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公爵家物語(オズボーン家)  作者: オサ
2年生
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2年生 その27 2年生

27 2年生


学園中等部2年生になったセーラ・オズボーン公爵令嬢の目標は上級クラスの維持だった。1年生後期のテストで35位だった公女は、2年生も42人の上級クラスに配属されていた。いつもの6人組で学園生活を楽しめることは嬉しかったが、来年も同じクラスに配属される保証は無かった。この立場を維持する事が今後1年間のセーラにとっては大切な目標だった。

公女として生活を始めた時に願っていた母親や姉と同じような素敵な女性になるという妄想に近い目標はすでに取り下げていた。だが、娘としての成長を諦めた訳ではなく、見えてきた自分の現実から着実に一歩ずつ進んでいく道を選んでいた。

「セーラは1年前より背が高くなったわよね。」

「はい、お姉様。少しだけですが。」

「アランは、セーラと同じくらいになった?」

「はい、姉上。」

 公爵家の馬車には3人が乗っていた。グレーの制服に身を包んだアランが美少年から美青年に成長しつつあることにレイティアは目を細めていた。4歳違いの弟が生まれた時から見守ってきたのだから、大人に近づいた弟には喜びしか感じなかった。

 そして、もう1人の弟も成長の足を速めて来年には学園に入学する。気は早過ぎるが、来年兄弟姉妹の4人で一緒に学園に通う時間が楽しみで仕方がなかった。それだけに、寂しそうに3人を送り出した末弟を思い出すと少し切ない気持ちになった。

「お姉様、表情が変わって。何か辛い事でも思い出したのですか。」

「いいえ、辛い事を思い出したのではなくて、エリックが寂しそうだったのを思い出して。」

「エリックは姉上が好きだから。」

「え、そうかしら、エリックは私よりもアランの方が好きだと思うわ。」

「姉上。小さい時から。」

「アランの後ばかり着いていたわよ。」

「・・・セーラ姉さんは、どう思いますか。エリックは姉上の方をす・・・。懐いていますよね。」

 隣のアランに少しだけ視線を向けると、今までの1年間の事を思い出してみた。

「私も、アランの方に懐いているように思うけど。」

「そんな事はありません。エリックの理想の女性は姉上なのですから。」

「え。初めて・・・聞きました。」

「セーラ、私とお母様はそっくりでしょ。エリックはお母様が大好きで、その延長上で私の事を見ている所もあるのよ。小さい頃なんて、私にママって言いながら抱きついてきた事もあったわ。」

 第2初等学校発表祭の準備中に制服姿だった母親を、お姉様と何度も呼びそうになった事をセーラは思い出した。

「分かる気がします。アランも同じだったの?」

「アランにママと呼ばれた事も、間違えて言われた事もなかったかな・・・。」

「姉上は姉上、母上は母上で間違うことはありません。そもそも、今の姉上と母上なら見間違う可能性はありますが。小さい頃は姉上は子供で、母上は大人です。」

「そう言われれば。でも、今もお姉様とお母様を間違いそうになる事はないの?」

「ありません。」

「それって、アランはお姉様もお母様も良く見ているって事?」

「そう考えると、アランはエリックよりもお母様が好きって事になるわね。」

「姉上、親子なのだから好きに決まっています。エリックと同じくらい。」

「私の事も。」

「もちろんです。姉上。」

「アラン、私の事は?」

「セーラ姉さんの事も大好きに決まっています。2人共恥ずかしい事を言わせないでください。」

「私もアランが好きよ。セーラも好きだわ。エリックも好き、お母様もお父様も好き。恥ずかしくないけど。セーラはどう?」

「はい。お姉様も、アランもエリックも、お父様もお母様も好きです。」

 姉妹の方は恥ずかしがる様子もなく家族への愛を言葉にした。

「そんなに赤くして、どうしたの?」

「男子には恥ずかしい事なんです。」

「そう言う事にしといてあげるわ。もうすぐ学園に着くから。」

 真っ赤なアランが恥ずかしそうにしている様子が初々しくて、セーラはそれを楽しく思った。


 2年生になってから変わった事はたくさんあったが、大きく変化したものは、1年生の時にクラスの中で孤立していた6人組がクラス全体に溶け込んだ事だった。様々な要因が存在していたが、目に見える程の要因だったものは、軍事教練の授業が始まった事だった。

