その流れから言えば、第2王子が公子を食堂で昼食を一緒という誘いが来るのも確定していた。同級生となった王子と公子が交流を深めるのは当然の事であったが、第2王子がケネット侯爵派閥の主であり、公子が宰相派である事を考えると、この行為は第2王子が自分の後見人派閥を拡大するための行動に見えた。

 そして、その動きを妨げるかのように姉セーラが登場したため、政治力学的に言えば、第1王子の同級生である第2公女が、弟である公子と第2王子の接近を遮った事になった。

 第1王子、第2王子の後継者争いに、公爵家としては介入する意思はなく、騒乱さえなければどちらが国王になっても問題は無かった。ケネット侯爵派との因縁がある以上、第2王子が王位を継ぐ事に手放しで賛同できなかったが、ケネット侯爵派が国内を混乱させるような政治闘争を行わないのであれば、第2王子の後見人としてある一定の政治権力を手にしても問題は無いと考えていた。

 だから、同級生である事を利用して、公爵家に敵意がない事を示すつもりではいた。ただ、初日は姉との約束を優先したいという気持ちがあったが、姉がここに登場した事で、第2王子のお誘いを断る事に政治的な意味合いが出てきてしまった。

 第1王子と第2王子のどちらを公子は選ぶのかという状況が作られてしまった。

「姉上、心配してくれて来てくれたのですね。今から、殿下と食堂で昼食を取って、その後に学園内の散策と活動見学をする予定です。」

 約束していた事を弟が忘れるわけがないのだから、何かの理由があっての発言だとは分かった。ただ、そこに政治的な配慮がある事には気付かなった。第2王子から誘われたから、断る事ができなかったのだとセーラは思った。

「そうだったの。」

 弟に一言で応じてから、もう1人の美青年に向き直って、セーラは淑女の礼を取った。王宮のパーティーで面識があったが、学園と言う新しい関係を築く必要がある場所で、初めて会った時にはしっかりと身分に合った挨拶が必要だとセーラは考えた。

「ジェイク殿下、ご挨拶が遅れた事、申し訳ありません。」

「セーラ嬢、そのように畏まらないでください。先輩にあたるのですから、気軽に話しかけてください。」

「はい。そうさせていただきます。」

「ところで、この後アランと昼食を一緒にする予定でしたか。」

「はい。もし、学園初日で友達ができないようであれば、と心配していましたが、その心配は必要なかったようです。」

弟を思いやる姉として、第2王子ジェイクに認識されたセーラは、笑顔のまま弟に対して、学園初日で困ったことはないかどうかを確認した上で、一緒に帰宅する事を約束して、教室から立ち去った。

ジェイク、アラン、セーラの3人の会話は、政治的には何の問題も起こさないで終了したが、同級生の女生徒達には別のように見えていて、その事がアランを悩ませることになるが、今の公子にはそれを推測する知識はなかった。

王子と公子が食堂に向かって教室を出て行くと、同級生達も食堂に向かって動き出した。学園は学びの場ではあったが、貴族達にとっては出会いの場でもあった。その事を事前に聞いていたとしても、学園初日の経験しかないアランには、それが分からなかった。


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