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公爵家物語(オズボーン家)  作者: オサ
1年生
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1年生 その2 廊下にて

2 廊下にて


 イシュア国には、2つの公爵家がある。

 1つは北の公爵家と呼ばれ、王都の政治には全く関わらない。もう1つのオズバーン公爵家は、王家に次ぐ権威をもっているが、単なる世襲で継いできたから権威を得た訳ではなかった。

 この国には、魔獣と呼ばれる四つ足の化け物を生み出す「巣」と呼ばれる地下構造が多数存在している。そのため、かつては魔獣だけが蔓延る土地だったが、その魔獣を退治して国を開いたのが、現王家とその盟友だったオズボーン家である。

 魔獣を退治する事で開いた国ではあるが、巣そのものを消し去ることができないため、常に魔獣を退治し続ける必要がある。その魔獣退治を生業として、軍部を取りまとめているのが、オズボーン公爵家であり、当主が戦公爵と呼ばれる所以でもある。

 物語と歴史を動かしているのは人間だが、イシュア国においては、魔獣が歴史を刻んでいる。


「1階が使用人の部屋や娯楽室とか、皆の生活の場所。」

 元気な美少年エリックの説明。

「はい。」

 玄関の大きな扉が開いた後、屋敷にエスコトートされながら、歩いてきた間、セーラは驚いたまま、「はい。」としか答えていなかった。

 王宮に次ぐ公爵邸は、とにかく大きい。そして、広い。玄関の大扉を開いて入ったエントランスホールは、巨大なパーティーが開催できる規模であり、セーラは4か月前まで働いていた食堂がいくつ入るのだろうかと考えようとしたが、その大きさに途中でやめていた。

「いつまで手を取っているつもりなの?」

「2階に着くまで、階段は危険ですから。」

「ぷっ・・・。お嬢様が嫌でなければ。このままでもいい?」

「はい。」

 2階へと上がると、そっと手を離した兄弟を冷静に見る事ができるようになったセーラは、兄弟である2人が庶子であり、一家の異分子であるセーラと言う庶民を受け入れる意思を持っているのを感じた。それと同時に、母であるミーナの存在が公爵家にとって、大きなものであるという、セバスチャンやレイティアが語ってくれた事情が真実であることを理解した。

 公爵ギルバート、公爵夫人エリス、その公爵夫人の侍女ミーナ、その3人がどのような感情を持っていたのかは、セーラには分からなかった。ただ、その3人の関係の中で生まれたセーラという存在を、公爵家の子供達がすでに受け入れている事だけは認識できた。

「ここが僕の部屋、この先の扉は、浴室への入り口で、その向こうの扉が兄さんの部屋で、その向こうが浴室の入り口で・・・。僕の部屋を見る?」

「はい。」

「え、見るの?部屋への案内が先だと思うけど。」

「そうね。セーラの部屋へ案内してからね。」

「あ、はい。」

 扉の向こうにある部屋の大きさを想像しながら、ただただ驚いていたセーラに微笑みを見せながら、姉はエスコートのために手を差し出してくる。

「エスコートなら、私が。」

「アランはさっきしたでしょ。」

「そういう問題では。」

「問題はないでしょ。それにここからは私がセーラの部屋を案内するから。あなたたちは自分の部屋なりで休んでいなさい。」

「えー、僕も案内するよ。」

「エリック、女性の部屋なのよ。部屋の隅々まで説明したり、見て回るのよ。」

「だめなの?」

「だめに決まっているでしょ。肌着だって確認してもらうんだから。」

「目の前で着替える訳じゃないでしょ。」

「エリック、そういう問題じゃない。失礼だろ。」

「別に、肌着だけを見たところで、問題はないと思うけど。洗って干してある肌着なんて、いつも見ているし。」

 幼い弟、紳士たろうとする兄、まとめ役の姉、そんな3人の会話を聞きながら、セーラは少し表情を曇らせた。そして、3人にそれを見られたことに気付くと、視線を床に落とそうとした。

「手を取って、セーラ。」

 姉の青い瞳の色がキラキラしていると思いながら、左手を上げようとする。

「僕たちは自分の部屋で休んでいる。その前に。これから、セーラ姉さんって、呼んでもいい?そして、できれば、名前だけで呼んでもらいたい。弟だから。」

 瞬時に返事ができなかったセーラは、大した時間が過ぎてもないのに、長時間自分が固まっているように錯覚した。

思考が停止していた。

 公爵の娘として認知されたとしても、それだけで公爵家の娘として評価される訳ではない。血のつながりがあると言われても、公爵邸で生活した事もない自分が、娘として、妹として、姉として受け入れてもらえるまで、どのくらいの時間がかかるかは分からない。そう考えていたから、自分は庶民であり、公爵家の人々と身分の差がある事を自覚して、馴れ馴れしい態度をしないようにと決めていた。

 1年前には母娘が、昨夜も家令セバスチャンが、公爵家の娘として受け入れる事を約束してくれていたし、それは信じても良い事だとは思っていた。ただ、1年前に自分が言い放ったように、会ったこともない人を家族には思えないし、一緒に暮らす時間が存在しなければ、家族になれないと考えていた。血の繋がりよりも大切なものがある事を、セーラは食堂のおじさんとおばさんから学んでいた。

「私も、セーラ姉さんと呼ぶし、アランと名前で呼んで欲しい。レイティア姉様は、3人ともレイティア姉様と呼ぶこと。そう決めた。」

 セーラに満面の笑みを向ける。本人は、次期当主としての威厳を持って話をしているつもりらしいが、姉の興味を引きたい弟の1人であるようにしか見えなかった。セーラは玄関で会ってからずっと、緊張の色を見せていた兄の方の表情が、弟のエリックのように柔和なものに変化した事に安堵感を覚えた。

「分かりました。」

「セーラ姉さん、丁寧な言葉遣いをやめてとは言わないけど。普段使っている口調で話をしたいし、してもらいたい。ただ、慣れてくれば、自然に・・・。あ、そろそろレイティア姉様の手を取って、自室を案内してもらって。エスコートを無視されている騎士のようで、可哀そうだから。」

「あ、すいません。レイティア、姉様。」

「では、お嬢様、ご案内いたします。」

 新たな姉妹の背中を見つめた兄弟は、しばらくして視線を合わせると、何やら声を潜めて話をしていた。その背後に、セバスチャンが立っている事に気付くまでには、しばらくの時間がかかった。




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