 1年生の時にはなかった軍事教練が始まった事で、生徒同士の関係と評価の中に武力という要素が入ってきた。公爵家の訓練で高い武力を身に付けるようになったと噂されていた第2公女の圧倒的な実力を前にして、彼女を庶民の娘と侮る同級生はいなくなった。正規の近衛騎士である教員と互角に剣を交える姿に感動する同級生も少なくなかった。

 1年前まで庶民として生きていた事が、セーラを侮る理由の1つであったが、剣技の実力者であるという事実が加わると、全く逆の要因となった。わずか1年間でこれ程強くなったのは、戦公爵の血を濃く受け継いでいるか、誰もできないような努力を重ねたか、その2つの答えしか導き出す事ができないのだから、セーラの評価を上げずにはいられなかった。

 2年生になって大きく評価を変えた者がもう1人いた。弟に劣る長男、実力も地盤も弱い第一王子でしかなかったコンラッドは、剣技の才を目覚めさせた。教員である近衛騎士に負ける事のない実力を備えていた。セーラと言う明る過ぎる星があったため、目立つ事はなかったが、2年生でこの実力を持つ者は歴代の王の中でも数えるほどしか存在していなかった。


 茶色を基調とした上下の服の上に、腕、膝下、胸、腰の四か所を守る皮製の軽鎧を重ねると、学園の訓練スタイルになった。魔獣を狩る国では、身分の高低に関わらず命をかける戦いに身を投じるため、戦いにおいて求められるのは実用性だけであった。戦士達が武具を整備すると言っても、そこに美しさが加わる事はなかった。

訓練場の一角にある弓術場の的が揺れた。赤髪の軽弓戦士の手から離れた矢が的の中央を貫いた。

「真ん中だよね。」

セーラを見つめていた女生徒9名が感嘆の声を上げた。鮮やかではない自分達と同じ軽装備のはずなのに、的を射抜いた少女の姿は凛々しく、とても美しくかった。キャロットとリリアは自分達はすでにその事を知っていた事を誇らしく思ったが、強さを間近で感じたのは初めてで、他の同級生達と同様に興奮していた。

「お手本を見せてくれたのね。」

「リリア、今のはお手本ではないわ。今の私の実力を皆に知ってもらいたかっただけなの。」

「??????」

「私が皆に教える事になるけど。それは、お母様やお姉様から教えてもらった事を、そのまま伝えるというだけの事であって、私自身が完全にマスターしたことを教える訳ではないの。」

「セーラも成長中だから、今のはお手本にならないって事。」

 リリアは女生徒の中でもダンスが得意であり、身体能力も高い方で、運動に関連する分野ではセーラと並んで中心になる存在だった。その彼女が皆を代表しての質疑応答役となった。

「そうではなくて、1人1人、目指す形が違うの。私たちは全員、身長も違うし、筋力も違う、この訓練における目的も違うわ。だから、私と同じ形を目指しても上達する訳ではないし、逆にうまくいかない場合だってあるわ。」

「それでは、私たちはセーラから、どんなことを習うの?」

「誰にでも共通となる大事な事と、その大事な事をどうやって自分の成長に活かすかの方法を教えるわ。具体的に練習を始めながらの方が分かりやすいと思うから。とりあえず、弓矢を持って、的の近くへ行きましょう。」

 男子生徒が近衛騎士の指導の下、剣を奮っている隣で、女生徒たちが弓術場の的場にどんどんと近づいていった。3歩進めば的に触れる事ができる距離まで来ると、セーラが振り向いて説明を始めた。

「弓の持ち方は最初に説明した通りで、矢を番えて引くのだけど、そんなに力を入れなくても大丈夫よ。」

「セーラ、この距離で練習するの?」

「そうよ。皆、それぞれの的の前に立って、3射してみて。」

「ちょっと待って、この距離だと、当たると思うけど。」

「リリア。大丈夫よ。この距離だと外れる事はないから。」

「ええ、それは分かるけど。練習になるの?」

「ああ、説明が足りなかったわね。確実に当たる距離で練習を重ねて、少しずつ距離を広げていくの。当てる練習をしないと上達しない。遠くから的を狙って、外す練習をしても意味がないの。」

