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公爵家物語(オズボーン家)  作者: オサ
1年生
23/198

1年生 その23 新年の宴

23 新年の宴


 イシュア暦366年1月1日、建国誕生日に指定された新年の日に、国王自身の誕生祭が実施される。

国王は国そのものである、という第7代国王の宣言と共に、歴代王の誕生日が1月1日に固定される。もっともらしい建前を国民も支持していて、それを信じているが、実際には1月15日の自分の誕生祭と新年祭を続けて実施するのが面倒だと、国王が思ったからの措置である。


 現国王ブレッド・ウェルボーンの開会宣言と共に、王宮の大広間での祝宴が始まった。王座の左右には3つずつの席が用意されて、右側に3人の王妃、左側に3人の王子が並んでいた。

 大広間に集結した貴族達は、左右の列に別れていた。左側の最前列が公爵家の定位置だった。

「お父様とお母様のダンスは初めて見ました。素敵です。」

 上位貴族の夫妻の7組がダンスの一番手で、公爵家の青と赤の2人が一番注目を浴びていた。

「そうね。私とロイドのダンスも見ておいてね。」

「はい。お姉様。」

 淡いピンク色のドレスと淡い青の礼服の男女が2番手の組で登場した。公爵家の長女と宰相家の孫の2人も、次世代の国の中心人物という事もあり、見た目の美しさ以上に注目されていた。周囲の浴びている第1公女は、愛する男性とのダンスを楽しんでいるだけであったが、見ている側にとっては、2人が単なる思い出を作っているだけであるとは思わなかった。

「緊張している?」

 華麗なダンスを披露した母親が、オレンジ色のドレスを纏い、凛々しい美しさを周囲に見せつけている、第2公女の顔を覗き込むようにして話しかけた。

「大丈夫です。」

「私が一緒に踊るから大丈夫です。任せてください。」

 隣にいたアランは、母親を安心させるためだけに言葉をかけた。姉セーラが緊張を解く事は無いだろうし、緊張して身動きできない方が良いと考えていた。

誕生祭3番手の組でセーラのダンス披露要請が届いた時、血の気の引いた娘の表情に母親が取り乱した。だが、その要請通知には救いの道も記載されていた。社交デビュー前であるが、2人の公子アランとエリックの参席も許可する旨の記載があった。

「セーラ姉さん、行きましょう。」

「はい。」

 返事をした瞬間、大広間がどよめいた。それは、セーラの登場にではなく、国王が第二王妃の手を取って3番手の組に登場したからであった。毎年恒例の3番手の登場に対してではなく、第二王妃の手を取った事に対してであった。

「姉さん、何も考えず、何もしないでいいから。」

 頷いたセーラは、弟に全てを任せた。脱力したまま、ただ立っている事が、失敗を引き起こさない唯一の方法だった。自分から動こうとしなければ、足を踏みつける事も、ステップを間違える事もなかった。もちろん、それではダンスにはならないのだが、アランの力技でセーラをコントロールして、踊っているように見せかける事はできた。

 無心で何もしない技術を身に着けたセーラは、踊りもどきをしている間、急に周りの様子が見えてきた。ただ一人の真っ白な礼服の国王は、美男子ではないが、整った顔立ちで年齢に見合った男らしさを感じさせた。第一王子と似ているかもしれないと思って眺めていた時、淡い紫のドレスをまとった妖艶な第二王妃の視線が自分に向かったのを感じた。その視線に鋭さを感じたのは錯角かと思う程一瞬のことで、その後に、自身を貫くような威圧感を感じる事は無かったが、それはセーラの錯覚ではない事は後に判明した。

