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公爵家物語(オズボーン家)  作者: オサ
2年生
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2年生 その26 第2王子

26 第2王子


 ジェイク・ウェルボーン第2王子13歳は、イシュア暦366年4月2日に満を持しての社交界デビューをした。

 国内最大派閥のケネット侯爵を叔父に持ち、強力な後ろ盾を従える第2王子は、第1王子との後継者争いに勝つための道を突き進んでいた。侯爵の支援で王宮大広間でのデビュー夜会は贅を極めたものであり、前年の第1王子のデビュー夜会とは比べ物にならなかった。

 金髪と紫眼の美青年は、その容姿が優れているだけでなく、素直な性質と豊富な才能を有していて、実母であり第2王妃マーティナとケネット侯爵の厳しい指導を消化して、文武両道の天才児と評価を受ける人物になっていた。兄であるコンラッドと互角なのは剣技だけで、それ以外の分野では第2王子の方が優れていると言われていたし、実際に学園に通ってからの成績で、それが事実であると証明される事になった。

 長男に自動的に第一継承権を与える訳ではないイシュア国において、すでに後継者争いは終わっているとの認識を持つ者も少なくなかった。それでも、ケネット侯爵派が後継者争いに対して最大限の力を注いでいるのは、第2王子が王位を継いだ後の事を考えていたからだった。

 第1王子コンラッドは無能ではなく、善良と言える性質を持った人間であり、2人の弟に対して親切な兄に接してきた上、2人からも慕われていた。ジェイクが王位を継いだ後、兄を臣下として重用する可能性は高かった。叔父であるケネット侯爵派、甥である第2王子を度量のある君主になるべく育成していたため、王位を継いだ後に第1王子を粛清するような事はしない確信を持っていた。

それは第2王子にとって理想的な君主への道ではあるが、臣下となった第1王子が新派閥を作って、国内を実質的に支配するような力を持つ可能性があるとケネット侯爵は不安を持っていた。自分達が巨大な派閥を形成して、国を牛耳る動きをしているため、他者がそういう動きをするだろうと確信していた。

 第1王子自身が派閥形成に動くか、その下の人間が動くかは分からないが、こうなった時には、第2王子は新国王に即位した後に、反乱を起こされる可能性を否定できなくなると、ケネット侯爵派考えていた。将来の不安を除くために、第1王子を殺害する選択肢を考えたことはあるが、そのような事をすれば現国王は許さないだろう事は間違いなく、王家そのものが崩壊するよう事態に発展する可能性があり、権力基盤を整えたいが、敵対勢力を排除するという選択は取れなかった。

第2王子を優れた人物に育てる事が、ケネット侯爵の出した王位継承争いの戦い方になった。そして、第2王子が即位した時点で、政治勢力で圧倒的な差を作る事で、即位後の騒乱を抑止できる友考えていた。


 美青年が公爵家の前へ歩むと、黄色の華やかなドレスを纏った女性へ手を差し出した。王宮大広間の中央までエスコートすると、美男美女のカップルと言っても良い2人が華麗なダンスを見せた。ドレスと共に腰まで伸びた金髪が大きく広がり、2人の踊りに輝きを加えた。

「お母様、綺麗です。」

「去年の第1王子と躍った時と同じね。」

 第2王子と母親のダンスを見守りながら、姉妹は談笑していた。それに加わる事は無かったが、夫は妻の美しさに目を細めていた。

「でも、こういう場面では、お姉様がパートナーになるのでは。」

「いやよ。」

 言葉の途中で強烈な拒否の言葉を吐き出した姉は、水色の華麗で優しいドレスと対照的な鋭い視線を大広間の中央壇上にいる国王と第2王妃に向けた。

「怒っているのですか。」

「当然よ。私をデビュー時のパートナーに選ぶぼうとするなんて、どういうつもりなのかしら。」

「お姉様は。」

「私にはロイドが居るのよ。」

王子、王女がデビューする場合のパートナーは、婚約者がいれば婚約者の出番となるが、婚約者がいない場合は、公爵家からの人選が昔からの取り決めだった。国法で決まっている訳ではないが、王家とオズボーン公爵家は婚姻によって血縁関係を深めないという暗黙の了解があるため、公爵家の人間をダンスパートナーに選ぶ事は、王子、王女には婚約者がいないことを示す意味もあった。

ロイドと言う婚約者がいるからこそ、レイティアがパートナーに最適任であるのだが、ロイドを独占して、ロイドに独占されたいと願っている美の女神は、王家からの要請であっても同意する事はできなかった。