理に適っている指導は、エリスが長女を幼少期から育成した過程で確立したものだった。弓術天下一と評される公爵夫人も生まれた時から実力者だったはずもなく、幼少期からの鍛錬で実力を養っていった。さらに、体の成長と共に自分の理想の形を変え続ける必要があったため、ただ矢を放つ訓練だけをしていたのではなかった。そこには自分自身を育成する方法の研究も必要であり、その研究の成果が天下一と言う評価につながっていた。

母娘2人の師が研究して磨いてきた精髄だけを注ぎ込まれたセーラは、弓術に関して頭脳も肉体も常人とは異なる速さで成長していた。

「全員、当たったわね。これから一番気を付けて欲しい事を言います。的を狙う時、的と両手の人差し指を結んでできる筋、線のようなものを意識する事が重要なの。的に当てるのではなく、その筋が一本に繋がった時、矢が当たるの。」

「その筋を作れるようになれば、姿勢とか、型とかは関係ないって事でいいの。」

「リリアの言う通りよ。姿勢が崩れていても、その筋を作る事ができれば当たるわ。」

 全員が教えを実践するために3射をした。当然、この距離で外す事は無く、それは誰にでも分かる事だった。外さない的を射る練習ではなく、的を外す練習をしない事が、公爵家が教える弓術の精髄であった。最終的な立ち位置は、個人の才能に左右されるのは間違いないが、初心者が自身の限界を見つけるための訓練としては、最適な方法だった。

「このまま訓練を続ける予定だけど、授業の訓練は厳しいものではないわ。強くなりたいのならば、午後の自由選択時間の軍事訓練に参加して、お姉様の指導を受けて。」

「授業では基本的な訓練をするという事?」

「基本的で、軽めの訓練しかやらない。強くなりたいのなら、こうなる事を覚悟する必要があるから。」

9人の同級生にセーラは右手の掌を見せた。誰かに傅いてもらう貴族の美しいだけの手ではなかった。鍛錬の中で、一部が変化している戦士の掌がそこにはあった。武具を扱う人間が、それを握りしめる間に身に着けた剣ダコを含んだ指がそこにはあった。努力の跡であり、その人間の良性の1つを示す勲章ではあるが、美しさとは無縁なものであった。

「目的が違うって言ったのは・・・。」

「ミレーネ先生がおっしゃったように、中等部2年生のこの授業は、貴族として、戦いがどうものであるかを知るためのものよ。これは戦士として身を立てるための授業ではないわ。それをしたいのであれば、専門で教えてくれる所で学んだ方がいいわ。」

 公爵家で生活をしていれば、女性が男性から守られるだけの存在であるという認識を持つ事はないが、イシュア国の一般的な貴族達でも、女性は守られるべき存在だった。他国よりも女騎士を目指す人間が多いのは事実だったが、その差は明確だった。

 女性の役割は屋敷を守り、男性がいつでも戻ってくるように準備をする事で、戻ってきた男性に与える事のできる安らぎの量が、貴族女性の価値だと考えられていた。女性戦士が喜ばれる貴族は、武門の家系と呼ばれる生粋の戦士一族ぐらいだった。

「よく分かったわ。授業がそういう方針であることは嬉しいわ。セーラのような手に憧れみたいなものもあるけれど。」

「そうよね。女性騎士として王宮で働いている方を見たことがあるけど、素敵だったわ。そういう方々と同じ手ですものね。」

「私は、小さい頃にその道を進みたいと言ったら、父に叱られたわ。運動もできないくせにと言われて悔しかったけど。今は自分の運動能力の無さに納得しているわ。それでも、こういう機会に、武器の扱いを馬なぐ事ができるのは良い事だと思う。」

庶民が1人1人異なっているように、貴族も1人1人が異なっていた。それぞれに共通した大事な何かがあっても、それ以外の部分は全く異なっていた。学ぶ事に価値があると考えている貴族が集まってくる学園ではあるが、何を学び、何を手に入れたいのかは全員が異なっていた。


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