 三番手の組が終わって緊張感が一気に緩和された公爵家の面々は笑顔で歓談を始めた。

「セーラ、良くやりました。」

「はい。お母様。」

 何一つやらない事で失敗しなかっただけだが、間違いなく今年最大の危機から脱出した安堵感をセーラは得ていた。


 安堵感に包まれた一家の中で、冷静さを持って周囲に視線を送っていた人間が二人がいた。

「ロイド兄さん、聞きたいことがあるのだけど。」

「何だい。ケネット侯爵家は向こう側にいるから、何を聞かれても問題はない。」

 唯一ダンスをしていないエリックが、この場で聞きたい事が、政治絡みである事はロイドにも理解できた。社交界デビューが認められた公子達には、今以上に政治について学んでもらわなければならなかった。政治権力を強大化して、自身の栄誉を守るためではなく、他家が政治権力を手にして、国を誤った方向に進ませないようにするために、政治権力の重要な部分を握らなければならなかった。

「僕やアラン兄さんが、参席できたのは、セーラ姉さんのため、だなんて事は無いよね。」

「それはない。分かる?」

「第一王子だけ参席するのを防ぐためだよね。」

「そうだ。」

 第二王子のデビューは今年の四月で、慣例で言えば、第一王子のみが参席するはずだった。そして、それに合わせて今回の生誕祭の公務を担当するのが第一王妃という事になれば、新年を祝う王国最大の宴で、第一王子が後継者として認められたような構図を貴族達に見せる形になった。

 それを避けるために出席者の年齢制限を二歳下げて、第三王子も含めて王子全員が出席できるようにして、それに伴って三人の王妃も揃って出席できるようにした。その余波で、公爵家の2公子も参席が認められた。

「侯爵派の力って、そんなに大きいの?」

「大きいよ。お爺様は慣例と違うからと、かなり強く反対したみたいだけど。」

「どんな理由で押し切られたの?」

「理由なんてない。それでも押し切られたのだから、ケネット侯爵家は大きい力を持っているんだ。周りにいる貴族達も多いから、お爺様も、陛下でさえ無視する訳にはいかない。」

「第二王妃様と陛下とダンスを踊ったのも、大きい力?」

「それ以外にない。」

 王国の第一から第三の王妃の立場は、結婚した順番が違うだけで、制度的には同格の存在だった。しかも、それぞれ一人ずつ王子を出産している事も三人を平等に扱う理由だった。だが、王妃たちの後見人でもある実家の持っている権力基盤には大きな差があった

第一王妃は子爵家の出で、この子爵家は政治的な勢力をほとんど持っていなかった。そこで、宰相が第一王子の後見的な立場にいて、貴族間の力バランスを調整する役目を担っていた。

第二王妃は筆頭侯爵のケネット侯爵の妹にあたり、第二王子は侯爵から全面的な支持と支援を得ていた。先代侯爵のような強引な行動はしないが、第二王子を王太子にするための根回しは着実に行っていた。

第三王妃は、騎士爵家の出で、もとは第二王妃の侍女であった。第二王妃の妊娠中に国王に宛がわれた女性で、第三子を妊娠した事で第三王妃の座を得た女性だった。第二王妃に対しての忠義を持っていて、第二王子派の一部であった。第3王子派閥は存在せず、両派閥に属さない貴族達が、勝手に第3王子派を名乗る事はあるが、実態は何もなかった。

「ここでアピールしなくても。大勢は決まっていると思うけど。」

「最後にどうなるかは分からないから、大勢は決まっていても、警戒する者は警戒をする。今夜、第1王妃様、第1王子様と陛下だけが壇上に居た場合、ケネット侯爵派の貴族の中には、もしかすると、第1王子を後継者に指名するかもしれないと、動揺する人間が現れる。動揺した人間はどうなると思う?」

「侯爵派閥から宰相派に乗りかえる。少なくとも、そういう動きをする者が出てくる。だから、ここで無理をしてでも、今の状況を作った方が、良かったって事?」

「侯爵または派閥の会議が、そう判断したのだろうな。第2王子様を参席させる無理を通した事で、侯爵派の力を見せる事になる上、陛下が第2王子のために慣例を破ったという事実は、侯爵派の士気を高めるだろう。」