「・・・・・・。」

「お父様もお父様です。あのようなお話は、お父様の所で止めておくべきことだったのです。」

「ああ、そうだったな。次からは気を付ける。」

一般的には理不尽ではない事であっても、第1公女にとっては理不尽に見える事があり、それを姉が主張している時には、決して逆らってはいけない事を思い出したセーラは黙っていた。父ギルバードも、娘に特段甘いという訳ではなかったが、自分とは違った非常識を持っている娘には、退くべき時は引いた方が良いと理解していた。

「お姉様、今日の私のドレスはどうでしょうか?」

「そのオレンジ色のドレスも素敵よ。」

話題を変えたが、もしここで、なぜセーラにパートナーへの要請がなかった事を深く追求する事があれば、歴史は大きく変わっていたのではないかと妄想する者は少なくなかった。





36歳の公爵夫人と13歳の第2王子には親子ほどの年齢差があったが、2人を見ている貴族達は、その客観的な事実を改めて考えなければ、ただ美しい2人の若者がダンスを踊っている姿に見惚れていた。

 ダンスを終えた公爵夫人は、国王のいる壇上へとエスコートされた。国王と第2王妃は立ち上がって、拍手で2人を讃えていた。

「見事だった。」

「はい。父上。」

「公爵夫人も見事だった。」

「お褒めの言葉を賜りましたこと、公爵家の誉れといたします。」

「本当に見事です。」

 紫の妖艶さを感じされるドレスを身にまとった王妃マーティナは、2歳年上の公爵夫人の若々しさに見惚れていた。かつての筆頭侯爵家の娘は、社交界では双璧をなす大輪の花と呼ばれていた。公爵家の嫁エリスと公爵家の娘マーティナは、社交界を二分する勢力を作っていたと語られる事があるは、それは全くの虚偽だった。エリスは勢力を作るような事は何1つしていないし、マーティナ自身はエリスを敵として考える事は一度も無かった。

圧倒的な武力と美を持ったエリスと言う少女に初めて会ったその日に、マーティナはその信徒になっていた。そして、若々しい美しさを未だに持っているエリスを本当の女神であると考える程に、その信仰は深まっていた。

「王妃様からのお言葉、ありがたく頂戴いたします。」

「王子よ、席に戻るがよい。」

「は。」

 王家の3人を前にしている公爵夫人は純情な乙女のようにしか見えないが、その身に纏っている美しさは周囲の空間を支配していた。それは、極上の美しさに、最強の武が加わっていると皆が知っているからだった。

「息子のデビューに花を添えてくれたこと、感謝に堪えません。」

 第2王妃がわずかに頭を下げた。

「王妃様、公爵家として当然の勤めをしたに過ぎません。そのような事をなさっては・・・。」

「いえ、王妃ではなく、母として礼を述べたかったのです。」

「王妃様の謝意、ありがたく承ります。私の方こそ、楽しい時間を過ごさせていただいた事、素晴らしいご子息に手を取っていただいた事。感謝申し上げます。王家に誕生した獅子が健全にご成長されたこと、喜び申し上げます。」

 淑女の礼を王妃に向けると、満面の笑みが返ってきた。公爵家の嫁と筆頭侯爵家の娘の2人が、花と剣の争いの象徴であると貴族達に囁かれる事はあったが、2人の間に争いはなかった。

「ところで公爵夫人。ご令嬢の代わりにパートナーを務めたと聞いたが。」

 国王は慣例を無視して、王家と公爵家の血筋の交わりを望んでいたわけではないが、国を支える次代の若者が健全な交流を持ってもらいたいと考えていた。

「はい。本来は娘たちが務めるべきとは考えましたが、下の娘はダンスが大の苦手でございまして。殿下の恥となるような事になりかねません。それ故、辞退させていただきました。上の娘なのですが、勘違いしているというか、思い込みが激しいというか、デビューのダンスパートナーを務める事が婚約者に対する不実であると考えておりまして。誠に申し訳ありません。」

「いや。令嬢に王子たちが嫌われているのではと不安になっただけなのだ。学園では学友として同じ教室で学ぶ事もあるからな。しかし、宰相からレイティア嬢の思いの深さを聞いたことがあったが、そこまでとは知らなかった。今後は、王家の方でも気をつけよう。」