「うちは巻き込まれないかな?」

「うーん、私自身が宰相家とのパイプ役になっているからな。ただ、王家の後継者争いに公爵家を介入させない、巻き込まないというのが、我が国の暗黙の了解になっているから、大丈夫だと思う。何か、気になる事でもあったか。」

「気になった事と言うか、今までもそうだけど。セーラ姉さんと第一王子は、学園でいつも一緒にいる事が多いから、その、えーと。」

「あ、う・・・。」

 赤いドレスの美女が周囲の気温を下げながら自分達の背後に立っていた。その事に気付いたロイドは口を閉じた。

「エリック、ロイド。セーラの名前が聞こえたけれど。何のお話をしているのかしら。」

「エリス様、私は何も言ってはおりません。セーラ嬢の事は。」

「エリック。」

「お母様、セーラ姉さんが、学園でコンラッド殿下と仲良くしているという話を聞いただけです。その事をロイド兄さんに伝えただけです。」

「その話は、私も知っています。ですが、エリックが言いたかったのは、セーラと殿下がただの同級生ではないという事なのでしょう。そういう話があるのですか。具体的に何が合ったのですか。」

 そう質問しながら灰青の瞳が、娘の大切な恋人を睨みつけた。その視線を追いかけるように、エリックがロイドの方を見ると、ロイドは自身の情報網から、2人が特別な関係にあるような事実はなく、6人の仲良し同級生であると伝えた。

だが、今後は、仲良しという言葉に何かを感じた公爵夫人は、ダンスから戻ってきたセーラに直接問い質す勇気はなく、代弁者としてロイドが学園での様子を聞くという形で、セーラと第1王子の間に、恋愛に関係する何かがない事を証明した。

それに納得した公爵夫人は、初めて生誕祭に参加したセーラが、感動した事を語る様子を見ながら、公爵邸に来てもらって良かったと考えていた。


 10番手の組のダンスが終わると、会場に飲み物が運ばれて来た。国と国王の生誕に対する祝いの言葉を捧げて、乾杯の音頭を取る事は貴族にとって名誉なことで、ほとんどの場合、ギルバード・オズボーン公爵が担当したが、今年はケネット侯爵が声を上げた。

 軽食のテーブルも用意されて、歓談の場へと変わった大広間では、権力闘争が発生しているらしいが、公爵家だけは別だった。

 第一王妃と第一王子が公爵家との歓談に訪れた。

「コンラッドと仲良くしてくれて、ありがとう、セーラ嬢。」

「はい。私の方こそ、仲良くさせていただいています。」

同じ赤髪で赤い瞳の第一王妃ブリトニーから向けられた柔らかい雰囲気と対話は、セーラに心地よいものであった。

「殿下、娘のセーラが、いつもお世話になっております。未熟な所もありますので、無礼な事があってはいけないと危惧しております。」

「無礼なことなどありません。公爵夫人。」

女神と称される美しさは間近に立ってみて確認できたが、ドレスの赤と同じような警戒感を向けられているようで、丁寧な対話の中に穏やかではないものをコンラッドは感じていた。

 公爵家の面々を冷静に見つめる事ができるロイドは、公爵夫人が第2公女に近づく者全てに警戒すると勘違いしていた。しかし、実際には、セーラが恋心を持った男性であれば、誰でも受け入れる決意は持っていて、セーラが恋愛上の興味を持たない相手だけを徹底的に排除する方針だった。

公爵家の令嬢として、セーラが政略結婚の対象になる事は理解していた。公爵夫妻が反対であっても、その申し込みは、相手方の自由であるため、公爵家として完全に遮断する事ができなかった。だから、娘が興味を持たないのであれば、それは事前に潰すように動かなければならないと公爵夫人は考えていた。

その考えを持った公爵夫人とセーラ嬢の関係についても、注意していかなければならないとロイドは身を引き締めていた。この一家は誰よりも強く、優れているが、どこか脆い所があるようにロイドには見えていた。そして、その脆さを補修するのが、自分の役割であり、レイティアのためになる事だと考えていた。

第一王妃と第一王子が公爵家から離れると、ロイドはサポートするために後について貴族間を回ろうとした。すると、レイティアが腕を絡ませてきて、2人の王族と一緒に貴族間を回る事になった。侯爵派かどうかに関係なく、歓談の輪に入っていくレイティアの援護をありがたく受けながら、ロイドは祖父から命じられた、第1王子派としての役目を果たす事に成功した。


公爵家だけの空間ができると、アランは父親に話しかけた。

「父上、学校改善の件について、ここで話をしてもよろしいでしょうか。」

「公爵家に歓談しに来る所はないみたいだから、構わないが。ロイドがいなくてもいいのか?」

「はい。すでに話をしています。」

 公爵からも頼りにされている将来の義兄と姉の背に視線を向けてから、公爵家は家族会議へと移行していった。

「良い改善策が見つかったか。」

「はい。3月末と9月末に、学校で祭りをしようかと考えています。」

「豊作祈願祭や収穫祭のようなものか。」

「それに近いものです。」

「兄さん、この間のお茶会みたいな感じになるの?」

「それとは違う。王都以外の町で行われているようなお祭りと同じようなものを想定している。セーラ姉さんから聞いた、街の祭りの様子が近い。出店があって、皆で町の広場に集まって楽しむような。」

公爵家が貴族らしからぬ生活をしていると言っても、庶民の生活そのものをしているのではなくて、兵士と同じような生活をしていた。そういった貴族と兵士の中間の生活の中に、庶民の生活知識を持ち込んで、公爵家に新しい思考を持ち込んだのがセーラだった。

「そういう祭りというのであれば、学校ではなくて、王都全体で豊作祈願祭や収穫祭を大々的に行う方が良い気もする。」

「父上のおおせの事、私も最初は考えて、兄さんに相談しました。」

王都の住民の大多数は庶民ではあるが、国中の貴族達が屋敷を構えている貴族の街でもあって、貴族を中心にお金も人も動いていた。4月から6月、11月から翌年の1月の社交シーズンと生誕祭に最もお金を使う貴族達が、新たな祭りにお金をかける保証はなく、商人たちも、その後に来る社交シーズンの準備もあり、祭りに参加しない可能性も考えられた。

実験的に実行する以上、王都全体に広げる事はリスクが大き過ぎた。

規模が小さくて、公爵家の支援を得られる学校での開催であれば、それなりの盛り上がりを作る事はできた。それは見た目上の成功を演出する事はできるが、第2学校が利益を得るという本質の部分での改善策には不十分だった。

「単なる祭りでは、学校の運絵にプラスにはなりません。そこで、学校の生徒や、学校を出たばかりの者たちに出店などを出してもらいます。彼らは仕事に就いている者もいますが、学校を出たばかりの者は、見習いのようなものです。そういった者達に出店を開いてもらいます。彼らに祭りで売る商品を作ってもらう事も考えています。」

 若者たちの就職については、ギルドの商業部門が職業訓練学校などで支援を行っているが、一人前に成長するためには一定期間は見習いとして雇ってもらう必要があった。その見習い期間の雇用は利益が出にくく、小さな規模の商人達には、新規雇用をする事は大きな負担になっていた。

人が集まる王都全体が豊かさを感じさせる都になっていないのは、若年層の労働者の就職率に低さが原因だった。職人として経験を積む機会が少ないため、若い技術者が育ちにくかった。

「学校のお祭りでは、見習いの職人が作ったものを安価で販売して、各種サービスを定価よりも安く提供します。若者たちの経験を積む機会にするためです。それに、買う側も2級品を安値で買えるとなれば、それなりにお金を落としてくれると思います。うまくいけば、若年層の収入が少しかもしれませんが、増えます。」

 将来を担う若者達が、自らの可能性を広げる何かを成そうとするのであれば、その後押しを全力でする事が父親の使命であると考えた公爵は、次期当主に予算額も含めて、全権を任せることとした。


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