「ご配慮ありがとうございます。また、お耳汚しをいたしました。恥ずかしい限りです。」

「恥ずかしい事ではありません。思いを貫く姿勢、淑女として褒められる事はあっても、恥ずべき行為とは思いません。」

 第2王妃は公爵夫人との会話を楽しみたかった様子を隠さなかったが、公爵夫人は第2王子に祝意を述べたい貴族達にこの場を譲るために、御前を辞した。


 公爵夫妻と公女姉妹の元に、ケネット侯爵が挨拶をするために訪れた。公爵と同じ身長の偉丈夫は笑みを携えていた。

「先程のダンス、見事でした。また、第2王子のデビューに花を添えてくれたこと、感謝いたします。」

「感謝のお言葉ありがとうございます。」

 ケネット侯爵は派閥の長として、公爵家に憎しみを向けられる覚悟はあった。父である先代の仕打ちについては、息子である自分自身も嫌悪感を抱いた。特に、公爵夫人の両親が暗闇の暴走で亡くなった後、実家であるレヤード伯爵家を乗っ取ろうとした事は許しがたく、初めて父に意見した。

乗っ取りは成功しなかったが、それはケネット侯爵家の攻勢が弱まっている隙に、公爵家はレヤード伯爵家を一度廃絶させていたからだった。4年後に、エリスがレヤード家の形だけの後継者となって名前だけは復活させてはいるが、家名を大切にする貴族に対しては、これ以上ない嫌がらせをしたのは事実だった。

それなのに、公爵夫妻から、憎しみを含んだような視線を向けられる事は無かった。もちろん、好意的な視線を向けられるはずがなく、無関心とも思える視線だけを向けられていた。対話も必要最低限のものしか発生しなかった。

 無視されないだけましであると感じたケネット侯爵は、次世代の公爵家の人間とは、自分がではなく、自分の子供や第2王子たちとは友好的な関係を築いてもらいたいと考えていた。

「レイティア嬢は、ロイド殿と仲睦まじいと聞きました。」

「ええ。ですが、その仲を裂くような事を平気でする大人たちがいる事には憤っております。侯爵様には、我が父と同じような愚行をする事はしていただきたくありません。」

「肝に銘じておきます。」

 可愛い妹の息子のためのダンスパートナーは、貴族的常識から考えると、レイティアしかいなかった。2年連続で乙女的常識によってパートナーになる事を拒絶した公女については、貴族達の話題になったが、レイティアの純情さを示す微笑ましい話として扱われた。

 貴族の常識を覆すために、去年のレイティアは説得してくる宰相に食って掛かり、泣き喚きながら拒絶を勝ち取った。これは涙を武器にして、あの宰相を手玉に取った事を意味していて、政治的に言えば、涙1つと口先で貴族達の常識外の事を周囲に認めさせた実力を持っていると言えた。政治的に言えば、レイティアの行動は、微笑ましいものではなかった。

「ところで、セーラ嬢はダンスが苦手だと伝え聞いたのですが。新年の生誕祭では、アラン殿と見事なダンスを見せてもらったのだが。」

「え、あ、あれは。」

「娘を馬鹿にするつもりで、ここに来られたのですか。」

「とんでもない。公爵夫人。セーラ嬢には不躾な質問をしてしまった、許して欲しい。」

「侯爵様が謝罪するような事ではありません。ダンスが苦手なのは事実ですし。あれはアランと完全に息があったからできたのであって、他の方とはあのようには踊れません。」

「そうでしたか。」

公爵夫人と姉令嬢の機嫌を害しただけの会話に反省しながら、ケネット侯爵はその場を離れていった。

この時、ケネット侯爵は、セーラ嬢が公爵夫人に愛されている事を実感した。そして、一度は断られたセーラ嬢とのダンスパートナーを、もっと頼んでみれば良かったと後悔した。第2王子の婚約者として発表する事になっても、その方が良かっただろうと考えた。

第2公女は庶民出の娘ではあるが、母親が貴族籍を取り戻したため、厳密に言えば庶民出ではなかった。何よりも公爵家で愛されているのは間違いなく、その価値は貴族籍以上のものだった。特に、公爵夫人が第2夫人の称号をセーラの母に与える事を認めた事は、過去にどのような思いがあったにせよ、新しい娘への愛情を示すのに十分だった。その公爵家に愛される娘を第2王子が娶る事ができたら、その後ろ盾にケネット侯爵家だけでなく、オズボーン公爵家が加わる事となり、最強の布陣になる事は間違いなかった。

王家と公爵家の婚姻はタブーとして認められない事が最大の壁ではあるが、セーラ嬢が一度第2夫人の実家の籍に移ってから、王子と婚約するという抜け道が存在していた。公女ではなく男爵家令嬢と格落ちではあるが、その直後に王子妃になれるのだから、セーラ嬢に不利になる事は無かった。

そういった抜け道がある以上、セーラが政治的なカードとしての価値は極めて高く、本来対立軸に居るオズボーン公爵家とケネット侯爵家の懸け橋になる力を持っていた。


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